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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第四章
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里の発展計画~その2

 どうも異世界で布教なんてやってる教祖の久世ヨシトです。


 いきなりですがみなさん。周りにすごいアイデア持ってる人っていませんか?

 発想の着眼点がもう人間業じゃないというか、神業というか。

 でも……ときどき、ついてけない感じにアレだったりしますよね。

  

 うちの女神さんはもう大暴走です。

 頭がよすぎるんだか、発想がすごすぎるんだか――、

 とにかく、ついて行こうなんて考たことを後悔するくらいにぶっ飛んだ人なのです。

  

 その点について、よくわかってたつもりでしたが、

 しかし、オレもまだまだ甘かったようで――、



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「ヨシトさん……こちらへどうぞ」

 

 里に集めた商人さん――彼らに対してアテナさんは、なにをするつもりなのだろうか?

 疑問に思うオレをアテナさんは里の一角へ案内する。

 そこは木造の建物――オリンポス教団の神殿が立つ場所だった。

 まだ即席だが、オリンポス神をまとめて(まつ)る神殿が先日ついに完成したのだ。


 そして、この神殿の周囲にも張幕(テント)が張られている。 

 その下には数多くの卓子(テーブル)が並べられていて――、

 行商人さんたちがそのテーブルに目の色を変えて飛びついている。


 あれ? 待てよ? 

 机の上に……いくつか見覚えがある物体が……、 



「アテナさん。これって!? もしかして!?」

「はい、ヨシトさん。これは――」


 アテナさんはオレに対し、解説をはじめようとしたが――、




「あのぉ……」


 そこで背後からオレたちに声がかけられる。


「……あの、そちらは里の方ですよね?」


 振り返ってみると――、

 行商人さんらしい小太りの中年男性がこちらへ物問いたげな顔を向けていた。


「わたしは行商人を営んでおりますギネアと申すものです。なにやらそちらで興味深い行事が行われていると聞いたもので……」


 ギネアさんの言葉を聞いたとたん、アテナさんは見事なくらいの変わり身の早さを見せた。

 ふだんの仏頂面から一気に営業スマイルを浮かべる。


 ――なんだか人間が信じられなくなるような光景だ。


「ギネアさん、お初にお目にかかります。わたしはこの里で案内役を務めますパラスといいます。ちなみに今、ギネアさんがおたずねになったのは『加持野(カジノ)』という宗教施設ですよ」


 え? カジノ!? 

 ……アテナさん、今、もしかしてカジノって言いました!?


 オレの抱いた疑問は置き去りに、アテナさんは営業を開始している。

 

「『かじの』……聞き覚えのない言葉ですね」

「無理もありません。『加持野』とは我が教団内部の用語ですから」


 え? ありましたっけ? そんな言葉?

 

「ほほう? ちなみにどういった意味なのでしょう?」


 そうですね、ギネアさん。教祖であるオレも気になります。


「我が教団では、神が人に恵みを与えることを『加護』といい、人が神を念じることを『持念』といいます。『加持』とはこの二つを合わせた概念で人と神との交流を意味します。つまり加持野(カジノ)とは『人と神とが心を通わせる場』ということになります」


 は? 


 ――この女神さまはなにを言ってるのだろう?


 しかもカジノが宗教施設って……いったいどういうこと?

 どう見てもここは、まごうことなきタダの『カジノ』だよな?

 ルーレットやらポーカー台がずらりとならんでいて……。


 あ。あのトランプって……オレが作ってた銅版で印刷したヤツか?!

 てっきり子どもの遊び用だと思ってたのに!

 

 ちょっと問いただしたいことはいくらもあるけど……

 しかしお客の前でもめるのもマズイよな。


 そう考えて、オレは口を閉ざす。

 まずアテナさんの説明を聞かせてもらうことにしたのだ。


 ――もっとも、それ以降、オレはただ口をぽかんと開けてるだけだったのだが。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 というわけで、アテナさんによるカジノツアーが始まる。


「こちらがその『加持野』になります」

「……おや、パラスさん。これは?」

 

