VS百鬼夜行1―戦闘準備
こんにちは。久世ヨシトです。
異世界に渡って布教なんてやってるわけですが、ときどきそちらのゲームが懐かしくなります。
特に歴史シミュレーションが大好きでしたね。国家経営とか、戦略とか、戦術とか……。
昔は単調な内政フェイズより血沸き肉躍る戦争フェイズが好きでした。
……でもリアルの場合は逆です。
内政はコツコツやれば苦労が報われます。しかし戦争はどうしても運の要素がからんでくるわけです。
リアルの場合は、そのバクチに大切な仲間の命を賭けなければならないわけで……。
教団がこのまま大きくなっていったら、どこかで争いがあって巻きこまれるかもしれません。
いつか仲間をユニットあつかいして、粗末にあつかわなければならないときも来るのかもしれない。
けど、それって最悪の事態が来るまで進んで考えたいことじゃないんですね。
――覚悟不足のヘタレ教祖ですみません。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
二つ出た大小の月が夜の里を照らす。双方向から照らされて不思議な影が木々の根元から延びる。
コルクの里を囲う丸太の防壁の上には明々と灯された松明があり、闇の攻勢にも持ちこたえている。
だが、一歩森の中へ入れば、そこは漆黒の闇が支配する空間。
かすかな明かり抵抗が、かえって闇を深くしているようにすら思える。
『鳴子』――木の板と細縄で作られた警戒装置だ。侵入者がこれに触れると大きな音がする。
里を囲むように配置されたこの警戒装置は、アテナの提案で設置されたものだ。
そのうち一番外周のものが、一度、大きく揺れたあと沈黙した。
――おそらく、どこかでちぎられたのだ。
「来たようです。早いですね」
と、アテナが小さくつぶやいたとき、
オレたちは防衛の準備をほぼ終えていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――アテナが練った防衛戦術はこうだ。
まずは里の防壁の上に弓矢隊を配置。そこから攻め寄せてきた敵に矢の弾幕を張る。
上からの一方的な射撃で敵の戦力を減らすためだ。
ただし矢の数は不足している。それだけでは敵を撃退できないだろう。
だから、おそらく白兵戦が始まる。
里に敵を近づけないためには、こちらから出て攻撃をかけるしかない。
そのための斬りこみ隊が必要になる。
オレとロックさん、それに腕じまんの里の若者が、その任にあたることにした。
ちなみにアテナは防壁の上で守備の指揮をとる。
彼女の頭脳がないと里の戦力と防衛計画に大きな穴が空くしね。
と、そこで――
「わたしも斬りこみ隊に参加させてください!」
アンディさんが急に立候補してきた。
「剣術をやっていても兄にはかなわぬと思い、商売の道に進みましたが……それでも素振りは毎日やっておりました」
「……こやつの腕ならば少々錆びついていようと、戦力にはなろうかと思います」
ロックさんも弟の意見にうなずいている。
ほう、ロックさんがそこまで言うならなかなかの使い手なんでしょうな。
「……ならば、これを使ってください」
オレは積んでおいた武器の中から一振りの日本刀を差し出す。
「こ、これは! なんという優美さか! 切れ味も素晴らしそうだ!」
剣術をやっていただけのことはある。アンディさんはこの価値をすぐに見抜いたようだ。
オレが渡した剣を抜き、軽く振ってみて感動している。
一振り、二振り、その構えにはゆるぎがない。
うん。たしかに。かなり剣を使えそうだな。
ちなみにアンディさんにわたした剣は『バディラクーン』という――量産型のマゴロックだ。
日本刀の中でも実戦的な『同田貫』を模したもので、本家マゴロックより姿もごついし、重いし、斬撃波も出ない。しかし切れ味と頑丈さでは本家マゴロックに匹敵するまでに仕上がっている。
「強そうですが……少々変わった名ですな」
「わが神が住む異世界の言葉で『敵の体を大地まで断ち割るもの』という意味です」
「おお、なんと剛毅な名前でしょう!?」
アンディさんは感動したようだ。ほれぼれと刀身に見入っている。
……すいません。嘘です。
由来は同田貫という名前から――胴たぬき――胴と狸。
ゆえにバディラクーン。なんていうか、かなりひどいダジャレだ。
ま、正確に言えば狸はラクーンドッグだけど、そこらへんは語感の問題ということで。
……どちらにしろ喜んでるアンディさんには絶対に言えないけどな。
ちなみに、このバディラクーンは、オレも含め、斬りこみ隊全員に配ってある。
里の防衛のため、そしてあともう一つの理由でアテナが急ぎ作らせたものだ。
数をそろえなきゃいけなかった都合上、鍛冶神が全力を注いだマゴロックに比べて質は劣る。
「数打ちの甲伏せか……かようなものを打たねばならぬとは」
とかなんとか、ヘパイストスはぶつくさ言っていた。
それでも鍛冶神の謹製である。名刀や業物といって差し支えない出来だ。
さて、武器が行きわたったところで――、
最前線で命がけで戦う戦友たちに言葉をかけるとしましょうか?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
敏腕マネージャー・アテナさんの意向により、オレは露出を抑える方針でやってきた。
