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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第五章
53/110

カジノにせまる影2

 ケモノ耳マフィアさんたちに招待状を渡されてから、一日、二日、三日――、

 あっという間に日は過ぎ、約束の日が来てしまった。


 今日は、銀行として営業しているここ――教団のモーラ支部から、黒鳩亭にむかうことになっている。


「……はあ」


 オレのため息は底抜けに重い。

 裏社会の人たちとの会合なんて断りたいけど、アテナさんが行くっていっちゃったもんな。

 それに里と教団の大事な収入源は教祖のオレが守らないと――。


 う~ん。でも……やっぱり気が重い。


 オレがもう一度ためいきをつこうと息を吸い込んだとこで――、 

 女神さまの声が背後から響く。


「ヨシトさん、用意はできましたか?」

 

 オレがおっかない場所に行く理由を作った本人の登場だ。

 せめてイヤミの一言でも言ってやろう。

 

 ――そう思って、ふりかえったオレの目に予想外の光景が飛びこんできた。


「ほえっ?!」


 オレの口から間抜けな声が漏れたのも無理はないだろう。

 そこには、ドレスアップした美少女(アテナ)さんのお姿があったのだから――。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 アテナさんがまとっていたのは肩と首をあらわにしたドレスだった。

 長めのスカート部分にも深いスリットが入っていて、ちらちら見える太ももや白い足がまた色っぽい。

 お顔のほうも化粧(メイク)をばっちり決めている。首飾りに耳飾り――装飾品の輝きが持ち主の美と引き立てあっていた。

 元が美少女だけに着飾ったときの破壊力はすさまじい。

 本来の女神モードにかなり近づいている――神々しいまでの美しさだ。


 ごくり――、

 突然見せられた美少女の艶姿にオレののどが鳴る。


 ……あの……どうして、そのようなお姿におなりになられて? 


 驚かされたオレは、つい妙な敬語で話しかけてしまう。

 

「黒鳩亭は高級店ですから、それなりの服装で行く必要があります。くわえて言えば因縁をつけてきた相手との対決ですからね。女の戦闘服を着ないでどうします?」


 アテナさんは、そういって不敵に笑った。

 う~ん。あいかわらず最初から好戦的だ。

 こっちの寿命が縮むから、あんまりこわい人たちを挑発しないでほしいんだけどなあ。


 それに、アテナさんがおめかししてくってのに、オレはこのかっこうでいいのだろうか?

 もう慣れてしまったけど、獅子の毛皮ってのは少々かぶきすぎのような気がする。

 オレは『かぶき者』を名乗るには役者不足――捕食者(ライオン)の毛皮を着てても中身は社畜なのだ。

 ちょっと心配になる。


 だがアテナさんはあっさり首を横に振った。


「その毛皮が教祖(あなた)正装(トレードマーク)ですよ」


 葬式にも結婚式にも使える学生服みたいなもんか? 

 ちょっといやだな。毛皮(これ)がユニフォームって。


 ……でも、アテナさん、着替えるのがずいぶん早くありませんか? 

 招待されたのは夜――なのに、まだ夕方にもなってないですよ?


「いいのです。理由がありますから。それよりまず、着飾ったレディに対して言うべきことはありませんか?」 

 え? なんでアテナさん、そんなふつうの女の子みたいなことを? 

 きょとんとしたオレに、アテナさんはさらに問いを重ねる。


「……ヨシトさん、今のわたしは魅力的ですか?」


 そう言うとアテナさんは、するっと近づいてきた。 

 美少女の急接近に、オレがドギマギさせられていると――、

 アテナさんはオレの手を取る。

 

「……ずいぶんと冷えています。今日の会合が恐ろしいのでしょうね?」 


 いや、体温だけじゃない。

 アテナさんは口にしなかったが、オレの震えまで感じ取ったようだ。


「え、ええ。それはもう。オレはただの一般人ですから」


 と、正直に言ったオレの手に自分の手をそっと重ね、アテナさんはいう。


「すみません。ヨシトさん。しかし、これも教団に必要なことなのです」

 

 それはわかってます。アテナさんが動くときには、いつもちゃんとした理由がある。

 たとえ理由を教えてくれなくても、その点は信じられます。  


 ……ただ、信じられてもこわいものはこわいんです。

 

 オレの本音にアテナさんはくすりと笑う。

 いつもの冷徹な笑いとはちがう。外見そのままの少女っぽくて、かわいらしい笑いだ。

 そして、その魅惑的な笑みを浮かべたまま、オレにこう言った。


「ありがとうございます。ヨシトさん。そこまで信頼してくれて……。そのお礼といってはなんですが、少し度胸をつけてさしあげます……」

 

 え……度胸をつける? なんのことです? 