 案内された先、ギネアさんがとある物体に興味を持った。


 彼の視線の先、斜めに立てかけられた板が机に固定されている。

 その板には多数の釘が打ち付けられ、前面には内部機構に客が手を触れぬように金網が優美に張られていた。 

 そしてレバーとばねを利用して、パチッと弾かれた鉄の弾が板の上をコンコンと転がるそのさま――、

 馬車の軸受用に大量に作らされてた鉄球(ボールベアリング)が、まさかこんな使い方をされてるとは思わなかったが――、


 そう。こいつはまさに昔懐かしチューリップ式のパチン――



「これは『コリントゲーム』。我らが信仰する神々の住む神殿に似せて作られた神具です。この引き金で鉄の弾をはじき出し、うまく穴に入れば神の加護が得られているという証しになるのです」 

 

 え? いや、ちがうでしょう?

 これって日本の駅前とか郊外店舗で平日昼間から人を集めてるレジャー産業の――、 


 一言いいかけたオレにアテナさんは鋭い視線を送ってくる。


 ……はい。わかりました。黙りますよ。もうしゃべりません。



「いいですか? ギネアさん、これはあくまでコリントゲームです」


 アテナさんの念押しに不審そうな表情を見せたが、ギネアさんはパチ……もといコリントゲームに興味を隠さない。


「……で、このコリントゲームとやらには、どうやって参加すればよいのでしょう?」


「はい。あちらの神殿で、まずはこちらのお(ふだ)を買ってきてください。このゼウス札が一枚あれば百回挑戦することができます。ヘルメス札ならば五十回、アテナ札ならば十回です。ちなみにお(ふだ)の名前は我らの信じる神の名前で、描かれている似姿が我らの神のお姿です」


 そういってアテナさんはいつもの巾着から三枚のお札を取り出して見せる。


 おお、あれはヘパイストスさんとオレの力作、銅版で作ったヤツじゃないか?

 ……そうか。こういう使い方のために作ったんだな。

 

「おお、なんと精巧な似姿! それに楽しそうな儀式ですな? ではさっそく……」


 お札を買いに行き、さらに買ったお札をカジノの受付で鉄球に替えてもらったギネアさん。

 彼は喜々としてパチ……ではなく、コリントゲームの台の前にむかった。


「鉄球をそこの穴に入れてレバーを引き、一気に離してはじき出してください。ええ、そうです。お上手ですよ。そちらの赤い穴に鉄球が入れば信心が認められ、アテナ札が一枚もらえるのです」


「むむ、外れた! 力加減をまちがえたか? これは……なかなか奥が深い!」


 アテナさんに遊び方を教えられたあと、ギネアさんは黙々と鉄の弾をはじいている。


 ――その姿を遠目に見ながら、オレはなんだか手遅れな予感に打ちひしがれていた。



 ……アテナさん、まかりまちがっても違法(イケナイ)行為には手を出してませんよね?

 あくまで念のためにきかせてください。

 

「もちろんです」


 アテナさんは堂々とうなずく。

 そうか、ならよかった。 


 しかし、です。

 大事なことなので二度聞きます。 

 このカジノって賭博(ギャンブル)じゃないですよね? 

 こっちの法律にはいっさい触れてないですよね?


 これもあくまで念のためにききます。



「ええ、ここファールスの国法では賭博は違法です。そんなことするわけがないじゃないですか。景品として差し上げるのも、あくまでお札だけですよ」

 

 そうか。よかった。

 じゃあ、あれはただの遊び道具ですよね?

 

「はい。もちろん」


 ……本当にそうなのか? 

 しかし、アテナさんは、こうまではっきり言い切ってるしな。

 あまりに堂々とした女神のようすにオレはそれ以上の追及ができなくなる。


 だが――、

 あのアテナさんが、ただのゲーセンやアミューズメントパークをつくって喜んでるはずがない。

 

 ――そんな当たり前の事実に、オレはもっと早く気づくべきだったのだ。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 その日の夕方――、

 自室にて――、

 


「う~ん。やっぱり気になる」


 オレは今日、何度目かわからなくなった独り言を漏らす。


 なやみの原因は、さっき見せられたカジノ……ではなく『加持野』である。

 なんだかスパイをやりながらスイカとか育ててそうな名前だが。

 

 ま、それはともかく――、

 馬車のレンタル代に宿屋代とか、どれも儲かりそうな事業を低価格にして客を集めて、やってることがゲーセンの真似事(まねごと)? 