教祖としての威厳を汚さないため。不用意な発言でボロを出さないように。
そして教祖という存在に神秘性を持たせるために……。
だから彼らは、オレの言葉をまともに聞くのも初めてだろう。
横一列に並んだ戦友さんたちは、戦闘の緊張もあって張りつめた表情をしている。
一方、オレはアレスの加護のおかげか、こんな物騒な状況でも冷静なままでいられる。
演説なんて柄じゃないが、言っておきたいことがあるので、ありがたい話だ。
では、さっそく――、
「みなさん、言いたいことは一つです。『死なないでください』」
オレの言葉にきょとんとするみなさん。たぶん命がけで戦えって激励されると思ってたんだろう。
でも、ちがいます。
「みなさんが戦うのは里のみんなを守るためです。けれどみなさんにも生きて帰ってほしい。闘って死んだ人はいい気分で死ねても……遺された里のみんなは、その先、気分よく生きられませんからね」
だれかが死んだなら悲しい。素直に生存を喜べない。当たり前のことだ。
しかし、なにもかもがぎりぎりな戦場じゃ忘れがちなことだと思う。
だから、ちゃんと言っておく。
「だれも死なせないためにお願いがあります。かならず三人一組で行動すること。一人が敵を受け止め、両脇から二人で始末してください。絶対に一人だけ先走らないように。それは自分だけでなく仲間の命も危うくする行動ですから」
そうです。新撰組戦術です。副長・土方歳三が考案したという集団戦法です。
今宵の胴狸は血に飢えています。
さらに集団行動と仲間への義務付けで若いエルフの無謀な突進を防ぐ――アテナさんの策はさすがです。
里の将来は彼らにかかっています。ここで使いつぶしていい人材じゃないですからね。
「それでもヤバくなったら、オレのそばへ来てください。目の届く範囲でなら絶対に死なせません」
大きなことを言ってしまったけど、だいじょうぶなはず。
ゼウスからもらった雷霆の杖、アレスの加護の戦闘技術、瞬間移動できるヘルメスの靴に、ヘパイストスの鍛えた名刀もある。
そして知恵の女神が授けてくれた策で戦うんだ。怖いものなど仲間の死だけだ。
オレにはできる。仲間を守れる――そう信じることで、ともに戦う仲間にも信じてもらう。
続けて一人一人と握手を交わしていく。
名前を聞き、肩を抱き、背中をたたく。
この人間の命を預かるのだと自分に言い聞かせるために。
――斬りこみ隊の中にはあのジュードくんもいた。
「ジュードくん。力を貸してください」
「……はい、ヨシトさま」
ま、今日は神妙ですね。複雑そうな表情でしたが。
こうして全員とのあいさつを終え――、
「さあ、みなさん。準備はいいですね?」
「「「「「おう!」」」」」
稚拙な演説でしたが、オレの心は理解してくれたようす。
みなさんの心は一つ。
よし!
防壁の上で指揮を執るアテナさんと、オレはアイコンタクトをとる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
しかし、数十秒後――、
「……来たぞ!」
森から現れたのは人の形をした、しかし人ではない存在だった。
その影は一つ、二つと、数を増していく。
「あれは、群鬼!」
なんですと!?
いきなり予想が外れた。まさかのモンスター?
ここへ来て、初お目見えですか? 時間があればちょっとじっくり観察したかったな。
一方、里には動揺が広がる。
ま、しかたない。人間相手だと思ってたら出てきたのがモンスターだもんな。
「まずいな、人より知恵がない分、恐れを知らぬ。勢いまかせの突進はやっかいだぞ」
「ああ。それに、ふだんなら考えなしに突っこんでくるあいつらが……統制のとれた動きをしている。いったいどうしたことだ?」
ロック、アンディ兄弟の声にも余裕が感じられない。
ズン……ズズン……、
グオオオオオオォォォォ!
そして、さらに地響き――。
くわえて遠吠えまで聞こえてきた。
森の木々を揺らし、姿を現したのは身長四メートル以上はあろうかという巨大な人影。
それはこちらへ一直線に迫りつつあり――、
「な、大鬼だと!?」
「なぜ、あんなものが」
ついに悲鳴が上がった。
恐怖は里中に伝染していく。
「く、あんなのに取りつかれたら里の防壁も崩されかねない!」
まずいな。このままではトロールへの恐怖で、戦線が崩壊してしまう。
だったら……どうする?
答えは一つだ。オレが止めるしかない。
「皆さんはここでゴブリンの足止めを。三人一組を絶対に忘れないでください!」
必ず守るって言ったのに、もうみんなと離ればなれか?!
しかし、あんな大物との戦いに連れて行くわけにはいかないしな。
「師匠!」
ロックさんがオレに必死に声をかける。
本当は残ってみんなを守ってほしかったんだが、その目を見ただけで説得は無理と悟った。
ならば――、
「すみませんロックさん、付いてきてくれますか? あなたの命を借ります」
背中を守ってもらうことにする。この人ならば安心だ。
「もちろんです! いえ! 何をいまさら!」
ああ、いいね。
弟子、戦友――背中を任せられる人がいるっていう、この感じ。
しかし、予定では弓の射撃で敵の戦力を削ってからのはず。
それが、いきなりの出撃ってのはちょっと……ね。
――まったく、今夜は苦労が絶えなさすぎです。




