表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第五章
52/110

カジノにせまる影

 ときは、すでにお昼近く――。

 ここまで奮戦を続けてきたオレの体力は限界をむかえていたが、そんなことよりマリアさんと別れずにすんでよかった。 


 で、オレが充実感と気だるさにひたってる隣では――、



「……これまでのように(こちら)で二日、(モーラ)に一日という分担でいいかと思います」

「いけません! パラスさん! こういうことはきっちり同じ日数づつ、それが一人の殿方を分かち合う女同士のおきてです!」


 オレをめぐってベッドの上で争いあうマリアさんとアテナさん。

 もっとも修羅場につきものの男の奪いあいではなく、ゆずりあいが原因だ。


 押しつけあい……じゃないよな?


「いいえ。それではわたしの体が持たないと言ったでしょう? それにあくまでわたしは神の言いつけにより、ヨシトさんと体を重ねているだけなのです」

「神の言いつけ……ですか? どういうこと……なのでしょう?」


 さすがに、けげんな顔を見せた美人エルフのマリアさん。

 うん。今のアテナさんの言いようじゃ、どう考えてもあやしい宗教だよな。


 当然のことながら、いぶかしむマリアさんにアテナさんは短く説明する。


「――実はヨシトさんの血には神々の加護を引き出す力が秘められているのです。ヨシトさんの血を引く子どもを増やせば、それだけ神々から受ける加護の力が増すということです」 

「なるほど、そうだったのですか」

 

 そのざっくりした話を、マリアさんはあっさり信じてしまう。  


 ――え? そんなに簡単に信じちゃっていいんですか? 


「信じるに決まっています。これまでヨシトさまには、たくさん不思議な力を見せて守っていただきましたから」


 ……ああ、そういうことか。


 オレの教祖としての魅力(カリスマ)で信じたんじゃないんだ……ま。実践って大事だよね。

 と、ちょっとがっかりしたオレにアテナさんが一言。


「いいえ。あなたのカリスマのおかげですよ。ヨシトさん」


 ありがたいですけど、そんなフォロー別にいらないですから。

 ちょっとスネて言ったオレにアテナさんは首を横に振る。

 

「フォローではありません。カリスマの語源はギリシア語で『神より授かった恩恵』のこと――すなわち、あなたの受けている加護そのものですから……事実を言ったまでです」


 ……ああ、そういう意味ですか。

 いや。どうせ、そういう意味じゃないかと思ってましたよ――ちぇっ。



 そんなオレたちのかみあわない会話を、マリアさんがほほえましそうにながめている。


「では、お二人ともその……お励みになってくださいね。でも、そういった事情なら、なおさらパラスさんと過ごす日を増やした方がよろしいのでは?」


 と、謙虚に身を引こうとするマリアさん。

 だが、アテナさんの許可はおりない。


「いいえ。他人事のように言っておいでですが、マリアさん。あなたにもヨシトさんと子づくりを励んでもらわなければなりません」

「……え? ど、どういうことでしょう?!」


 マリアさんは驚いてオレに視線を送ってくる。

 しかし女神さまの発言には、オレもびっくりさせられていた。

 オレたちが合わせて向けた疑問の視線に、アテナさんは肩をすくめて答える。


「ヨシトさんは女二人で甲斐性がいっぱいになるヘタレですからね。これ以上、愛する女性を増やせるとは思えません。ですからマリアさんにも子づくりに励んでもらう必要があるのです」

「……あ、それはたしかに。ヨシトさまは繊細な方ですから……」

 

 うぅ、アテナさんにディスられた。

 マリアさんにも柔らかい言葉だけどディスられた。


 でも……ハーレムって、こんなに大変だと思ってなかったんだよなあ。

 ただただ、うらやましいと考えてた。

 ラブコメの主人公さんたち――今まで優柔不断さにイライラしてごめんなさい。

 複数の女性の間でバランス取るってホントにきついですよね。


 ――なんてオレは心の中で深く深くおわびする。


 しかし、なんでベッドでこんなしまらない会話を長々と?