 アテナさんはオレの問いに答えず、顔をゆっくり近づけてきた。

 じっと注がれる視線――紅く染められた唇が誘うように開いている。


 これって、つまりキスしろってことだよな? いや、でも、しかし――、


「もう、あなたは本当にヘタレですね」


 ためらうオレのえりくびがつかまれ、強引に顔を引き寄せられた。

 レディにあるまじきふるまいをしたアテナさんは――その果実のような唇でオレの唇を奪う。

 

 ……あわわわわわわ!


 パニックを起こしかけたオレの唇を、アテナさんの冷ややかで艶やかな唇がついばんでいく。

 その絶妙な感覚がオレを混乱から引き戻し、代わりに欲望の渦のなかへたたきこんだ。


 ……ええい。そっちがその気なら!


 アテナさんからの口づけにオレも応える。主導権を握り返すように今度はこちらからキスした。

 見せつけられた艶姿に興奮していたせいで、むさぼるような口づけになっていく。 

 そこで一度、顔を離し――高ぶった気持ちのまま抱きしめると、柔らかな胸の量感が二人の間でつぶれ、その感触に欲望がエスカレートさせられる。


 そして、これは香水なのだろうか? 

 あらわになった首筋や肩から甘く切ない香りがただよい、オレの鼻腔をくすぐった。


 ……うわ。もうたまらん! 


 オレは再び、いささか乱暴に美少女の唇をうばい、舌を侵入させて、蹂躙する。 

 完全に発情しきってしまったオレをアテナさんは止めるかと思いきや――、 

 アテナさんはオレに、しどけなくもたれた姿勢でささやく。

 

「ドレス……できるだけ汚さないように……してください」

 

 その言葉に理性が吹き飛び――、 

 オレはドレス姿の女神さまを抱き上げ、寝室に運んでいく。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 

 気づけば、あっという間に夕方だった。

 なるほど。これを見越して早めに着替えたのか……。

 さすがアテナさんだ。配慮にすきがない。 


 ――そんな女神さまに勇気をいただいたオレは元気いっぱい宣言する。


「それじゃ行きましょう! 裏社会がなんぼのもんですか!」


「……色気で釣ったわたしが言うのもなんですが、あなた本当にちょろいですね」

 

 そんなオレの現金さにアテナさんはあきれ顔だった。

 ドレスの乱れを念入りに整えなおしながら、白い目でオレを見つめる女神さま。

 しかし、すぐにため息を一つつき、気分を切り替えるように言った。


「……まあ、いいでしょう。やる気を出してくれたのはいいことです。ではヨシトさん、エスコートをお願いします」

「はい。まかせてください!」


 オレが差し出した腕にアテナさんは優雅につかまる。


 そして――、


『いってらっしゃいませ、ヨシトさま、アテナさま……お気を付けて』  


 幽霊執事隊(ゴーストバトラーズ)の声に送られ、オレたちは裏社会の会合へとむかう。

 先ほどまで感じていた震えと怯えはだいぶおさまっていた。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 目的地『黒鳩亭』はモーラ支部から歩いて数分。かなり近いとこにあった。

 石造りの建物は高級そうだし、敷地も広い。


「……料亭(レストラン)っていうより、ただのお屋敷に見えますね」


 到着した先、オレは黒鳩亭の外見を見て、素直な感想を口にする。 

 周囲が静かすぎて客商売をやってるようには見えないのだ。

 

「高級店って聞いてたから身がまえてましたけど、思ってたより地味ですよね。隠れ家的な名店なのかな?」

「ええ。それもありますが……他にも理由があります」


 え、理由? いったいなんなんだろう?


