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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第四章
36/110

今、そこにある幸せ

 どうも。異世界でちゃくちゃくと布教をすすめる久世ヨシトです。

 もっとも計画はほとんどアテナさん任せで、オレは単なる肉体労働者ブルーカラーなんですが。


 ……さて、いきなりですが『幸せ』ってのはいろいろあると思います。

 ときどき、街角で「あなたの幸せを祈らせてください」なんて人が来たりしますが、ホントにニーズを把握してくれてるのか疑問です。

『幸せ』って、人によってはおいしいものを食べることだったり、趣味のものを収集することだったり、目の前に並べたお札を数えることだったり、きれいなお姉さんにふまれたり、ののしられたり……などなど。あれこれ、ありますよね。

 きっちり、そこらへんを押さえて祈ってくれてるんならありがたいかぎりなんですけど……。


 ちなみにオレにとっての幸せは……こっちにきてから初めて見つかりました。



  ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 幸せな目覚めってものがあるとしたら、それは今のオレのこれがそうだろう。

 まどろみから意識が引き上げられていくその間、胸元にはっきり伝わってくるこの感触だ。


 眠りから覚めたオレが身じろぎする。

 胸元にさらりとした髪がこすれて、くすぐったい。

 そしてオレの肌にぴたりと密着している、冷たくてなめらかな感触。

 

 まぶたを開くと、そこには――、


 エルフの美しい寝顔があった。    

 もちろん、マリアさんのものである。


「ん……う」 

  

 マリアさんはまだ眠りの世界にいる。

 その幸せそうな寝顔がいとおしい。

 寝乱れ、汗ばみ、顔に張りついた髪もいとおしい。 


 この幸せを壊さないよう、オレはそっと彼女の頭をなでた。


「んん……ん」


 おや、できるだけ優しくさわったつもりが、彼女の安眠をさまたげてしまったようだ。

 彼女はゆっくりと大きな目を開いていく。


「ヨシト……さま?」


 寝ぼけた顔と声のマリアさん。しばらく、オレと見つめ合いぼうっとしていたが――、


「も、もうしわけありません!」


 マリアさんはあわてた。自分のしどけない姿に気づいたのだろう。 

 

「す、すみません、今どきます!」


 パニックになり、体を離そうとするマリアさん。

 だが、オレは許さない。腕を回し、がっちりと抱え込む。


「ヨシト……さま!」


 マリアさんは少しの間、悪戦苦闘したが、オレの拘束から逃れられない。

 


「……もう!」


 すぐに甘い抗議の声を上げ、あきらめてオレの胸にしがみつく姿勢に戻った。

 すべすべしたほほを胸板にぴたりと寄せてくる。


「……ヨシトさま」

「……なんです?」


 こちらを見上げて、ささやきかけてきたマリアさん。

 上目づかいの表情にくらりときながら、オレが返事すると、


「わたし……幸せです。こんなに幸せでいいんでしょうか?」

「オレも幸せです。こわいくらいに……」


 似たようなことを考えていたことにオレたちは安堵し、この朝、最初のキスを交わす。

 

 ――オレたちがこういう関係になったのは、つい昨夜のことだった。 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 鬼さんの大群の襲撃から十日ほど立とうとしていた先日の夜。

 オレは疲れ果てて部屋に戻ってきた。

 

 アテナさんの要望で、ヴァジュラクーン召喚のための刀を打っていたのだ。

 今のままだと、あのタヌキを召喚するたび、貴重なバディラクーンが一本づつ無くなってしまう。それでは困るということらしい。

 あの電撃タヌキを里の発展計画にぜひ使いたいとのことだったが……、

 どこまで本当やら……言動からすると怪しいとは思う。


 ちなみに新たに作る刀の名は『ライキリー』。雷の剣だから『雷切』。

 安易……ではなくシンプルイズベストなネーミングである。

 ヘパイストスさんいわく、

「備前長船兼光作『竹俣兼光』別名『雷切』あるいは『鉄砲切』を模したものだ」

 ――とのこと。 

 