 片手に美女エルフさん、もう片方には女神美少女――天国みたいな状況がだいなしだ。

 できれば、もうちょっと甘い話がしたいんですが。


 虫のいい願いを言ったオレに、アテナさんは白い目をむけてくる。


「……わたしはこれでもいそがしいのですよ。本来、あなたがたを仲裁したら、すぐにこちらでの仕事にかかる予定だったのです」 


 え? そうだったんですか……色々とすいません。

 よし。だったら、せめてオレにできることを手伝いますよ。


「そうですね。今回は頭脳労働ではなく肉体労働ですから、ヨシトさんでもだいじょうぶでしょう。おそらく荒事(あらごと)になるかもしれませんし、手伝ってもらえれば助かります」


 ……肉体労働なら、だいじょうぶってどういう意味なんでしょう?

 さりげなくバカにされた気がするが、しかたない――か。


 それにしても荒事……とは、ちょっとぶっそうな話だ。

 あんまり乱暴なことはしたくないけど、でも……アテナさんを一人でそんな場にいかせるのはもっといやだ。手伝わせてもらおう。

 


 というわけで、オレもアテナさんもベッドから離れ、出かける準備だ。


 ……まずは服を着るとこから。



「あ、わたしもなにか……」


 続けてマリアさんも立ちあがろうとしたが、足がもつれてしまった。

 オレは急いで駆け寄り、細い体を支えて告げる。


「すいません。つい張り切ってしまいました。疲れてるでしょうから、今は休んでください」

「……もうしわけありません。ヨシトさま、パラスさま、お役にたてず」


 やはり体がきつかったのか、素直に引き下がったマリアさん。

 すまなそうにしてる美人エルフさんをアテナさんがなぐさめる。


「いいえ。あなたには後で役に立ってもらいますから、ここは母体を大事にしておいてください」

「え? 役に立つ? 母体? それはどういう……あ……」


 言葉の意味に気づいたマリアさんは顔をびくりと震え、うつむいてしまう。

 恥じらいにほほを染め、目を潤ませてる姿が破壊的なまでにかわいらしい。



 ――う、もう……たまりません。



 もじもじしてるマリアさんのあごに手をかけ、強引に上げさせるとオレは唇を重ねていく。

 うん。やっぱりお出かけ前にはこれが必要だ。

 というわけで、たっぷり美女エルフさんを味わってから解放してあげた。


「……もう、ヨシトさまったら」


 うるんだ瞳でオレを見て、すねたように言うマリアさんへ、

 オレは明るく出発のあいさつをし、アテナさんもそれに続く。


「それじゃ、行ってきます」

「マリアさん、しばらくヨシトさんをお借りします」


 

「ごゆっくり。お気を付けて」


 マリアさんの声に送られ、オレたちは教団の仕事へむかうのだった。 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 オレたちは仕事先――といっても同じ建物の中だが、長老屋敷の奥へと向かう。

 どうやらオレとマリアさんの一件だけでなく、アテナさんに別口で相談が持ちこまれたらしい。

  

「……遅れてすみません。少しばかり野暮用があったもので」

 

 そう言って入室したアテナさんに、部屋の主・ヨブさんがにこやかに応じる。


「おお。よく来てくださいました。パラスさま――それにヨシトさま。わざわざ来ていただいてもうしわけありませんな」

「こちらこそ。あなたの情報のおかげでヨシトさんとマリアさんの仲はうまくいきました」


 ……そっか。報告してくれたのはヨブさんだったのか。


 おかげで助かりました。ありがとうございます。

 と、頭を下げたオレにヨブさんは意味深な笑みで応えてくる。 


「いえいえ。わたしにも覚えがあります。男女のことはなかなか難しいものですからな」

  

 うぅ、かなりはずかしい。どこまで事情が知られてるやら? 

 一方、アテナさんは素知らぬ態度で話を進める。


「ま、それはそれとして。ヨブさん……カジノのほうに問題がおきたとか?」

「はい。そのことなのですが……」


 アテナさんの問いにヨブさんは苦い表情を浮かべた。

 

 え~と、たしか……、

 銀行にかかりきりのアテナさんに代わって、今はヨブさんがカジノを運営してるんだよな?

 若いころ旅したおかげで、さまざまな人生経験を積んでるから、なかなか難しい仕事をうまくこなしてくれてるらしい。

 しかし、そんなヨブさんの手にも負えないことが何か起こったみたいだ。

 いったい、なにがあったんだろう?



