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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第三章
25/110

左手はそえるだけ

 ど~も。コルクの里の愉快な教祖(リーダー)久世ヨシトです。

 今回の作業は資金調達です。せちがらい話ですが、世の中、まずは先立つものがないといけません。


 というわけで、軍神アレスさん秘蔵のフィギュアを黄金像に変えて、モーラという街まで売りこみに来たわけなんですが――、


「どういうことですかな? この品を買い上げられない……とは?」


 ロックさんの声が室内に響きます。地声の大きい人ですから威圧感があります。

 そして何かにつけ腰の日本刀(マゴロック)に手をかけるのはやめましょう。

 交渉ごとに武器の持ちこみはいけませんね。正直、師匠のオレも引き気味ですよ。

  

 しかし、相手をする宝飾品商人トニオさんは引きません。


「ですから、このような品、買い上げることはできないのです!」

 

 どうしてこうなったかといえば――、


   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「なんと……見事な細工でしょうか」

「ああ、服の裾のこのひらめきぐあいなど神業としか思えん!」


 アテナさんが取り出した黄金のセーラー戦士像。ロックさんの弟アンディさんと宝飾店店主のトニオさんは大絶賛です。

 ま、それはそうでしょう。

 元になったのはアレスさん秘蔵の一点物。それを触れたものを黄金に変えられるマイダスとかいう人に頼んで貴金属製にした逸品。

 低評価だったら、ぶんどられ——もとい、無断で拝借されたアレスさんが浮かばれなさすぎです。


 しかし、トニオさんたちが顔を近づけて見てるのはアニメに出てくる美少女を模した像なわけで――、

 いい年した男二人が、至近距離から食い入るように見つめる姿は怪しいです。コミケのコスプレ会場にいるカメラ小僧さんのようですな。

 

 ま、この調子なら良い値段で売れるんじゃないでしょうか。

 やっぱり里の発展にはそれなりに元手が要るからね。


 ――などと、オレは調子のいいことを考えていたのだけど、

 


 トニオさん、いきなり平身低頭したうえで、断りの文句をぶつけてきた。


「……もうしわけありません、このような像は買い取りできません」

 

 あれ? トニオさんどういうことですか? あんなに絶賛してたじゃないですか?

 オレの疑問にロックさんも同調し、こうして冒頭のような事態が発生してしまったのだ。



    ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


「まあまあ、おちついてロックさん。まずは事情をきかせてもらいましょう」

「師匠が……そうおっしゃるなら」

 

 と、なんとかロックさんをなだめすかし、トニオさんに事情を聴く。

 

「たしかに、この像は絶品です。しかし絶品すぎるのです! この店ではあつかえません。これは王侯が持つべき品です!」


 トニオさんは力説している。

 ありゃ、もしかしてこの時代の品にしては高品質すぎたのか。


「いったい、どこでこれを入手なさいました!?」


 今度はトニオさんの逆襲だ。

 しかし、どこからって言われてもな。


「ええと……その……神からの授かりものです」


 まちがってないはずだ。授けた本人(アレス)は絶対納得してないだろうけど。


「だめですよ! そんな言い分通用するはずありません!」


 そうですか……いえ、そうですよね。


「はい。これだけの品です。来歴などのいわく由来も聞かれるに決まってるじゃないですか!」  

  

 ああ、まあ、それはたしかに。


「いちおう、この像の黄金分でしたら、なんとか払えないこともありませんが……しかし、美術品としての価値まで含めるとなると……」

   

 う~む。こまったぞ。

 どうしようアテナさん? 

 初手からつまずいちゃってますけど。


「だいじょうぶです、ヨシトさん。次の手も用意してあります」


 おお、さすがアテナさん。

 アテナの策はすきを生じぬ二段構え。

 天を翔けちゃう(ドラゴン)の閃きをふせいでも真空状態に引き込まれる――そんな感じですね!

 さ、では続きをどうぞ、知恵の女神さま。


「はい」


 うなずいたアテナは黄金像を手に取る。そして店主に問いかける。


「トニオさん、この像は美術品としての価値が高すぎるせいで買い取れない。そういうことですよね?」


「ええ、そうですよ」


 けげんな表情でうなずくトニオさん。


「そして、この像の黄金分ならば代金は払える……と?」

「はい。そうですが……」


 再びの質問。トニオさんは、さらにいぶかしげな表情になる。


「――では、しかたありません」

 

 アテナは像を右手で持ち、左手をそっと添えた。

 左手はそえるだけ……。


 そして――、


 ポキッ


 あ……アテナさん。

 今、像の右腕をもぎ取りました?!



