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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第三章
32/110

VS百鬼夜行5―敗北、そして……

「そこにいるのだろう? オリンポス教団の教祖とやら! 貴様の顔は見間違えないぞ。トロールの目をとおして見ていたからな」


 木の上のオレたちへ呼びかけてくる声。

 ヤバい、気づかれたみたいだ。どうしよう?


 オレはアリアちゃんを連れて開けた場所へ転移することにした。

 ここからなら里まで一直線。さっきまで登ってた木のそばに大群は引きつけた。

 だから少しの間、時間は稼げるはず。

 よし、では――、

『我を運べ!』


「な、なにこれ!?」

 初めて目にする神の加護・瞬間移動に驚くアリアちゃん。

 オレは教祖らしく説明してやる。

 

「ヘルメスというたいそう苦労人な神さまの加護ですよ」

「苦労人? 神さまの割に辛気臭いわね」

「アリアちゃん。失敬な。もう少し神さまに敬意をもちなさい。ヘルメスさまは人柄のいい方ですよ。交渉と商売の神、他にも色々つとめてらっしゃる万能な方です」

「え、そんな人柄で勤まるの? それにあれこれやりすぎて器用貧乏な気もするし」


 ……アリアちゃん、もうその不遜な口を閉じときなさい。



 …………あと、走ってここから逃げて。



「え……、あんたは?!」


 ぎょっとした顔のアリアちゃんにオレは笑顔を向ける。 


 オレは残ってここで時間を稼ぎますよ。

 里にオレがいないとばれたからね。攻勢に出てくる前にできるだけヤツラの数を減らさないと。

 あと、里のみんなに逃げるよう伝えてください。

 アテ……じゃなかったパラスさんなら全員の脱出計画くらい立ててるはずです。 


「でも敵はこんな数よ! だいじょうぶなの?」


 ちゃんとアリアちゃんのおしりを百回たたくまでは生きてますから。

 だから里に戻って。みんなと逃げてください。避難は、あくまで一時的なものです。


「……だって」

「さ、早く! 足手まといだから逃げて!」


 かわいそうだったが、そこまで言うとアリアちゃんはうなずいた。


「ぜ、絶対よ、約束なんだから。あんたとの仲を認めたわけじゃないけど……それでもあんたが死んだらお姉ちゃん、すごく悲しむんだからね!」


 ようやく逃げ出してくれたアリアちゃん。

 けど……オレの死にフラグっぽいセリフは、ちょっとやめてほしい。


 ま、それでも立ち向かわなきゃな。

 一か月暮らして思ったんだが――オレ、どうやら里のみなさんがけっこう好きみたいなんだ。

 体を張って守りたいくらいにはね。

 こっちは一度死んだ身だ。怖いものなんかない。 

 もし死んだら……ゼウスさんやアテナさんとかには悪いけどな。



    ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ゴブリン、トロール、ずらっと並んだ鬼さんたちに一人で向かい合う。

 と、そこへ、先ほど声をかけてきたマッドな感じの中年さんが声をかけてきた。


「ほほう。転移の術か? 邪法の使い手だな? バァルさまが言っておられた邪神の使徒とはやはり、お前のことのようだ。 ならば名乗ろう。わが名はスレイマン、人呼んで『百鬼夜行』。バァルさまの忠実なしもべだ!」


 ……バァル? この世界の神だろうか? 

 ま、ゼウスもアテナもいるんだから、そんなのがいてもおかしくはない。

 だが邪神ってのはむしろ、トロールとかけしかけてくるそっちじゃないかと思うんだが。

 ……これが見解の相違ってヤツか?


 もし相手が主人公だったら、鬼を操る能力を持って生まれたが、さげすまれて……、それでも戦い続けるうち、神の加護とかあって周りに認められて……なんて成り上がりストーリー書けそうだもんな。

 そのうち、自身が鬼化する能力とか手に入れて俺TUEEEEとかできそうだし。

 中二的題材だけど、ヘタレ教祖なんかやってるオレよりかっこいいかもな。 



 ……けどね。こっちも背中に守りたい命をしょってるんでね。負けてやれませんよ。



「ふん、お前がいなければあのような里……一押しで落ちる。先ほどの試しで理解した」  

 

 ああ、やっぱりさっきの攻撃は本気じゃなかったか?


