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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第四章
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生神女計画

 

「……ヨシトさん、本当に覚悟ができているというなら、わたしをここで抱いてください」


 ――アテナさんの追及するような声がオレにかけられる。 


 あの……アテナさん、抱くってどういうことでしょうか?

 あいさつ程度の抱擁(ハグ)

 それとも熊抱(ベアハグ)からの投げ捨てジャーマンみたいな格闘技的な意味ですか?


 パニックにおちいったオレは、すがるような希望をこめて別の意味を問う。



 ――だが、アテナさんはオレの期待をあっさりと打ち砕いた。



「『抱く』の意味ですか? 交合する。生殖行為。まぐわい。性交。男女の営み――とか」



 ストップ、ストップ! ダメです!

 類義語辞書みたいに並べた危険ワードの数々は美少女が連発していい単語じゃありません!


 しかし――、

 つまり『抱く』という言葉の意味はまちがいなく、オレとアテナさんとの子づくりを意味するようだ。



 でも……なんでですか? 

 どうしてオレとあなたが?



 当然と言えば当然なオレの疑問――女神は答えてくれる。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「わたしが人の身でこの世界に送られたのは二つの理由があります。一つは教祖であるあなたを身近で補佐し、布教計画を立案して遂行すること――」


 はい。おかげさまで。

 その点は非常に助かってます。というか完全に丸投げさせてもらってます。


「そして他にもう一つ、わたしが人の身で送られた理由があります。『生神女(しょうしんじょ)計画』、あるいは『聖母計画』とよばれるものです」 


 生神女……計画? なんです。それ?


 ――オレの問いにアテナさんは遠い目をして答えた。

 

「今、こちらの世界とオリンポスの神々は、あなたというたった一つの接点だけでつながりを持っている状態です。これがどんなに危険なことかわかりますか?」


 ええ、たしかに。

 オレが死んだらそこで布教終了ってことですよね。 

 また新たな教祖を送らない限り、こっちの世界の信心が届かなくなってしまうから。


「はい。かといって、そうそう都合のいい魂が見つかるわけがない。あなたと同等の魂を見つけたとしても、こちらに送るには相当な力が要ります。前回も惑星配置を利用して、なんとかつなげられたくらいなのですから……次に教祖としてだれかを送りこむまでよくて二十年はかかるでしょう」


 え? そんなにですか?!

 オレ、二十年もこっちにいることになるでしょうか?


「ええ。わたしたちもそれでは困ります。そこでわたしたちはこう考えました。信心と加護をやり取りできる『教祖の魂』をこちらの世界で作ってしまえばいい……と」


 え? 魂を……作る?


「親子では魂の形がよく似ています。ならば、あなたの子の魂も教祖としての資格を持つ可能性が高い。そして母がオリンポスの女神ならつながりがさらに強まり、子が教祖となる可能性も高まります」


 なるほど。どこぞの短命の呪いを受けた一族のゲームみたいな話ですね。


 ……あ、じゃあ、まさか! 

 アテナさんがオレに抱けって言ったのは……?!


「はい。『生神女計画』とは、わたしを母体として、あなたの子を作る計画。『生神女』とは『神の子』すなわち教祖を産む女という意味です。そして生まれた子に母であるわたしが教育をほどこし優秀な次世代の教祖に育て上げる――これが『生神女計画』の全貌です」


 うわ。オレの知らないとこでそんな計画が……

 というか実は二世代にわたる布教計画だったんだな。 


 ……あれ? 

 それじゃ、なんでここまでこっちの計画の話は出てこなかったんです?


「あなたにマリアさんという相手ができて、子が生まれる可能性がありました。そして、わたしもカジノ計画にかかわっていたため、あなたを罪に巻き込まぬよう深い関係にはなれなかった」


 ああ、なるほど。そんな理由が。

 それじゃ、なんで今さらまたその話が出てきたんでしょうか?

 オレはマリアさんとうまくやってるし、できれば別の方向で協力したいんですが、


「カジノを利用する発展計画は、もう危険な段階をすぎました。一方、エルフの女性は出産後、子を産めない期間が長く、生まれた子が教祖となれるか定かでもない。そこでより多く教祖となりうる魂を得るため、再度『生神女計画』が動き出したわけです。そもそも、わたしが少女の体で送られたのも、生殖可能な期間を長くとるためでした」

    

 う~ん。なんでそこまで教祖っていうかオレの子どもを増やしたがるのかな?

『生めよ、増やせよ、地に満ちよ』とかいきなり言われても、あんまりいい気分じゃないんですが。


「『教祖の魂』を持つものが他にいれば、あなたになにかあっても最悪の事態は免れます。しかし、今、あなたが死ねば、わたしもパラスの体と切り離されてしまいます。その状況で里は攻撃を受けることになる。バァルは情けを知らぬ神。見せしめのためにも、近いうちにこの里をつぶしにくるでしょう」


 う、それはマズイ。

 オレが死ぬだけじゃなく、アテナさんの頭脳まで里から奪われてしまうのか。  

 敵が恐ろしい神さまって話だし、そうなったら致命的だ。   

 

 考えこんでしまったオレに、さらに追い打ちをかけるように女神は言葉を続ける。

    

「……『教祖の魂』が増えれば信心と加護の通り道が広くなります。回線容量が大きくなるといったほうがわかりやすいかもしれません。受けられる神の加護も力を増します――当然、あなたの受ける加護の力も今以上になるでしょう。後継者がいれば、あなたを温存する必要もなくなります」


 ふむ。子どもができれば、またバァルがきたとき、立ち向かえる力が手に入るってことか。

 さらに『わたしが死んでも替わりはいるもの』って感じで、前線で戦ったり、計画にもっと参加したりできるようになる……と。


 ――つまり、アテナさんの計画に従えば、オレの願いもすべてかなえられるってことか。



 ああ、もう。

 アテナさんの話の進め方には、逃げ場がない。

 里のみんなとマリアさんを守るため、覚悟を決めた――そういってしまった以上、断れないほうに話を持っていかれてる。


 ……もしかしてあれは誘導尋問だったのか? 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ――いや。まてよ。


 アテナさんはだいじょうぶなのか? 

