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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第四章
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女神の弱点2

 どうも、毎度おなじみ異世界教祖の久世ヨシトです。

 

 突然ですが、あなたのまわりにやたらものごとを秘密にする人っていませんか?

 そういう秘密主義者には二つパターンがあると思います。

 

 一つはわざと秘密にしてる人。

 たぶん、あれこれ詮索されて邪魔されるのがいやなんでしょう。

 

 そしてもう一つは、無意識のうちに秘密にしてしまう人。

 人から理解してもらおうという発想がないので、他人になんにも言わない人です


 ――ちなみに、うちの女神さまは、そのどっちなのかすらも秘密です。


  ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 


 深夜、自室のベッドの上で――、


「……うん、やっぱりこのままじゃまずいな」


 オレは小声でつぶやく。

 ここのところ、悩みが増えた。


 理由はオレのとなりで安らかな寝息をたてている美人エルフ――マリアさん。

 別に彼女に飽きたとか嫌いになったわけじゃない。そんなことあるわけない。  

 マリアさんは一日一日と、オレの中でどんどん大事な存在になっている。

 

 ただ、先日のことなんだが……、

 里のハーフエルフの子どもを見ていたら、長老のヨブさんが横にやってきて世間話を始めた。

 それもエルフはなかなか子どもができにくいが、人と交わる場合は別だとかいう、子どもの前ではきわどすぎる話だ。

 

 その話は早すぎるだろ……と思いつつも、将来について考えさせられた。

 

 たしかにマリアさんとオレは初めて肌を重ねた夜以来、別々に寝たことがない。

 夜は彼女への愛情と欲望のままにふるまってきた。

 それはつまり――、

 

「もう子どもができてるかもしれないんだよな……」

 

 オレの隣りに眠るエルフ娘さん。

 その細い腰、すべらかな腹をそっとなでる。

 

 美人エルフのマリアさんと子どもを作ること。

 たった今、触れているこのおなかのあたりに、オレの子が宿ること。

 たがいの血を分けた子を彼女に産んでもらい、二人で育てていく将来。

 

 ――想像すらしてなかったが、この先ありえる未来なのだ。

 そうなったときのことを考えると……脳みそがじんとしびれるくらい幸せだと思う。


 だが、問題はオレのおかれた状況だ。


『十万人の信者を集めたら、地球で生き返らせてもらえる』


 過労で突然死んで、こっちに送られることになったオレが、ゼウスさんとかわした契約である。

 しかし、こちらの世界で一番大事な存在――マリアさんができてしまった以上、むこうにもどらなくてもいいと思うようになっていた。

 これもゼウスさんたちや、ヨブさんたちの思惑通りかもしれないが……。 


 けれど、むこうには家族と友人がいる。

 お別れも礼もなにも言えないまま、いきなり死んでしまったから、また会いたいという気持ちは、まだ強く残っているのだ。

 もし、あっちに生き返るにしてもマリアさんも連れて帰りたい。

 彼女抜きで帰りたくなんてない。

 両親も兄弟も、オレがとがった耳の恋人を連れ帰ったらびっくりするだろうけど。 

 

 そんなこんなで、いろいろ考えることが増えた。

『気楽なのは独身のうちだけ。大事なものが増えると考えることも増えるぞ』

 会社の先輩が結婚したときに言ってたことは本当だったんだな。



「……とにかく、まずは情報が足りないんだよな」


 どこまで信者が増えたのか?

 あとどれくらいで帰れそうなのか?

 もし、だれかを連れて帰りたいならどうすればいいか?

 決断を下すまでに残された余裕は?


 オレはすべて知らないままだ。このままではどうしようもない。


 あしたの朝、アテナさんに聞いてみよう。 

 もしかして話してくれないかも知れないが、


(そのときはあいつを使おう)


 オレは棚の上、鎮座しているぬいぐるみに、ちらりと目をやる。

 そこにいたのはマリアさん力作のヴァジュラクーン人形『ヴァジュラくん』。

 全体的によくできているが、特にぽんぽこおなかに関してすばらしい再現度を誇る。


 こいつなら、あの冷徹女神の鋼鉄の防御を崩せるかも。

 うん。試してみる価値はあると思う。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆  



 翌日――、

 オレは里で作業監督中のアテナさんに直球勝負で問う。


「……というわけなので現在の信者数とか今後の計画とか教えてください」

「いそがしいので、また後にしてください」


 ……いきなり、邪険に扱われた。 


 ま、そうだろうな。

 最初から布教計画を丸投げにしておいて、今ごろ、あれこれ教えろと言われてもこまるだろう。

 里の発展計画ももう最終段階らしいし、アテナさんにも余裕がないのは分かる。


 ……しかし、こっちにはコイツがあるのだ。

 行け! ヴァジュラくん!



「ヨシトさんは黙って、わたしの言ったことを聞くのが……はわわわわわぁ!」

 

 アテナさんが途中からキャラ崩壊してしまったのは、オレが後ろ手に隠していた『ヴァジュラくん』を見せたせいだ。


「こいつは『ヴァジュラくん』です。なかなかすばらしいぽんぽこスタイルでしょう?」

「……ヨシトさん……早急にそれをわたしなさい!」


 ダメです。いろいろ聞くまでは。


「いいからさっさとよこしなさい! それは人の身が持つべきものではありません!」


 いや、どこの禁呪装備ですか!?