 あの冷徹有能女神のアテナさんが、そんなぬるいことやるだろうか?


(……やっぱりおかしい。納得できない)


 なんてオレがぐるぐる悩んでいると。


 ん? なんかさっきから、とがった耳がちらほら視界をよぎります。


 オレは注意を現実世界に戻す。


 そこには、こちらをのぞきこむエルフさんの端正な顔があった。

 たれ目がちのその美人さんは、もちろんマリアさんである。


「……どうしました? マリアさん? オレの顔になんかついてます?」


「あ、いえ。ふだんのやさしげなヨシトさまも大好きなのですが、お仕事に真剣な表情のヨシトさまも、りりしくて素敵だなって思ったんです」

 

 あはは、うれしいですね。大好きな人に大好きって言ってもらえました。


 でも……オレからすると、今のマリアさんのほうが魅力的です。

 ここのところ色っぽくなりましたよね。なにげない動作にもしっとりとした色気があります。

 なんというか、人妻とか若奥さまみたいな感じでしょうか?


 なんてオレが言うと――、


「ぁ、いえ、そんな!?」


 おや? マリアさん、なんだか急にうろたえはじめたぞ?

 そして妙にくねくねしながらつぶやく。


「そんな……『若奥さま』だなんて。わたしごときがヨシトさまに……」

 

 ん? ああ、そうか。

 今の二人の関係で『若奥さま』とか『人妻』なんてこといったら、ある意味『マリアさんはオレの嫁』宣言だもんな。

 オレと夫婦同然になったおかげで色気が出てきた――って言ってるようなもんだし。


 うん。そこで照れてくれてるのはうれしい。かわいい。

 美人エルフさんに愛しさが募る。

 

(よし。悩むのにも疲れてきたころだし、ちょっとマリアさんと仲良くしますか) 


 そう決めると、オレはまず、目の前にあるきゃしゃな肩を真正面から抱きすくめる。


「あっ!? ヨシトさま?!」 


 不意の行動に驚くマリアさん――その折れそうなくらい細い体を抱き寄せ、ひざの上に乗せた。


「あ、あの……!?」 


 最初のキスと二人の初体験のときは積極的だったが、マリアさんは基本的に受身な人なのだ。

 だから、この状況にとまどっている。

 ならば――と、彼女のきゃしゃな手を取り、オレの首に回させる。


「ヨシト……さま」


 そこまでして、ようやくマリアさんのほうからキスをはじめてくれた。

 うん。慣れない作業にけなげに応じるエルフさんはかわいいな。


 さて、キスをがんばってくれてるマリアさんには悪いが、このすきに――

 オレはマリアさんに直接触れられるよう、邪魔なあれこれをそっと排除していく。 


 マリアさんが自分のしどけない姿に気づいたのは、長い間、情熱的なキスをささげてくれたあとだった。 


「あ、なんでこんな……!?」


 はだけられた肩や胸元、きわどい位置までめくりあげられた上下の衣服。

 気づいたマリアさんは、あわてて身づくろいしようとするが――、


 オレはとがった耳やうなじ、あらわにした細い腰に背筋など、マリアさんがよく反応する場所にそっと触れて妨害する。


「んッ! ひどいです、ヨシト……さま」


 マリアさんは抗議するが、オレはかまわず彼女に触れ続ける。そして――、


「ひゃ」とか「はう!」とか、

 かわいらしい声を何度かあげたあと――、


「ヨシト……さま、わたし……もう……」


 あらら、マリアさんは崩れ落ちてしまった。

 柔らかで軽やかな体が、オレにしなだれかかってくる。

 

 

 う~ん。時刻は夜になったばかり。少々早いと思うが……まあ、いいか。

 食事はもう食べ終わったから、この部屋に人が来ることはないし。

 

 とろけてしまったマリアさんをベッドに運びながら、オレは手にした幸福の味をかみしめる。

 

 ――そして同時に覚悟を一つ決める。


(アテナさんがやろうとしてることが危険なことなら、この幸せを壊しかねない……よな)


 それはこまる。

 もし、そうなら絶対やめてもらおう。 


(……それにはまず、あの加持野についてもっと調べなきゃ)


 ――オレは小さな決心を固めつつ、目の前の幸せをむさぼることにする。


 

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