 今日の憑依鍛冶(トランスミス)、ヘパイストスさんは久しぶりの本気の鍛刀で気合が入っていた。

 おかげで妙に疲れた。こっちは骨折から復帰したばかりなのに。 

 


 へとへとになって部屋に帰ると、そこには――


「お、おかえりなさいませ」

「た、ただいまです」

 

 マリアさんがいた。あのキスからちょっと気まずい。

 というか、お互い意識してしまってから関係が妙にぎこちない。

 それでもマリアさんは自分の仕事をきちりと果たしてくれている。

 さらに、その上で――、


「ヨシトさま、マッサージはいかかでしょう? 先ほどアリアからお疲れのようだと聞きました」


 ほう、ナイスだ。アリアちゃん。

 あのエルフ幼女、助けてあげてから態度が軟化した。

 基本的にはこまっしゃくれてるが前ほど突っかかってこなくなった。

 うれしいような、さびしいような……複雑な気分だ。


 しかし、ひさしぶりのマッサージはありがたいな。


「……では、お願いします。けっこう凝ってるんで」

「わかりました。今日はオイルマッサージです」


 へえ。なんか小じゃれたものをはじめましたね。

 でも……どこからオイルなんて仕入れたんです?


「ヨシトさまのお知り合いだという、ユピテルというかたから分けていただきました。食用の他にもマッサージや髪の手入れに使えるということで、里の娘たちは重宝しているそうです」

「……ユピテル? 聞いたことがないけどな」

「おかしいですね? たいそう美男なかたでしたよ。そうそう、里の娘ほぼ全員に誘いの言葉をかけていましたが……」

「……ああ、もうわかりました」 


 ゼウスさんだな。まちがいない。

 変わった偽名を使っているから一瞬わからなかった。

 けど、そんなにオリーブオイルあまってるのか? 

 どんだけ大量に買ったんだろう?

 異世界にやってきてまでばらまくとか相当だよな。

 しかも食用以外の用途まで模索し始めてるし。


 ……なんてことを考えてるうち、

 ビンから油を取り出し、マリアさんは手にたらしていた。


「では、どこを中心にマッサージしましょうか?」

「そうですね。ではすみませんが、ふくらはぎのあたりを……」


 オレはマリアさんにお願いする。

 骨折のあとはだいぶよくなったが、まだ痛むのだ。

 とくに今日みたいに体を酷使したときは。


 今回はオイルを使うため、床の上に布を広げてマッサージだ。


(おお……これは!)


 オイルのなめらかさ、マリアさんの肌のなめらかさが合わさって天国かってくらいに気持ちいい。

 ……だが、少しして、ちょっとよろしくないことに気が付く。


「……マリアさん、やっぱりやめてください」

「どうしてです? 下手でしたか?」

「いえ、ちがいます。……上手すぎて問題なんです」

「?」


 首をかしげたマリアさんに恥ずかしながらもオレは告げる。


「……気持ちよくなって変な気分になっちゃうんですよ。だから二人きりの今はちょっと」


 オリーブの芳香がマリアさんの甘い体臭と混ざって、なんだか官能を刺激する。

 オイルが粘りつく音も、肌の上をマリアさんの細い指が滑る感じも、腰骨のあたりに妙な欲求をためていくのだ。

 マッサージしてくれる人が魅力的だし、これはまずい。

 以前と違い、マリアさんを恋愛対象としてみてしまってるから、がまんできそうにない。


「そう……ですか」

 

 マリアさんは残念そうにいい、手を止めてしまった。

 うん。せっかくオイルまで使ってくれたマリアさんには悪い。

 だが、そういうサービスまでさせちゃいけません。


 ――足からはすでにけっこう痛みがとれているし。


(ふう、気持ちよかったな) 


 マッサージの心地よさに疲れもあって、睡魔が押し寄せてきた。


 ごそ、ごそ


 マリアさんが片づけをしてるのか、物音がする。

 ん? 衣擦れの音がするぞ? なにしてるんだろう?