 処女神がそんなことをして平気なんだろうか?

 断る理由が見つけられなくなったオレは卑怯にも逃げ道を求めることにした。


 しかし、女神はオレの逃げをあっさりと両断する。


「あくまで化身(アバター)の体ですので問題ありません。かつて同じく玉女(アバター)を使い、日本の高僧に純潔を守らせた(かた)もいるそうです。つまりわたしの本体としては処女懐胎ということになるのでしょうね。教祖を生む女として奇妙な偶然です」


 そうか。大丈夫なのか。便利なんだか不便なんだか。

 にしても、さっきからアバターって言葉を使いまくってますけど、なんだかゲームの話みたいですね。 

「もともとアバターとは宗教用語。ヒンドゥー教における『化身』という意味の言葉ですよ」



 ……あ、そうなんだ。



 ――うう、どんどん断れない方向に話が向かっていく。

 覚悟って言葉を安易に使ったことが悔やまれる。 


 だが、アテナさんの言葉には理屈が通っていた。

 オレの中で彼女に従うべきなんじゃないかって思いがどんどん強くなる。


 しかし、それでも――、

 最後に気になることが一つだけある。

 


 一番大事な――アテナさんの気持ちだ。



 オレはおそるおそる問う。


「あの……アテナさん、オレのこと嫌いだったんじゃありません?」 


「……ええ。嫌いでした。あなたはヘタレで無能で無責任な男に思えましたから。それなのに押し付けられた役割があなたとの子づくり。いやでいやでしかたなくて、だからこそカジノや発展計画に熱中し、あなたを遠ざけていたのですが……」


 うう。やっぱり嫌われてたのか。

 まあ、最初からかなりきつい態度だったもんな、

 けど、アテナさんも、なんでそんな真正面から言うかな?


 なんて落ち込んだオレに――、


「……しかし、今はそうではありません」


 そういってアテナさんはじっとこちらを見つめてきた。


(『いやじゃない』ってことは、つまりオレ……アテナさんに認められたのか?)


 その言葉がオレの心を震わせる。

 ここまでともに過ごす中、アテナさんの冷静さ、賢さとかを尊敬するようになっていた。 

 そんな彼女が今、目の前でオレを誘っている。

 


 ――ためらっていたオレへの最後の一押しだった。



  ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 

 するべきことは決まった。

 目の前にいるパラス――女神の意識を宿した化身である美少女と子どもを作る。  

 たとえ、マリアさんを裏切ることになっても力が欲しい――生き延びる力、大事な人たちを守る力が。   


「……アテナさん」



 覚悟を決めたオレは隣に座る美少女の体を抱きしめる。

 胸元に押し付けた髪から甘いにおいがふわりと香った。


「……ヨシトさん、それは計画を受け入れるという意味でしょうか?」


 耳元でささやかれた言葉にぞくりと快感が走る。


「……はい」


 背筋が震えるのを感じながら、オレはうなずく。


  


 そして数分後――

 アテナさんのベッドの上――、



 服を脱ぎ一糸まとわぬ姿になったオレたち。 

 二人は向かい合い、視線を交わす。

 女神さまはあいかわらず冷徹な視線を向けてくる。


 う……なんか気まずいぞ。 

 よし、こういうときはこうだ!


 と、まずはキスしようとすると――。


「……よけいな手順は踏まなくていいですよ」


 う~ん、そういうこと言われると調子でないや。

 というか、これはこっちの気分の問題です。


「わかりました。では……」


 なんと、美少女がオレの顔を両手ではさみ、キスしてきた!


(え、なんでアテナさんから!?)


 唐突におとずれた冷たく甘い感触にオレはの心臓が大きく跳ねる。

 と、あわてたオレのすきをつくように――、

 

「ッ!」


 アテナさんがオレの肩を押し、あっさりと押し倒す。

 倒れこんだベッドの上、いつの間にかオレは美少女に馬乗りになられていた。  


 オレの胸板に彼女のきれいな手が重ねられている。

 指先のひやりとしたした感触に背筋に震えが走った。

 そして下腹をしめつける太もも、腰を上から押さえこんでくるふわりと柔らかな感覚も極上だった。

 

 だが、あまりといえばあまりな体勢である。

 オレは押しのけようとしたが――、


(……あれ、身動きできないぞ?) 


 なにか体術でも使っているのか、重心を抑えられたオレは起き上がることができない。

 美少女に組み敷かれたままだ。


「あの……さすがに、この体勢はちょっと……」


 もがきながら抗議したオレにアテナさんが冷静なまま応じてくる。

 

「……ヨシトさんはじっとしていてください」    


 いえ、でもオレにも男の立場というか…… 


「――うるさいです。黙ってください」


 アテナさんはオレの再度の抗議をあっさりと却下すると実力行使に移る。

 なんと、もう一度、唇を重ねてきて……今度のキスは舌が差し入れられた。

 

「ん! むぅ!」


 ちゅるんと口の中に入りこみ、オレの舌にからみついてきた甘く冷たい器官。

 オレは思わずうめきを上げる。

 なけなしの理性は吹っ飛び、義務だと思ってた行為に一気に高ぶってしまった。 



 あとは奔流に流されるように時間が過ぎていき――、  



 今日は……本当に女神に振り回されっぱなしの一日だった。


  

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