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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第三章
24/110

モーラの街

 は~い。異世界で教祖なんてやっております、久世ヨシトです。

 ここでオレが飛ばされたこの異世界についてちょっとしたレクチャーをしてもらおうかと思います。


 気になる講師は敏腕女神のアテナさん。

 さあ、みなさん拍手です。

 ぱちぱちぱちぱち。


     ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 コルクの里からもっとも近い街、モーラ。

 そこへの道中、オレはアテナからこの世界の地理について教えてもらう。 

 

 今回は街で仕入れたいものが大量にあるので馬車を利用する。 

 おかげで超便利瞬間移動グッズ・ヘルメスの靴は使えない。街中で大量の商品と人が消えたら一大事だろう。神の力にも見せていい場所と悪い場所があるしね。


 だが、その分、行きかえりの時間で勉強ができる。

 いちおう、オレもこの世界のことを学んでいたが、鍛冶の疲れと異世界文字の読みづらさであまり進んでいない。


 ……だから、助けて、アテナ先生。


 というわけでガタガタ揺れる馬車の上、アテナさんの状況説明(ブリーフィング)がはじまる。



「この世界――ミドハイムには魔物が住む暗黒域、人の住める正域の二つがあり、さらに正域には国がいくつかあります。その中でも勢力を二分する大国がカルナック帝国とフェニキア王国なのです」  


 ふむふむ。

 

「わたしたちがいる『ファールス』はカルナックとフェニキアの緩衝地帯、『神聖同盟十二都市(ゾディアック)』と呼ばれる都市国家(ポリス)の一つです」


 ほう。かっこいいお名前ですこと。


「もっとも、目を通した歴史書には『特に神聖でもなければ同盟でもなく、都市の数も合っていない』と書かれていました……たしかに現在の同盟加盟国は十四。都市国家同士の仲もあまり良くないようです」


 あらら。ひどい言われようだな。ま、せっかくのかっこいい名前を変えたくないのはわかる。

 語呂もいいし、そのまま使っちゃったパターンか。


「わたしたちが目指すモーラはファールスの中心都市――というより都市としての名前がモーラで国としての名がファールスというべきでしょう。周辺地域はほぼおまけのようなものです」

 

 そうか。そういえば昔は町一つが、そのまま国だったりしたんだよな。

 そして、おまけと言われてしまった我が教団の本拠地・コルクの里。


「今日はそのモーラにいらっしゃる商人アンディさん、ロックさんの弟に仲介を頼み、里の開発資金を入手しに参ります」


 へえ、ロックさんに弟? 

 なるほど。村の護衛担当だったロックさん――旧ピエトロさんがついてきた理由はわかった。

 にしても弟でアンディさんか。

 やっぱり骨法使いなんだろうか? 美人忍者の恋人がいる感じで……

 いや、やはりこのネタはやめておこう。ご時勢的に。流れ弾が飛んできたらこわいもんな。


 あまりよけいなことを考えるのはやめ、同行者にしてお弟子さんに視線を向ける。

 おや、なんだか浮かない様子だな。家族に会えるというのに。

 いったい、どうしたんでしょうか?


「わたしは武芸に生きる道を見出しましたが、弟は商いの道を選びました。それ以降、弟とはあまりそりが合わないのです。今回の件でも、わたしが助けになれるか怪しいのですが……」


 ロックさんは申し訳なさそうにうつむいた。

 ま、しかたない。兄弟だからって仲がいいとは限らない。

 武術と商売じゃ進んだ分野が大ちがいだもんな。


「……ですが、弟には必ず師匠の言うことをきかせます。場合によっては力に訴えてでも……」


 ちょ、ロックさん! 腰の日本刀(マゴロック)に手をかけないでください! 

 身内相手にいきなり手段がぶっ飛び過ぎです!


「それは困りますね。やめていただきたいです」


 アテナさんも口をはさむ。

 そうでしょう。そうでしょう。もっと言ってやってください。


「アンディさんには協力してもらいたいことが多くあります。マゴロックは最後の手段にしてください」


 ちょ!? 最後の手段では使うんですか!?


「……かしこまりました」


 いや、座った目でうなずかないでください! ロックさん!


 ――などと、オレたちがぶっそうな会話をしてるうち、馬車はモーラの城門についていた。



      ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


「おお……」


 オレたちが初めてこの世界に来たとき、遠目に見た城門。

 今、ようやくたどりついたことに、なぜだか少し感動した。

 そして、馬車はゆっくりと街中へ――、


「ほう……」 


 初めて見たモーラは思ったより栄えていた。

 中世ヨーロッパ風の街並みといえばいいだろうか?

 所狭しと並ぶ石造の建物の中、ひしめきあう人々。

 ところどころにいるエルフさんやドワーフさん、ケモノ耳の獣人さんたちが実にファンタジーらしい。

 馬車が通れる表通りには各種店舗が並び、少し狭い裏路地には露店が軒を連ねている。


 ――ぶっちゃけると典型(テンプレ)的ファンタジー街ですね。

 ま、ここで描写に困るような街が出てこられてもどうしようもないし。


 それでも実際に街を目にして、空気を吸い、肌で感じると、けっこう感動する。

 本当に、たいそうなにぎわいだ。

 


「ここモーラは交易都市なのです。『大物見台』と呼ばれる場所に河川港があり、そこから大量の商品がこの町に来て、さらに周辺の都市国家へ向かう販路に乗せられます」


 へえ。これだけのにぎわいなら欲しいものもすぐ見つかりそうだな。

 

「ええ、ですが……まず先立つものの手配をしなければなりません」


 ああ、ということはまさかアレを? アレスさんのアレを売っちゃうんですね?