 と、夢うつつで聞いていたが――、

 ひっそりした足音とともに、背中に重みがくわえられる。これは手だろうか?

 マリアさん、まだマッサージを続ける気だろうか? 

 それはこまるな。


「いや、だからこれ以上されると、オレ抑えが利かなくなりますから!」

 

 マリアさんを押しのけようとして触れたとき、手のひらに冷たくなめらかな感触があって――、



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「これって!?」


 オレはがばっと跳ね起きた。

 そこには、しどけなく床に座る美人エルフさんの姿。


 しかし……あろうことか、彼女は生まれたままの姿だった!!


 下腹部と胸は両手でおおっていたが、隠しきれない白い裸身がまぶしすぎる!

 室内を照らす頼りない灯火の中でも、その白さが際立ち、闇を押しのけている。

 深夜アニメなら謎光線がバンバン射し込んでるような光景が広がっていた。


「マリアさん! なんで服着てないんですか?!」 

「……その……ヨシトさまが妙な気分になられたというので」

 

 いやいや、いけません。そうやって自分を粗末にしちゃダメです。

 里のためとかもうホントにダメです。

 だいたいオレはいつかどこかへいっちゃう人なんですよ?


「いいえ、これは里のためではありません。浅ましながら……これはわたしの望みです。石打から救っていただいた時からお慕いいたしておりました。過ごせる時間が限られていてもかまいません。いえ、だからこそ、早く……」

 

 そこまで早口で言ったあと、マリアさんはオレの顔を見上げていった。


「わたしは……あなたにすべてをささげたいのです。受け取っていただけませんか?」


 真剣に、まっすぐに、オレを見つめるマリアさんの視線。


 ここまで本心を教えてくれるとは思わなかった。

 ここまで本心を教えてくれるくらい、オレのことを好きだとは思わなかった。

 

 マリアさんの愛情がすとんとオレの心の中に落ち着いていた。

 本音をさらけ出してくれたマリアさんを前にして、あれこれと、ごちゃごちゃと考えてた断りの口実が全部、卑怯でチンケなものに感じた。 


 この美人のエルフさんと男と女の仲になることが自然なのだと心から思う。


 ――じゃ、やることは一つだ 


 オレはマリアさんに歩み寄り、 

 

「……手を」

     

 マリアさんは催眠術にかかったようなとろんとした目をしている。

 オレの言葉に無意識に従い、細い腕がそろそろと差し出された。


「あ……!」


 その腕をつかんでぐいと引く。マリアさんを引き起こす。

 立ちあがったマリアさんを一度、強くぎゅっと抱きしめたあと。

 彼女のひざ裏に腕を差し入れ、すくいあげる。

 いわゆるお姫さまだっこだ。


「っ?! ヨシトさま!?」


 抱え上げたまぶしい裸身をゆっくりと運び、ベッドの上にそっと横たえた。

 続けてオレもベッドの上に乗り込んでいく。

 服を脱ぎ、マリアさんの上にできるだけゆっくりと体を重ねた。


 ――オレは彼女と一つになる準備を淡々とすませていく。


「あの……ヨシトさま? なにを……!?」


 急展開に混乱しているマリアさん。

 オレは顔を寄せて、一言だけ……こう告げる。


「この状況で答えって……必要ですか?」

 

 オレの荒い吐息、瞳に浮かぶ欲望(よくぼう)の炎――それだけですべてを悟ったのだろう。

 マリアさんの瞳にも相手を求めてやまぬ貪欲(どんよく)灼熱(しゃくねつ)が燃え移った。 


「……いいえ」


 首を横に振ったマリアさんのあごを押さえ、唇を合わせていく。  

 一度、顔を離して熱のこもった視線をからませ合い――、 


 ――そして、オレたちは深く深く結ばれた。


 



 

 

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