「――奥まで入れば、いやでもわかるでしょう」


 アテナさんはそういってなぞめいた微笑を見せた。

 う~ん。どういうこと?


 少々不吉に感じながら、オレはごつくて重い木の扉を開けた。

 まずは淑女第一(レディファースト)でアテナさんを通す。

 続けてオレが入店するとすぐ、ウェイター姿の人がやってきたが――、


「いらっしゃいませ」


 あれ? あのウサ耳って――もしかして、この前ウチのカジノに来た獣人集団の兄貴分か?

 そうか。ウサ耳さんはここのウェイターさんだったのか。


 そのウサ耳さんは、今日は完璧な店員としての態度でオレに接してくる。


「ようこそ、ヨシトさま。先日は失礼しました……こちらへどうぞ」


 表の部分はふつうのレストランのような客席があったが、オレたちはそこを素通りさせられた。

 そして、そのまま奥へ奥へと案内されていき――、


 たどりついた空間には緋色のじゅうたんがしかれ、つやのある木のテーブルがならんでいた。

 置かれてる革張りのソファらしき椅子といい、えらくリッチでラグジュアリーな室内だ。

 料理を食べるだけの場には思えない。この部屋って、いったいなんなんだろう?  


 オレが向けた疑問の視線にアテナさんが小声で教えてくれた。


「賭場ですよ。表向きは高級料亭――しかし裏ではギャンブルが行われているそうです。身分の高い客がお忍びで来るらしいですね。うちのカジノの商売敵ですよ」


 なるほど。目立たない外見はそのせいか。

 そして、ここに呼び出された理由がよくわかった。


 一方、案内役のウサ耳さんは部屋のさらに奥――ぶあつい木の扉のほうへオレたちをつれていく。


「……こちらで皆様がお待ちです」


 完璧な愛想笑いを浮かべて言うウサ耳さん。  

 この前の威圧的な態度を覚えているせいで不気味な印象を受ける。


 ――だけど教団のため、ここで足を止めるわけにはいかない。


「ヨシトさん、行きましょう」

「……はい」

 

 女神さまにうながされたオレは覚悟を決めて入室する。 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



(うわ、なんか暗いぞ?)


 部屋に入ってすぐ、気になったのは室内のうす暗さだった。


 室内中央には、どんと大きなテーブルがおかれている。

 テーブルの上には何本かのロウソク――それがこの部屋の照明のすべてらしい。照明効果でも狙ってるのだろうか? たしかにこのうす暗さは、オレをかなり不安にさせた。

 

 で、そのロウソクが照らすのは――卓についている十人ほどの獣人たち。


 牛、熊、犬、虎、猪――種類はさまざま。干支(えと)が全部そろうかもしれない。

 体格もまちまちで、やせ形から太り気味、小柄な人もいれば巨人さんまで一通りそろえている。

 顔のほうもバラエティ豊富で耳だけがケモノの人から、完全に獣顔の人もいた。


 しかし、場にいる全員が同じ服装をしている。

 上はシンプルなシャツ。ズボンをサスペンダーで吊っているだけ。

 どちらもいい仕立てだったけど、あまりにそっけないデザインだ。  

 その統一感が異様な雰囲気を放った。妙な威圧感がこちらへ強烈に押し寄せてくる。



(……うわ……ホンモノの裏社会(マフィア)の人なんて初めて見たよ) 


 見事に一発で気圧されてしまったオレを、アテナさんがうながす。


「ヨシトさん、席へ着きましょう」

 

 アテナさんが先に席に着き、オレもやけっぱちで堂々と後に従うと――、


「ようこそ。ヨシトどの。わたしの名はマークス。この店の主です」


 座の中央に腰かけていた人物――ごっつい体格、完全アニマル顔のクマさんが声をかけてきた。

 卓上に置かれたでかい手は毛深く、鋭い爪がにょっきり飛び出ている。軽くふっただけで、人の頭くらい軽く吹き飛ばせそうだ。 


 ――で、そのクマさんはオレを見て感心したようにいった。


「招待に応じていただき感謝するぞ。ヨシトどの。しかし、若くてもさすが教祖と呼ばれるだけの方だ。この状況で顔色一つ変えないとは……」


(いやいや、ヘルメスさんの加護のおかげですよ。内心はガクブルものです)

