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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第三章
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VS百鬼夜行4―戦闘再開

「「「プグゥゥゥゥゥウ」」」


 暗闇の森の中、響くのはゴブリンたちのうめき声。


「く……いや……こっち来ないで」

 

 樹の上のアリアは恐怖に震え、涙を流しながらそれを聞いていた。



 少し前――愛用している弓を手に、森の中へ駆けこんだときは興奮していた。

 一射、二射、彼女の放った矢は見事に眼球を居抜く。

 柔らかい部分を抜けて脳に達した矢じりが、ゴブリンたちの生命を奪う。


「あたしだって、やればできるじゃない! これでもうアイツらに文句を言わせないわ!」


 アリアは歓声を上げる。 


 しかし、喜びに浸れたのはそこまで。敵は圧倒的に多かった。

 彼女が倒すより、闇の中から姿を現す量のほうが多い。


「うそ!? なんで……こんなにたくさん!?」


 あっという間に囲まれ、必死の応戦もむなしく矢が尽きた。

 即座に弓を捨て木によじのぼる判断がなければ、アリアはまちがいなく捕まっていただろう。 


「いや、それだけは絶対にいや……」


 捕まればどうなるか、アリアは知っている。ゴブリンたちの母胎にされるのだ。

 相手がメスであればゴブリンはなんにでも盛る。そして胎盤を持つ生物なら、どんな生物にでも子を生ませることができる。

 それが群鬼たちの特徴である圧倒的な『個体数』の原因であるのだ。

 現にアリアを見つめるゴブリンたちの視線には隠しきれない性欲にあふれている。


 こちらを見つめる豚顔、犬顔、熊に馬に牛の顔。そして人に似た顔。ゴブリンの母体となったものの素性が知れる。

 ならば自分が産むことになる子は……エルフの耳をしたゴブリンだろうか?

 不吉な想像にアリアは震えた。


「いやだ……そんなのいやだ」


 アリアを満たすのは絶望。後悔。

 どうしてこうなったのだろうか?  

 きっと、あのヨシトという男のせいだ。


「あの教祖……ホントに神さまの使いで……不思議な力があるっ……いうんなら、たった今、わだじを……助げで……よね!」


 アリアは、大泣きながら絶叫した。 

   


  ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 一方、そのころ――、

 オレは暗闇の森を駆け抜ける。

 内心でひたすらに文句をいいながら。


 くそッ、子どもはキライだ。 

 うるさいし、わめくし、わがままだし。アリアみたいなのは、こまっしゃくれてるし。

 あいつら、人の善意を当たり前だと思ってる。だれかに助けられるのが当たり前だと思ってる。

 自分が気分よく生きられるのが、優しい大人や年上のおかげだって、まるで気づいてない。


 ――少し前のオレみたいにさ。


 子どもを見てると自分の未熟さを思いだしてしまう。

 どれだけ自分が人に迷惑かけて生きていたか、嫌でも頭の中によみがえってくる。


 ……だから、子どもは嫌いなんだ。


 それでも――それでいて、子どもを見捨てたなら、一生後悔することになる。


 ……その点が一番、子どもが大嫌いな理由なんだよ! 


 オレは心の中で吐き捨てながら、夜の森を疾走する。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 森の中へ、オレは大声で呼びかけた。 


「どこだ?! どこにいる。アリア!?」


 木々が密集しているせいで遠くまで見通せない。 

 アリアの姿は探せないし、ヘルメスの靴のワープ機能も使いづらい。

 だから原始的な方法で探すしかない。


 大声で短く叫び、相手の返事を聞きのがさないため、三秒待つ。

 そして、もう一度――、


「アリア! 返事をしろ!」


 一、二、三……ダメか。ならもう一回。


 と、声を上げようとしたそのとき――、


「イヤ! こっちへ来ないで!」


 木の上、必死でもがくアリア、

 その足元には木登り途中のゴブリンがいる。さらに木の下には大量のゴブリンがひかえていた。

 まずい。後少しでアリアのいるところまで手が届きそうだ。

 

 この距離じゃ間に合わない。アリアが捕まれば……落とされる。

 そうなれば助けられない。

 だったら――?

 オレは取るべき手段を即決した。

 抜刀したバディラクーンを、アリアにせまるゴブリンに投げつける。


 スコン。

 気持ちいいい音を立て、刀はゴブリンの頭部を木の幹に縫いつけた。

 びくり、一度大きく震えたあと、だらりと垂れさがるゴブリンの体……。

 

「ひッ!」

 アリアは間近で発生した暴力に息を飲む。

 

 一方、得物を失ったオレは――、


 ゴシャッ!


