VS百鬼夜行6―ヴァジュラクーン
「これは……」
まるで某名作SF映画に出てくる光の剣のように青白く輝くヴァジュラクーン。
刀身の発光はどんどん強くなり、そして――。
パシュ!
「な……?!」
……なんと刀身が消えた。蒸発してしまった。
く、失敗か? やはり量産品じゃ、ゼウスの力を受けきれなかったのか?
オレは手元から消えた武器に絶望の思いを抱く。
だが――、
青白い光はまだオレに降り注いでいる。
「?」
オレがその発生源を見上げると、そこには――、
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「これは!?」
オレだけじゃなく、トロールたちも空を見上げている。
そこにあったのは全長十メートルを超える巨大な青白い発光体。
やがてその光は収束し、形を作り始めた。
そして、オレの目の前に現れたのは……、
「な……!?」
下ぶくれのぽんぽこりんなシルエット。
もっふりしたしましましっぽに丸い耳。
目の周りにはたれ目に見えるもよう――そして、くりくりつぶらな瞳。
「……た、タヌキ!?」
そう――そこには巨大な青白いタヌキが立っていた。
それもふつうのタヌキではない。
信楽焼のタヌキのような二足歩行、短い手足。
……かわいらしいとされるマスコット要素をすべて兼ね備えた造形。
そして、その青白発光タヌキは――、
「もっきゅーん!」
夜空へ高らかに鳴いた。
それも、もうむちゃくちゃかわいらしい声で――。
「へ?」
……オレにはもういったい、なにがなんだかわからない。
「ウガアアアアアア!」
一方、目の前の物体を敵とみなしたのか、トロールが攻撃をしかける。
しかし、空振りした。
いや、ちがう。トロールのヒジから下が消失している。
……もしかして、このタヌキに触れたせい……なのか?
「もっきゅーん!」
今度はタヌキの番だった。腰を下ろし、ふんばる動作のあと、夜空へ大ジャンプをかます。
そしてトロールに向けてフライングボディプレス。
いちいち動作までがかわいらしい。
だが、その結果は――。
じゅッ
転がって起きたタヌキ。
先ほどまでトロールがいた場所には黒い消し炭のようなものが残るだけ。
まさか、お前が蒸発……させたのか?
「もきゅ」
タヌキはオレに向かってうなずき、真ん丸おなかをぽこりんと叩いて見せた。
すごい。見た目はアレだが、すごいタヌキだ。
おそらくこいつの体はプラズマのようなもので構成されているのだろう。
たぶんカイザーフェニッ〇ス的なあれだ。
だが、なぜタヌキ? なぜプラズマたぬきがこんな場所に?
……あ、まさか?
……もしかして……命名が『雷霆』と『狸』だから?
これが言霊というやつだろうか?
「もっきゅ!」
力強くうなずくプラズマだぬき。
……そんな。
初めてのオリジナル必殺技が、なんでこんなファンシーなことに……
オレは、あまりのショックにがくりと腰を下ろす。
「もきゅ?」
どうしたのって感じで首をかしげるタヌキ。
いや、お前に罪はないんだよ。うん。生まれ出でた命に罪はない。
ただ――、
いやいや。ちがうちがう!
こんなことやってる場合じゃない!
とにかくこいつは強力な召喚獣みたいなものなんだ。見た目はアレだけど……。
この状況で、こいつの存在は最高にありがたいはずなんだ。
「ヴァジュラクーン。そこにいるトロール二体、できれば先に行った他の鬼も……倒せるか?」
「もきゅ!」
タヌキは、まかせろという感じで腹をたたく。
よし、ならば行ってくれ! ヴァジュラクーン!
「もっきゅー!」
高らかに鳴くと、ヴァジュラクーンはぽこぽこと駆けだした。
なんてこった! 足音までファンシー……だと?
足跡のつもりなのか、肉球型の焦げあとまで残していくあたり芸が細かい。
「うが……!」
「うご……!」
ジュッ!