「まあな。できるだけ多くの民を殺さず奴隷にせよとの依頼だ。ならば力押しではなく、きっちりと相手の力を把握する必要がある」


 おや? そんな情報漏らしていいんですか? 

 今のでほぼ確実に依頼主が特定できたんですが。


「問題ない。お前はここで死ぬからな」


 ほう。すごい自信だな。


「ふん。トロール一体にも苦戦していたお前がトロールの集団相手にどこまで戦えるかな」


 く、それは――。

 でも逃げ回るくらいならオレでもできるぞ。

 あとは一頭ずつ、雷霆(ビリビリ)で片づけていけば……。

 うん。時間はかかるがなんとかなるだろ。 


「ちなみに……お前が逃げ回ってるうち、ゴブリンどもが里に攻め込むぞ。そちらにもトロールをつけておくからな」


 ああ、八方ふさがりかよ。

 そして、さらに――、


「うむ、それとな……もう一つ、こちらにも切り札がある。『我が身の内なる鬼よ、目覚めよ』!」


 呪文らしき言葉を唱えたスレイマン。

 その額からミシミシと音を立てて角が生え、筋肉が盛り上がる。

 同時に肌は赤黒くなり、目はすべてが白目に変わった。


「……たしかにおれは鬼人(オーガ)になれる。よくわかったな? それも邪神の能力か?」


 いえ。まったくの偶然です。

 ていうか、こういう偶然ならいらねえよ!


「そうか。ならばいい。そして、まずは……その杖が邪魔もののようだ」

 

 鬼人(オーガ)となったスレイマンの姿がかき消え――、


「うわッ!」


 いきなりオレの目の前に現れた。なんて速さだ! 


 メギィ!


 そして強い! 

 つい受けに回した雷霆の杖が蹴りの一撃で砕かれてしまった。


「く……」

 

 杖の残骸を手に、オレはぎりりと歯を食いしばる。


 この雷霆の杖、ゼウスの雷のレプリカを構成するのは二つの部品。

 まずゼウスの力が込められた、いわば電池部分である琥珀(こはく)

 琥珀はギリシャ語ではエレクトロンという。こすれば静電気が発生することから英語の電気(エレクトリシティ)の語源となった宝石だ。この宝石の因縁を呪術的に生かしてゼウスの力をこめ、この杖の動力源(バッテリー)にしているらしい。 

 そして五行思想では雷が木部に入ることから、雷の制御に使われたヤドリギ。

 ヘルメスさんによるオレに使わせるためのカスタムで、制御用呪式が耳なし芳一ばりに徹底的にかきこまれている。人の身に反作用なしで神の力を使わせるには、これくらいの安全装置がいるそうだ。

 ……わざわざのご配慮すみませんね。

 東洋呪術と西洋呪術の交雑種(ハイブリッド)。この杖は意外に高度な魔法技術の産物らしいんだが……

 しかし、ヤツに壊されたのはヤドリギの部分だ。

 この制御部分が壊されてしまっては……杖はもう使えない。


 こっちの最強の切り札が――失われた。


「ほれ、まだまだ終わりではないぞ!」


 パニックに落ちいってる間もなく、スレイマンの攻撃が続く。

 必死で転がり、さらなる追撃を回避する。

 スレイマンはのびた爪、そして圧倒的な筋力で押してくる。ごり押しだが効果的だ。

 こっちはなんとか剣で受けた。アレスの加護を最大限まで発動する。

 人間業じゃない応酬が始まった。それでも相手のほうが速い、強い。


「ッ!」


 ついに肩に一撃食らってしまう。

 さいわい、なんとか獅子の毛皮ではじけたが……危ないところだった。 


「その防具はなかなかやっかいだな? ならばその間抜けた(つら)のほうを……」


 毛皮の防御がない顔面狙いか?

 そう思ってとっさにバディラクーンを上段に向け、受けに入り――。

 そこでヤツの言葉はフェイントだったと気づく。

 戦闘中、相手の言葉をうのみにするなんて……実戦経験のなさが現れてしまった。

 

「バカめ、足元がおろそかだぞ!」

 

 嘲笑の言葉とともに、毛皮の保護がないオレの右足、踏み出した(すね)に鋭い足払(ローキック)をかまされる。


 ゴグッ!