「はい。そのためのアレスのアレですから」


 オレたち二人の謎の会話。

 ロックさんは不思議そうに首をかしげている。



      ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ロックさんが連れてきてくれたのは一軒の店。

 表通りではないが、そこそこの広さはある。

 見た目は質実って感じだが、清潔だし、店の前に出された商品もていねいにつまれている。

 まあまあ流行ってるのじゃなかろうか。 


「……こちらです」

 店の手前、入るのをためらうロックさん。

 ま、あまり仲良くない弟の家ですからね。

 あなたの気持ちはよくわかりますよ。 


「では行きましょう」

 初対面の他人の店へ、

 まったくためらいなく突き進む女神さま。

 あなたの気持ちはよくわかりません。 



「いらっしゃいま……」


 アテナさんの姿に、愛想よく声を上げた店主が、そこで固まった。



「兄貴……」

「……アンディ」


 鉢合わせた兄弟が複雑な表情を浮かべる。そんなところはけっこう似ている。

 仲が悪い――というより、お互いに付き合い方や距離感の取り方がわからない感じの兄弟だ。


「……兄貴、名前、変えたんだって?」

「あ、ああ。今の名はロックという。こちらがわたしに名を下さったヨシトさまだ。そちらの女性が師匠の妹弟子のパラスさま」


 紹介を受けたオレたちがあいさつを交わす。


「ヨシトです。よろしくお願いします」

「パラスと申します。先日手紙を送りましたのはわたしです」

「アンディです。兄がいつもお世話になっております。いただきました手紙によれば、なにやら本日は売りに出したいものがあるとか……?」


 アンディさんは礼儀正しい。しかしすぐさま商談へと話題を変える。

 それはオレたちに対して距離を取っている証拠だ。

 身内の縁につけこまれないぞ、という意思の表れでもある。


「高額な品ということで日用雑貨をあつかうわたしの店では手に余ります……そこでそういった店を紹介させていただきましょう。兄の知り合いということで紹介料は少々おまけさせていただきますよ」

 

 へえ。意外とやり手だな。

 あくまで商売だという線を崩さず、でもその中で親切さは忘れない。

 けっこう、この距離感の取り方って難しいもんだしね。

 

「……では、ご案内します」

 

 そこから十数分。

 連れて行かれた店は少し遠かった。

 オシャレな高級店が並ぶ表通り――から、さらに一本裏に入ったところにある。


「小さな店に思えますでしょうが、実は表の店よりこちらのほうが大口客をあつかっているのですよ」


 その理屈はわかる。

 上流(セレブ)ってのは表通りで大々的な営業してる店より、小さくとも信頼できる店を選ぶものだ。

 周囲に金持ちだってばれるとめんどうだし、金遣いにまで気づかれるとうるさいからね。

 宝石なんかが上流付き合いで必要だとしても、ぱっと見には無駄使いだからこっそり買う。その取引相手は口が堅いほうがいいに決まってる。

 一度、取引した土地持ちのばあさんがそんな感じだったな。


「ごめんください」

「おお、アンディさん。ようこそ」


 店に入ると、かっぷくのいい中年男性が迎えてくれた。

 アンディさんが彼のことを紹介してくれる。


「ヨシトさま、パラスさま。こちらがこの店を経営しておられるトニオさん」


「はじめまして。ヨシトです。コルクの里でオリンポス教という宗教を広めております」

「ヨシトの妹弟子、パラスです」


 オレたちの名乗りにトニオさんは太い首をかしげる。


「コルクの……里? ああ……そういえばアンディさんのお兄さまが暮らしておられる所でしたか?」

「ええ。なかなかいい里のようですよ。その……自然が豊かで……」


 ほう、アンディさん。ほめ言葉につまってらっしゃるな。

 彼にとってあの里は自然以外、他にほめるところのない田舎としか映らないのだろう。

 ふう、まったく失敬ですな。

 たしかにコルクの里は不便な場所にあるが、ちゃんといいところだってあるんですよ。


 ええと……ほら、自然が……豊かで……。


 ……すいません。勉強しなおしてまいります。



「……ごほん。それで、今日はなんでも珍しいものをお持ちだとか? できるだけよい値をつけさせていただきましょう」

 

 トニオさんが営業用スマイルで言った。

 善意めかしているが、たいしたものはないと思っていそうな口ぶりだ。 


 む、こちらを田舎ものだと思って少々なめておられるな?

 ちょっとカチンと来たぞ。

 ま、その余裕もアテナが四次元キンチャクからセーラー巫女像を取り出すまででしょうけどね……。


 さあ、見せつけておやりなさい、アテナさん!

 


「――今回、値段をつけていただきたいものはこちらです」


 アテナが、まるで越後の隠居さんの印籠のように、黄金のセーラー戦士像を取り出す。

 同時に、店内に一瞬、金色の閃光が走り――、


「こ、これは……!」

「なんと……いう!」


 ――予想外の物体の出現に、二人の店主は絶句する。




 

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