「さあ、はやく!」 


 続けて、アテナさんがすごい形相で奪いに来たので、彼女の手の届かないとこまでヴァジュラくんを持ち上げる。


「くっ! まだまだッ!」


 華麗なジャンプ。ヴァジュラくんを奪いにかかるアテナさん。

 おお、高いな! しかも空中でもう一段ジャンプ……だと?! まさかあなたが倭刀術の使い手だったとは!?

 しかし……甘い。

 こっちも軍神アレスさんの加護があるのだ。大ジャンプで回避してやる。

 おたがいに、高度な読み合いと身体能力を駆使したヴァジュラくん争奪戦がはじまる。


 しかし、はたから見れば、美少女がぬいぐるみを欲しがってぴょんぴょんはねてる姿なわけで……、

 これがなかなか、かわいらしくみえたらしい。

 ふだん冷静な彼女が見せた珍しい光景に、里のみんなからもほっこりとした視線がそそがれる。


 おや、あちらにはロックさん、アンディさん兄弟のすがたが――。


「ははは、兄貴、パラスさまにも年相応なところがおありだな?」

「ばかもの! アンディ、よく見ろ、お二人のあの動きを……。どちらも高度な体術を駆使した上での、達人レベルの駆け引きだ。あの神業をきっちり目に焼き付けておけ!」

「おお。そういえば!!」


 ですから、そこに着目しないでください。脳筋エルフ兄弟さん。 


 かくしてしばらく、激しいヴァジュラくん争奪戦が繰り広げられたのち――、


「し、しかたありませんね。ヴァジュラくんを人質に取られては……まあ、たしかに教祖として知っておくべきことはあるかも知れませんし」


 里から集まった視線に気づき、ついに屈服するアテナさん。 

 いや、人質って……もともとあなたのものじゃないでしょう?


 しかし屈辱に身を震わせるアテナさんに、ヴァジュラくんは差し上げることにする。

 さすがにこれ以上怒らせると女神の怒りが怖いしね。 


「はい、どうぞ。でもちゃんと知りたいことは教えてくださいよ?」

「わたしに二言はありません」


 念を押したうえで、ヴァジュラくんを手わたす。

 アテナさんはひったくるように受け取り、ぬいぐるみのぽんぽこなおなかに顔をうずめる。

 いや、一度あげたものを取りかえしたりしませんから、そんなにジト目でにらまないで。


「……ほんとうに?」

 

 ええ。それより夜なべしてヴァジュラくんを作ってくれたマリアさんに、ちゃんとお礼を言っておいてくださいね。


「……はい。あとで必ず」


 ぬいぐるみの腹でくぐもった声で素直な返事がもどってきた。 

 答えたアテナさんは胸の前、ヴァジュラくんをぎゅむっと抱きしめ、顔をうずめたままだ。


 ……むう、ふだんからは考えられないしぐさだな。


 慣れてるオレも、どきりとさせられる姿だった。

 そして彼女の影響を受けたものは……実はまだいた。



 ――さて、ここで思い出していただこう。

 ふだんクールな美少女がふいに見せたカワイらしい素顔。

 これに、ころりといかれることを世に『ギャップ萌え』という。

 皆さんもよくご存知の現象だろう。 


 しかし、このミドハイムにはツンデレのツの字も存在しない文化の辺境。

 我ら文明人(ヘレネス)からすれば萌え文化において野蛮人(バルバロイ)にひとしい若者エルフさんたちが、このアテナさんの姿に触れればいったいどうなるか?

 



 その答えは――





「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」」」」」」

「「「「「「パラスさま、なんとおかわいらしいいいい!!!!!」」」」」」


 ヤック・デカル〇ャーな大騒ぎである。


「「「「「パ・ラ・スッ! パ・ラ・スッ! パ・ラ・スッ!」」」」」


 あろうことか、里の若者たちのあいだに巻き起こるパラスコール。


 ダメです! いけません! これでは本当に怪しい人たちです!

 我が教団が一番、恐れている事態です!

 早くやめないと全員、異端認定しますよ!

 そこ! アテナさんも調子に乗って手を振り返したりしないでください!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

 


 里の騒ぎは沈静化までかなりかかった。

 まったくヨブさんとロックさんの制止がなければどうなっていたことか。


『ちょっと留守にしてたら残してたメンバーが金の牛を作って拝んでたんだが……』

 ってスレを神界の掲示板に立てたという昔の教祖さんの気分がよくわかります。



 ――ちなみに、あとで里の若者たち手作りの木製ヴァジュラクーン像をいっぱい渡され、アテナさんはご満悦だったようだ。

 部屋の中で大量のタヌキに囲まれて笑ってる彼女はそうとう不気味だったが……。

 


 しかし、そればかりか……この人形はのちに里の名物にまでなってしまう。


 アテナさんのぽんぽこおなかに対するゆるぎない愛と監修、そして美少女に好かれたい若者たちの熱意が組み合わさり、出来上がったヴァジュラクーンの神像はすばらしい工芸品に仕上がったのだった。


 

 ――これもゆるキャラによる里おこし……なのだろうか?



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