 寄ってきたゴブリンを雷霆の杖で撲殺。ゴブリンたちを薙ぎ払いつつ突進する。


「てりゃ!」

 そして杖をつき、棒高跳びの要領でジャンプを決行した。

 そこからさらに木の幹を使って反動をつけた三角とびへと移行する。

 出来るだけ距離を稼ぐため高度を取ったジャンプ――ゴブリンの群れの中央まで一気に飛びこむ。

 中央の一体の頭をふみつけ着地、跳躍するオレを真下から見上げるゴブリン。

 おれを踏み台にした? って感じの表情だ。


「うおおおおおおおおおっ!」

 あとはゴブリンの肩や頭の上を駆け抜け、一気にアリアのいる木の下へ向かう。

 

 ――そしてラスト、木に手をかけていたゴブリンの頭部を思い切り蹴りつけ、大ジャンプ!


「うおぉぉぉぉ! 届けぇッ!」


 ガシッ!


 伸ばした手に確かな感触。よかった。なんとか一番下の枝に手が届いた。

 反動をつけて枝の上に体を運ぶと、そのままの勢いで枝の上を疾走。

 ゴブリンごと木に突き刺さった日本刀を抜く。


 そして、こりずに木登りしてきたゴブリンの頭部を跳ね飛ばす。

 

 ――枝の上には涙で顔がぐちょぐちょのエルフ幼女がいた。


「はあ、はあ……だいじょうぶか? アリア?」

「う、う、うわあああああああぁぁぁぁん!」


 一声かけると、アリアは泣きながら抱き着いてくる。

 あれ? 妙に素直だな、いつもこうならかわいいんだが……


「……遅い。エロ教祖……待たせ……すぎ」


 ぐずぐず鼻をすすりながらも、減らず口をたたくアリア。

 ……先ほどの言葉は訂正する。素直じゃねえな。

 

 ま。こっちのほうがアリアらしい。

 しかし、口では強がったがアリアはオレに必死でしがみつき震えてる。そこらへんは年相応だ。

 だから、安心させようと頭をなでてやると――、


「な、なによ。お姉ちゃんだけじゃなくあたしにまで手を出すの? ホント変態ね」


 いや、子どもに興味はないですし。


「なによ! 子ども扱いしないで、これでも32歳よ!」


 子ども扱いされたいのか? それともされたくないのか……?


 ……ていうかアリアちゃん、オレより年上?! 

 そういえばエルフって長生きなんだよな。


 アリアちゃん……じゃなかった、アリアさん。今まで子ども扱いしてごめんなさい。


「ちなみにお姉ちゃんは……」


 いえ、いいです。今後のロマンのために聞かせないでください。


「あ、やっぱりお姉ちゃんのこと狙ってるんだ」


 いや、そんなことはなくもなくもなくもない……ということに関して否定する事実を持ち合わせておりません。


「どっちなのよ! お役所答弁ね!」

 エルフ幼女のつっこみは鋭い。調子がもどってきたようだ。



 ――とまあ、冗談はさておき、状況はヤバイ。


 あたりを囲むゴブリンの数は……里を襲った数倍はいる? こんなにいたのか?


「……まずいな」

「ごめんなさい、あたしのせいで……」

 

 オレがポツリともらしたつぶやきに、アリアは反応しうなだれる。

 ふつうなら慰めてやるとこなんだろうが、それじゃ教育によくない。


「ああ。本当、その通りだな」

「…………」


 いったん突き離し沈黙させた。

 その上で――、


「……だから生きて里に帰って……そのあと、おしり百たたきだ。いいな、アリア?」


 オレがおしおきメニューを伝えると、アリアは顔を上げた。表情が輝いている。


「……変態」

 そういいながらも、アリアはしがみついてきた。

 うん。妹みたいでちょっとかわいい。年上だけど。 


 さて、そうは言ったものの……今後どうしたもんかね。

 オレが善後策を考えていると――、 


 ズン、ズシンと地響き。

 そして、トロールが姿を現す。


「あれは……?」 


 トロールの一体の肩の上、男の姿が一つあった。

 闇の中、男の目から、ぎらぎらとした眼光が放たれる。

 不健康そうな顔色をしているが、それでいて欲と野心に満ちた顔つきだ。


「ゴブリンたちが騒がしいと思ってきてみれば……先ほどの英雄どのではないか?」

 

 ――その男は暗がりの中、高らかに呼びかけてきた。




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