 嫌な音がした。

 同時に走る吐き気のしそうな痛み――まちがいなく折れている。 

 これでは……もう十分に動けない。


「我をはこ……痛ッ!」

 とっさにヘルメスの靴を使おうとしたが、痛みで精神集中が妨げられる。 

 そんなオレの姿にスレイマンは満足そうに笑った。もう追撃はこない。 

 ヤツは、すでにオレは戦力外だと思っているようだ。 


「……ふ、これで逃げ回ることもできまい。あとはトロールになぶり殺しにさせてやる」

「待てッ!」


 スレイマンは疾風のごとき速さで、その場をあとにする。

 オレはその背中に手を伸ばしたが……間に合わない。スレイマンの姿は闇の中に消える。



    ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「うごおおおおおおおッ!」


 足を折られたオレに、かさにかかって襲いかかってくるトロール。


「やられるか……よ!」

 オレはなんとか地面を転がって、木々の間に隠れた。

 みじめに木陰を這い回って逃げながら、オレは自分の非力さをなげき、怒る。


「なにが時間稼ぎだ! 全然歯が立たなかったじゃないか!」

 

 悔しさで歯ぎしりが漏れる。

 スレイマンに大群のゴブリン、そしてトロール――あっさりとヤツラを通してしまった。

 これではアリアちゃんが里についてすぐ――下手をすれば彼女が到着する前に、鬼の大群が里を襲うことになる。


「調子に乗ってここまで出てきた挙句がこのざまか……」 

  

 そして、危機にあるのは里だけじゃない。

 オレの姿を探し回るトロールが三体。見つかるのは時間の問題だろう。 

 そこには雷霆の力でようやく勝てた相手が三体もいるのだ。

 一方、今のオレには剣一本しかない。足も折れていて、まともに動けない。

 ……状況は最悪。絶望的だ。


「一か八か戦ってみるか? いや、雷霆(らいてい)なしじゃ自殺行為だしな」


 あのスレイマンって野郎、どうにもならないこの悔しさを感じさせながら、オレを死なせるつもりか 

 まったく――本ッ当に趣味の悪いやつだ! 


「せめてこの琥珀がどうにかして使えれば、やつらに一泡吹かせてやれるのに!」


 どうにもならない事態に、オレは手にした琥珀に八つ当たりをした。

 無念の想いでたたきつけた琥珀が、偶然、抜身のバディラクーンの刀身に当たる。


 ガツッ!


 と、――にぶく硬いその音が響いた瞬間、脳内に稲妻が走りぬける。



(ん? 待てよ?)

 

 オレはマゴロックのことを思い出す。

 あの剣が放つ斬撃波は、ヘパイストスの加護がこめられたおかげだという。

 ならば、このバディラクーンにも加護がこめられるんじゃないか?

 マゴロックに劣るとはいえ、ヘパイストスの作でしかも頑丈さでは引けを取らないのだから。

 無理やりな思いつきだけど、他にこの琥珀を使う手段が思いつかない。


「よし、だったら――」


 琥珀を含む制御部分の残骸をバディラクーンでごりごり削り、強引に加工した。

 これで形は良し。

 あとはバディラクーンの刀身の根元、刀のつばの部分にはめ込む。 

 不格好だが、これでゼウスの力の込められた琥珀とヘパイストスの作ったバディラクーンを一体化できた。


 いけるはず。そうじゃなきゃ困る。一か八かだが、里を救うにはこれしかない。


「よし、こいつの名前は……雷霆とバディラクーン二つを合わせたものだから……」


 命名『雷霆剣(ヴァジュラクーン)』。


 オレの必殺技にして必殺武器。

 そう。オレは最初からクライマックスだ。


 ま、雷霆(ヴァジュラ)だとゼウスじゃなく帝釈天(インドラ)の持ち物でヒンドゥーとか仏教な感じになっちゃうけど、こういうのは語感の問題だからね。こまけえこたあ、いいんだよ。


   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 こうして新生『ヴァジュラクーン』を手にしたオレは、発見される前に自らトロールの前に飛び出す。


「ウグウウウウウウウウウ!」

 

 探していた標的を見つけ、トロールは歓喜の雄叫びとともに、こちらへ向かう。

 せまりくるトロール――その巨体にヴァジュラクーンを向け、オレは鍵語(キーワード)を唱えた。


『……神罰執行!』



 その瞬間――、

 ヴァジュラクーンの刀身が青白い閃光を発して――、

 


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