「……先だってパラスさまにも報告しましたが、ここのところどうも素性のよくない客が増えているのですよ」


 眉間にしわをよせ、ヨブさんは語り始める。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ヨブさんのちょっと長い話をまとめると――、

 最近、カジノにシロウトさんじゃない方たちが集団で来るようになったらしい。 


「見れば一目でわかります。とにかく異様な雰囲気を放っておりまして……」


 その連中にヨブさんは頭をなやませているそうだ。


 う~ん。それはこまるな。

 そんな連中が出入りすれば、お客さんがおびえてしまうだろうし。


「それだけではありません。市場や屋台、宿屋に金細工店の客の入りにもかかわってきます」 

「はい。まだそこまでの影響はありませんが……時間の問題でしょう」


 深刻そうな顔を突き合わせるヨブさんとアテナさん。 


「いっそのこと狼藉を働いてくれたら、手荒な方法をとっても追い返せるのですが……」


 ぶっそうなことをいうアテナさんに苦笑しつつ、ヨブさんもため息をつく。


「金払いは悪くない。むしろいいのです。しかしそれが逆に不気味でしてな」

「なるほど。そう……ですか」


 しばらく考え込んだアテナさんは一つの結論に突き当たったようだ。 


「裏社会の人間でしょうね。賭け事は彼らの縄張りに属することですから、けん制を入れてきたのかもしれません」 

「……はい。おそらく」


 アテナさんの推測にヨブさんがうなずく。


 ……え? 裏社会? マフィアとかそんな感じの人たちですか?

 むちゃくちゃ怖いんですけど。


 内心でおびえるオレとは対照的に、アテナさんはあっさりと言った。


「これからヨシトさんとようすを確かめてみます。街のほうでも探りをいれてみましょう。とりあえず、今は警備の人数を増やし、しっかり警戒するということでお願いします」 

「わかりました。さっそく手配します。どうかお気を付けて。パラスさま。ヨシトさま」


 背後にヨブさんの心配そうな声を受けて――、

 オレたちは、さっそくカジノへ向かう。

  


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 カジノが開かれてる天幕(テント)へついたオレたちは周囲に目を配る。


(ヨシトさん、おそらく彼らでしょう)

(……なるほど、たしかにそれっぽい人たちですね)


 一目でわかるほどアブない雰囲気をただよわせた連中が、カジノのあちこちにいた。おかげで周囲のお客さんはかなりひいている。

 たしかに今後、客の入りに影響が出そうな状況だ。


 そんな連中をオレたちは、さりげなく観察してるつもりだったが――、


 うわ。あっさりとこっちの視線に気づかれた。

 しかも、なんと連中が向こうから寄ってくるし!

  

 オレはあわててその場を去ろうとしたが、アテナさんがそでをつかんで引き留める。


「なにをおびえているのです。教祖なのですから、もっと泰然としてください」 

 

 ――いや、だって……。そんなこと言われてもねえ。


 そうこうしてるうち――、

 こちらにやってきたのは、ごつい外見に反してファンシーな耳をつけた男の一団。


 ……おお。ケモノ耳集団だ。

 しかも、どの耳もご本人さまのもの。こっちの世界じゃ『獣人』と呼ばれる存在らしい。


 しかし、おっさんがケモノ耳を付けてると不気味を通り越してシュールだな。  

 特に先頭に立つ男の耳は長く伸び、ぴんと立った――ウサ耳だった。

 う~む。たしかにカジノにバニーさんはつきものなんだろうけど――、


(おっさんがウサ耳つけても、ちっとも心がぴょんぴょんしないんだよなあ)


 なんてくだらないことをオレが考えてるうち――、

 いつの間にかオレたちは獣人によって、すっかり囲まれていた。


「……少々話をしたいんだが……いいかな?」


 代表してウサ耳が声をかけてくる。

 質問の形をとっていたが、断ることなんか許されなさそうだ。

 そんな迫力バツグンのウサ耳さんにアテナさんが毅然と応える。


「では、あちらの人気のないところで。ここでは他のお客様の迷惑になります」

「ふむ。そうだな、こちらにとってもつごうがいい」


 ……つごうがいい? いったい何に?