 

 オレは軽くビビりながら、心の中で返答する。 

 もちろん、口にするのは別のことだけど――。


「お招きありがとうございます。マークスさん。このような場に来られて光栄です」

「こちらこそ。今をときめくオリンポス教団の首領をお迎えできて、うれしいかぎり」

  

 クマ男のマークスさんとオレの間に社交辞令が飛び交う。

 敵対する同士でもあいさつはきちんと――これが大人のマナーだ。

 そういうとこは裏社会でも変わらないらしい。


(怖い顔の割に人がよさそうな笑顔だよな? この人となら話し合いもうまくいくんじゃないか?)


 そう考えかけて、オレはすぐに思い直す。


 ……いや、これは罠だ。


 昔、先輩に聞いたことがある。その筋の人は最初はにこやかに話しかけ、いきなり怒声をあびせるらしい。感情の落差でおびえさせ、パニックになった相手に言うことを聞かせるんだそうだ。

 だから、ぱっと見は常識人に見えたり、にこやかな人のほうが怖いらしい。


 ……あぶないあぶない。


 見え見えの手に引っかかるところだった。急にどなられてもビビったりしないようにしておこう。

 オレはこっそり軍神(アレスさん)の加護を発動し、混乱と恐怖を最大までとりのぞいておく。 


 そして、ゆっくり座についたオレに――、

 マークスさんは笑顔を浮かべたまま告げる。 



「単刀直入に言おう。ヨシトどの。『カジノ』とやらの営業をやめてもらいたい」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 落ち着いた低い声。口調もおだやか。しかし、声に秘められた圧力がすごい。

 心の準備をしておかなかったら、あっさり押し切られていたかもしれない。

 そんなどすの利いた声でクマ男のマークスさんがオレたちに用件を伝えてくる。


「我々の組織は、このモーラの街の賭け事を一手に仕切っている。しかし、あなたがたオリンポス教団の開いた賭場(カジノ)のせいで客が減った。大変迷惑している」


 ……わお。ホントに単刀直入だな。

 強烈な先制パンチ――初手からいきなり要求をしてくるとは思わなかった。

 さて、どう返したらいいものやら……?


 さっそく言葉につまったオレに代わり、アテナさんが冷静に言い返してくれる。


「要望にはお応えしかねます。あなたがたの言い分に我々が従う義理も義務もない。カジノを営業しているのは、あなた方の縄張りであるモーラではありません。そもそも、わたしたちがやっているのはあくまで宗教儀式なのですから」

 

 ナイス反論です。さすが頼りになる女神さまだ。

 と、オレがうなずいていると――、


「……むう。こちらのご令嬢はどなたかな?」


 手痛い反撃をくらわされたクマさんがうめき、オレにたずねてくる。

 急に肉食獣の目をむけられ、ぎょっとしたが、オレは交渉人技の一つ『鉄面皮(ポーカーフェイス)』で耐えて答える。

 

「妹弟子のパラスと申します。教団の実務面は彼女にまかせています。わたしは教祖と言っても、あくまで神と人との仲介者ですので」

 

 ……よし。ヘルメスさんの交渉術のおかげで、それっぽいことを言えたぞ。

 そんなオレのそつのない返答にマークスさんはうなずく。 


「ほう。年端もいかぬ少女が教団の運営とは大したものですな。しかしお嬢さん、遊戯の結果で金銭が動くなら、それはどう言いくるめようと賭けだ。そして、そちらのカジノに客が取られ、この賭場は損害が出ている。もし、そちらがカジノを続ける気なら――こちらも手を打たざるをえない」 


 ……うわ。賭けは賭けって、裏社会の人に正論で返された。

 しかも『手を打たざるをえない』って、なにするつもりですか?