「あッ!」

「わッ!」

「なッ!」


 店内にいた男たちの驚愕の声が輪唱され――、



 そして――、

 遥か銀河の彼方で――、

 軍神のあげた絶望の悲鳴が聞こえたような気がした。


   

       ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「な、なんてことをなさるのです! ここまでの芸術品に!」


 青筋を立てて、アテナにせまるトニオさん。

 うん。気持ちはわかるぞ。


「いえ、このままでは売れないということでしたので、ただの金塊に変えようかと……」


 いやいや、短絡的すぎです! アテナさん! 


「だめですよ! そんなこと、芸術に対する冒涜です!」


 そうだ、そうだ! ちょっとは秘蔵のフィギュアを強奪されたアレスさんの気持ちも考えろ!


「では……あなたが引き取っていただけるのですか? この店の有り金全部で? 黄金の分の代金はあるといっておいででしたが?」


 しかし、アテナさんはぐいぐい迫ります。

 言葉はていねいですが、有り金全部要求するとこなんか、もう山賊さんです。押し込み強盗です。

 

「あ、え、その……それは……」


 さすがに有り金全部はきついのか、トニオさんは口ごもる。

 ま、急な物入りに現金がないと個人商店ってけっこう簡単に詰みますからね。

 気持ちはわかります。


 しかし、そんなこといっさい考慮しないのが我らの冷酷女神(アテナ)さまなのです。


「では……やはり分解を……」

 

 無表情のまま、今度は像の左腕に手をかけるアテナさん。

 きれいな御尊顔に金色の光が反射してマジ怖いです。 


 あ、……まさか両腕ともいっちゃうつもりですか!?


 だめです! ミロのヴィーナスみたいにしちゃいけません! 

 それは金星(ヴィーナス)さんじゃなく火星(マーズ)さんですから!


「ひ、引き取りますからやめてッ!」


 そのようすに脅しではない迫力を感じたのか、蒼白な表情で止めに入るトニオさん。


 ――かくして商談は成立した。


 しかし、ですね。

 

 強襲(アサルト)販売法(マーケティング)すぎますよ! アテナさん!


  

   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

  

 

 その後、像を売って得たお金でアテナは買い物に移る。

 丈夫なでかい布幕に釘、なんだか質の悪い紙、その他いろいろ日常雑貨――全部が尋常じゃない量だ

 何に使うのかとたずねても秘密主義のアテナさんは教えてくれないんだろうな。


 ま、全部実用品なおかげで、いい点もある。

 女性の買物に付き合わされてるとき特有の、あの精神ダメージでゴリゴリ削られる感じがしない。


 ちなみに男三人は荷物持ちだ。

 オレはアレスの加護持ちだし、ロックさんも鍛えている。

 アンディさんも商人の割にしっかりした体格なのでちゃっかり荷物を持ってもらった。

 本来、ここまで手伝う義務などないのだが、放心状態なのでなにを任せても言うがままだ。

 先ほどの黄金像破壊シーンが、よほど目に焼き付いているらしい。

 

 あとは荷物を馬車まで運び、大きなものはあとで里まで届けてもらうことになった。

 ここでも街の商人であるアンディさんの顔と名前を利用する。

 そんなもの頼まれてない――と、しらばっくれられても困るからね。

 

 そして、アンディさんとは店の前でお別れする。


「では、アンディさん、ご協力ありがとうございました」

「あ、ええ、はい。どうも……」


 最後の最後までアンディさんは放心状態だったけど……。



    ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 しかし、その夜――、


「兄貴ッ! 大変だ! 」

 

 里に駆けこんできたのは、まさかのアンディさん。

 おお、お早い再会ですな。

 息を切らしているようですから、まずは水でも一杯。


「あ、ああ……ありがとうございます。ごくごく、ぷはっ」


 アンディさんはのどを潤してから、驚くべきことを口にする。


「兄貴……この里が攻められるぞ!」



 ――なんですと!?   



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