 もう悪い予感しかしないんですが……。 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 オレたちをふくむ一団は里のカジノから出て、森の中へ向かう。   


 オレとアテナさん――二人の前後左右は完全に獣人に囲まれていた。

 そして宿屋の角を曲がり、森の中の物影にはいったところで――、


「おらぁッ!」


 オレの前を歩いてた垂れ耳のイヌ男が振り向きざま、いきなりなぐりかかってきた。

 完全な不意打ち――ふつうなら絶対にやられるところだ。


 しかし臆病(チキン)なオレは集団に囲まれた時点でアレスの加護を発動済み――人間離れした反射神経のおかげで拳が止まって見えた。

 最小の動きで襲いくる拳をかわしたオレはイヌ男の伸びきった腕を取る。

 ごつい腕の関節を逆手に固めて動けなくすると。さらなる襲撃への楯にした。


「く、てめえ……ひきょうな!」


 いやいや。不意打ちかけてきた人に、そんなこと言われたくないな。

 しかえしとして、ちょっと関節を締め上げると――イヌさんは野太い声で悲鳴を上げた。


 ……うわぁ。気色悪い。


「てめえ、ポーチ兄貴になにしやがる!」


 イヌ耳の悲鳴にいきり立つ獣人ご一行様。  

 おいおい。『なにしやがる』って言われても。


 ……そもそも最初にしかけてきたのはそっちですよね?


 なんて会話をオレが交わしてる一方、アテナさんは早々に安全な場所に離脱済みだ。

 向こうも女性に手出しする気はなさそうだから、これはありがたい。 

 ま、アテナさんなら獣人の一人二人くらい余裕なんだろうけど。



 そして対峙するオレと獣人たち――、

 押し寄せる殺気で背筋に冷や汗が垂れる。


 と――、


「やめねェか! お前たちッ!」  


 ウサ耳男――兄貴分らしき男が一喝した。

 獣人たちはその声に不承不承、戦闘態勢を解いた。

 そこでようやくオレも楯にしてたイヌ男を離してやる。


「アホ! 勝手に手を出すなと言っておいたろうが!?」


 腕をさすりながら仲間のとこにもどったイヌさんをぽかりと殴りつけたあと、ウサ耳さんが頭を下げてきた。

   

「ウチの若いのがすまん。きっちり注意しておいたんだが――どうも物覚えの悪いヤツラでな」


 いえいえ。たいしたことはありませんよ。

 さっきから心臓がバクバク言ってるだけで……。

 

「ははは……しかし、さすがだな。オリンポス教団の首領は相当な手練れと聞いていたが、うわさにたがわぬすさまじい手並みを見せてもらった」


 オレの返した言葉を冗談だと思ったらしい。ウサ耳男はダンディに笑う。

 う~ん。かわいらしいウサ耳をつけてダンディにふるまわれてもなあ。


 と、オレがくだらないことを考えてるとウサ耳は懐に手を入れる。

 オレは警戒して、ふたたびみがまえたが――


「……案内状だ」


 両手をあげ、なにも隠し持ってないと示しながらウサ耳男はやってきた。

 そして、ひょいと懐から出したものを手渡してくる。


 差しだされたのは封筒のようなものだった。

 オレは開封して中身を確認する。 


 ……ええと、なになに? 


『二週間後にご招待したい。場所はモーラにある黒鳩亭』


 ずいぶん簡潔な文面だな。

 それに黒鳩……亭って? いったいどんなとこだろう?

 疑問に思ったオレへ、隣にやってきたアテナさんが教えてくれた。


「モーラで一、二を争う高級料亭です。予約を取るのも難しいほど人気だそうですね」 


 へえ。すごい所に誘われたもんだな。

 でも……ただの会食のお誘いってわけじゃなさそうだ。

  

「ああ。親分衆が集まる会合がある。その場で、あんたらから色々と話を聞きたいそうだ。断ったら……わかるよな?」


 ウサ耳さんが、すごみのある笑いを浮かべてそういった。  


 たぶん、今日みたいなことをずっと続けるっておどしなんだろう。

 たしかに我が教団の財源(カジノ)に手を出されたら困るんだけど――。


 ……でも、これって思いっきり罠のにおいがするんだよなあ。

 なんとか上手な断り方ってないか?


 と、オレが悩んでると――、 


「いいでしょう。我が教団の教祖・久世ヨシトがお邪魔させていただきます」


 横からアテナさんが出てきて、あっさり請け合ってしまう。

 


 ――ちょ、なに勝手に返事してるんですか、アテナさん!



「心配しないでください。ヨシトさん。わたしも着いて行きますから」


 抗議するオレに、アテナさんはささやく。


 いや、そういう問題じゃなく――、

 むしろ、あなたも行くならよけいに危険というか――、 


「おお、いい返事をもらえてよかった。それじゃ、待ってるぜ」


 オレたちがもめてる間に、ウサ耳男は満足そうな笑みを浮かべて去ってしまう。



 ああ、もう! 

 せっかく問題が一つ解決したと思ったら、またこれなのかよ!? 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