立ちふさがろうとした二体のトロールは体当たりで即座に蒸発させ瞬殺。
ヴァジュラクーンは鬼の大群を追跡する。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
数分後――、
刀の鞘を杖代わりに、里へともどるオレの耳に――、
ピギィ、プグゥ、ポゲェ、ウゴォ……などなどetc。
ゴブリン、トロールたちがあげる断末魔が届いた。
あのプラズマたぬき――ヴァジュラクーンは立ちふさがる木も敵もすべてを蒸発させ、鬼の大群を駆逐しているようだ。
「もっきゅもきゅーっ!」
元気なタヌキの鳴き声も聞こえる。キミが楽しそうで何よりです。
がんばってくださいよ。ヴァジュラクーン。
のちに里では今夜のことを「火の七分間」と呼んだとか、呼ばなかったとか……。
「な、なんでこんなものにーっ!!!」
くわえてスレイマンの絶叫が風に乗って聞こえてくる。
……ま、そりゃそうだろうな。
力を誇示できて得意絶頂のさなかに、道をはばんだのがよりにもよって、あんなファンシー電気タヌキだもんな。
せめて神々しい麒麟とか鳳凰とかドラゴンなら相手も納得できたんだろうが。
――そう考えると、あのタヌキも、なかなか優秀な心理兵器なのかも。
「ば、バカなっ! こんな終わりがあってたまるかーっ!!!」
鬼人のむなしい叫びが夜空に響き、オレは諸行無常、盛者必衰の理を実感する。
そうだ。戦いはむなしい。戦いは何も生まない。
いや、あのかわいいプラズマたぬきは生まれたけど……
なんて、たそがれていると――。
ぽこぽこと音を立てて、ヴァジュラクーンが返ってきた。
「もきゅ」
任務完了って感じの鳴き声だな。
敵は……全部やったのか?
「もっきゅ」
そうか。あの大群をマジでお前一体でやっちまったのか。ありがとよ。
――と、礼を言いつつも、こんなところでファンシー召喚獣と会話してる奇妙さに頭が痛くなる。
しかし、ピンチを救ってくれたのはこいつだ。この電気タヌキさんだ。
……本当にありがとう。
「もきゅー」
いやいや、気にすんなよって感じの鳴き声をだすタヌキ。
おお……男前だな。さすがオレの召喚獣だ。
じゃ、どこからやってきたかは知らんが、ここらへんでもどってくれるか?
「もきゅ」
タヌキはうなずく。そして――、
「もっきゅーーーーーーん!」
タヌキはひときわ青白く輝き、わが人生に一片の悔いもない感じで片手を上げた。その姿のまま、しゅぱっと虚空に消えていくプラズマたぬき。
……そりゃ、あんだけやれば悔いはなかろう。
ありがとう。プラズマたぬき。
そして、さようならプラズマたぬき。
いつかキミの力が必要になるその時まで……しばしのお別れだ。プラズマたぬき。
――なんて、脳内ナレーションを入れていると。
「ヨシトさん!」
「師匠!」
「ヨシトさま!」
森の中を駆けてくる。おなじみのみなさん。
まずは我が一番弟子ロックさんが真っ先に。
「師匠……突然現れて敵をすべて駆逐していったあの獣は?! いったいなにものです?!」
「あれはわたしの召喚した聖獣です。名はヴァジュラクーン」
――信心獲得のため適当なことを抜かすのは、いつものお約束です。
「おお、さすが師匠です。そして、あの神々しいお姿、目に焼きついております」
ええ、オレも焼き付いてます。
あなたとは別の意味で……
「よくやりましたね。ヨシトさん」
さらにアテナさんが声をかけてきた。めずらしくはずんだ声だ。
おや。本当に貴重です。
女神さまがまさか親指立までしてくれるなんて。
「みごとな電撃戦でした。戦女神のわたしもびっくりです」
え? いや。あれを電撃戦と言っていいものか?
たしかにあのタヌキは電撃だけど……。
「なにより、ぽんぽこりんな造形が最高です。すばらしいです」
ああ、そうですか。あのフォルムがツボだったようでなによりです。
あなたの趣味がよくわかりませんが意外とかわいいもの好きなんですね。
「ええ、また召喚してください。あのおなかをもふもふしたいです!」
いや、それはよしたほうが。あこがれても、シビれてはいけません。
たぶんあなたでも蒸発しますよ。
……なんて突っ込みを入れてるうち。
急に体が重くなった。意識が遠のいていく。
あれ? どうしたんだろう?
ひざをついたオレをアテナさんが支えてくれた。
「……人の身で二柱の神の力を組合わせて使ったのです。魂も消耗するでしょう。むしろその程度ですんでいるのが奇跡です。さすが神仏習合の国から来た人ですね」
――なんて耳元でささやかれたアテナさんのほめ言葉が、その夜、意識に残る最後の言葉だった。