 想像するだけでも、かなり恐ろしいんですが。

 本気を出しかけているクマさんの迫力――オレの背筋に冷や汗が垂れる。 


 しかし戦女神であるアテナさんは一歩も引かない。

 むしろ闘志をかきたてられたかのように反撃する。


 ――だが、アテナさんの取った手はかなりえげつなかった。


「もし、なにか仕掛けてこられるなら、こちらからは警備隊をけしかけさせてもらいます。そちらはたたけばほこりの出る身でしょう?」


 ……え? いきなり警備隊のコネつかうんですか?!

 しかも、けしかけるって番犬じゃないんだから。


 案の定、アテナさんのむちゃな発言が逆鱗に触れたらしい。

 クマさんは眉間にしわを寄せた。そのとなりイノシシ男にいたっては怒鳴り声をあげてくる。

 

「なんだと、きさま! 小娘がなめた口をたたくな!」 


 逆上したイノシシ男はテーブルを踏み越えてこようとした。

 そんなイノシシ男の襟首をマークスさんががっちりつかんで止める。


「よせ。ノイス。客人にそそうがあってはいかん」

「マークス兄貴! けどよ!」


 言い返そうとしたイノシシ――ノイスと呼ばれた男をマークスさんが威圧する。


「……聞こえなかったか? やめろと言っているのだ」

「…………すまねえ、兄貴」

 

 その怒りの迫力はすさまじい。テーブルの向こうにいたオレの背筋にまで冷や汗が走る。

 血気盛んそうなイノシシ男も黙らせると、マークスさんはこちらに頭を下げた。     

 

「失礼した。しかし……ふむ。パラスどのはそう来るか。ならば権力に頼るのは好かんが、こちらもつてをたどってみることにしよう。こちらとてお偉方に知り合いがないわけではない。警備隊をたらしこんでも別口から追及されればただではすまんぞ?」


 ……むむ、あやまりながらの強烈な逆襲だ。

 まさか向こうも権力を後ろ盾にして攻めてくるなんて。

 オレはあわてて隣りのアテナさんを見る。


 だが、アテナさんは平然としたまま。不敵な笑みを浮かべている。

 ……よし、それならオレもアテナさんに合わせて、えらそうにしていよう。 


 そんなオレたちの態度に、マークスさんはあきれたように言う。


「ほう。一歩も引かぬということか? それではおたがい役人に商売をつぶされ、共倒れになるしかない……あまりにも不毛な結果だ」

「たしかに。それはこまりますね。無益な争いです」


 同意したアテナさんの言葉を受け、クマさんはうなずく。


「ふむ。そうだろう? 意地の張り合いに意味はない。そこで……だ」



 一呼吸おいて、マークスさんはこう提案してきた。



  ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 モーラの賭場を仕切っているという獣人マフィアの首領――クマ男のマークスさんは、オレたちにカジノの営業をやめろと言ってきた。

 もちろん、こちらに(というかアテナさんに)退く気はない。


 おたがいの主張が平行線になりかけたそのとき――マークスさんは妙なことを言い出す。



「――ならば、ことは賭けの話だ。ここは一つ『賭け』で決めようではないか?」



 ……え? なにその少年誌みたいな超展開?

 マークスさんの提案に、オレはきょとんとするが――、

 


「――いいでしょう。その勝負、受けて立ちます」


 しかし、アテナさんは挑戦に乗った。

 その瞳が闘志に爛々と輝いている。


 ……うわ。ここにきて賭博対決になっちゃうんですか? 

 やっぱり背景に『ざわざわ』とか擬音が書かれる感じなんだろうか? 


 しかしアテナさんが賭博なんて運まかせなものに教団の将来を賭けるとは思わなかった。

 まして、ここは相手の本拠地――何をしてくるかわからないのに。


 でも当のアテナさんは妙に自信たっぷり。なにか勝算でもありそうだ。



(……どちらにしろ、がんばってくださいね。アテナさん)



 と、オレが他人事のように思ってると――、

 アテナさんが、しれっとこういった。



「では――こちらは我が教団の教祖・久世ヨシトが代表をつとめさせていただきます」



 ちょ……えっ?! ここでオレに振るんですか?! 

 またオレが妙なこと押し付けられる流れなんですか?!



 ――そんな話、聞かされてないですよ! アテナさん!?


   

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