表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第二章
20/110

オリンポス教団

「どうだ、パウェル? おのれの得意なことで負けて、どのような気分だ?」


 ピエトロさんの言葉が、うつむいてしまったパウェルさんにかけられる。


 もう、やめて! パウェルさんのライフはゼロよ!

  

 しかし、ピエトロさん、どうしたのだろう?

 なぜ、負けた友人の傷口に塩をぬるようなことを?

 そんなこと言う人には思えなかったのだが?



      ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「……負けだ。完敗だよ。おれの持つ技術など、この人の前では子どものようなものだ」


 返す言葉に力がないパウェルさん。

 そこへピエトロさんが、さらにもう一言。 


「そうだろう? そうにちがいない!」

 

 追い討ちかよ! ひどいなピエトロさん。

 あれ? でもきついことを言ってる割に顔が……やさしい?


「わかるさ。わたしもそうだった。ヨシトどのに救われたとき、そして里での戦い――わたしの中にあった剣術への少しばかりの自信も、粉みじんに砕かれたからな」


 あ……。すみません。配慮が足らなかったようです。調子のってました。

 カンフーとか酔拳とか……うん、今後はほどほどに使おう。


「いえ、ヨシトどのが気にされることはない。あのときは里のみなの命がかかっていた」


 そうですか。よかった。カンフーはまだ使ってよさそうだ。

 酔拳は……そうだな。機会を見てにしよう。

 と、ほっとしていたオレをさておき――、


 ピエトロさんは、うなだれたパウェルさんの肩をなぐさめるようにたたく。


「わかっただろう? ヨシトどのの力がどれほどのものか……我らが求めていた力だ」


 ん? どういうことでしょうか?


 問おうとしたオレの腕をアテナがつかんで止めた。

 アテナが指さすその先、ピエトロさんが覚悟を決めた顔をしている。


 あれ、どうかしたのかな?

 疑問に思ってみていると――、


「みなのもの、よく聞いてくれ!」


 パウェルさんだけでなく里の若者たちにも向け、ピエトロさんは声を張り上げる。 


「……はっきり言おう。我らには力がない。この里には、悲しいまでに力が足りない!」


 ピエトロさんの声は高らかでありながら、悲痛だった。

 魂の上げる悲鳴ってのがあるとすれば、これなんだろう。

 

「ハーフエルフとその家族。そしてわたしたちようなはぐれエルフ――皆が暮らすこの里は力の無さゆえ、耐え忍ぶことが多すぎる!」


 思い返し、唇をかむピエトロさん。その目はうるみかけている。

 かなり、つらい目にあってきたことがわかる。

 

「町の商人にはなめられ、産物は安く買いたたかれ、奴隷商たちは我らを見目のいい玩具あつかいした」


 ああ、立場が弱いとつらいよな。

 そして、どこの世界にも弱みを見せればつけこんでくるヤツはいるんだな。 


「……それはなぜだ?」


 ここにいる里の民すべてに問いかけるように、ピエトロさんは視線を送る。 

 そして一周、全員の顔を確認したあと。


「……我らが弱いからだ!」


 目をそらしたい現実、それでも頑としてそこにある真実をピエトロさんは口にする。 


「そんな状況を変えるには力がいる!」


 切実な言葉だった。

 泥と土と血と汗と――ありとあらゆる苦労をなめてきたピエトロさんだからこそ、ここまでの説得力があるのだろう。


 そしてピエトロさんの言葉に熱心にうなずく若者たち。

 彼らも、この里の苦境を理解していたのだ。


「だからこそ……ヨシトどのの見せた力と、その力を与えてくださるという神々がこの里には必要なのだ!」 


 そこまで熱っぽく言うと――、

 ピエトロさんは、こっちを向いて頭を下げる。


「もうしわけない。長老もわたしも欲得づくであなたがたを引き留めておりました」


 ま、そうじゃないかってうすうす思ってました。

 いえ、むしろ盲信とか狂信されるよりマシですけどね。はい。

 過剰な期待に応えるのって難しいですし。



「しかし、その者達に本当にそこまでの力が?」


 それでも食い下がるエルフさんもいたが、


「たったいま目にしたばかりだろう? ヨシトどのの力を!」


 ピエトロさんにこう言われてしまえば、ぐうの音も出ない。


 そして――、

 もう一度こちらを向くと、ピエトロさんはまた頭を下げる。 


「……お願いします。この里に力をお貸しください!」


 あれ? 何をいまさら?


「もちろん、こちらもそのつもりでした」

 

 おお、アテナが話を引き受けてくれた。

 正直、助かる。

 ヘルメスの交渉術を得ても、オレの地頭がよくなったわけじゃない。

 難しい話とかはさっぱりだ。

 だからガンガン交渉やっちゃてください。わが参謀アテナさん。

 オレはただ大物っぽくうなずくだけだ。


「この里を教団の本拠として発展させること、それは我らの願いでもあります」


 うんうん、そのとおり。

 けっこう邪険に扱われたこともあったけど、この里の人たちのこと嫌いになれないんだよね。

 オレだって彼らの役に立ちたい。



「本当に……本当にそんなことができるのか?!」


 興奮を見せ、質問するエルフに、アテナはうなずく。 


「――できます」


 アテナは静かに、勢い込むこともなく、ただ短く言い切る。


「……その言葉、信じましょう」


 と、口を挟んだのは長老ヨブさんだった。

 さては後ろのほうでタイミングを待ってたな?

 だが、ちょうどいい。ばっちりだ。

 

「お前もそれでよいな、パウェル?」

「あれだけの鍛冶の腕を見せていただけた。……おれにもう言うべきことはない」


 まだ放心状態が続いているパウェルさんもうなずく。  

 さて、この里で、ピエトロさんの演説、長老とパウェルさんの同意の三つが集まれば?

 もちろんそこに異議などあろうはずはなく――、


 教団の本拠地化、決定いたしました!

 はい。みなさんも拍手! ぱちぱちぱちぱち!


 と、そこで――、

 


「ところで、ヨシトどの、聞き忘れておりましたが……教団の名前は?」


 ヨブさんがきいてくる。

 あ、そうえいば決めてなかった。これはいかん。

 そうだな? どうしようか?

 よし、アテナさんに相談だ。


「我らが信仰する神々は、オリンポスという山に住んでおいでです。その名から我らはオリンポス教を名乗っております」


 アテナはすらすらと口にする。アドリブとは思えない。前から決めてたのか? 


「ほう……オリンポス教団」

 ヨブさんはうなずく。

 

「では今日からこの里はオリンポス教団の本拠地ぞ!」

 ピエトロさんが大きな声で発表する。


 もっともこれは『布教』というより、力なきハーフエルフとオレたちの『同盟』のようなもの。


 だが両者の必要は強く結びつき――、 

  

 ――かくして、コルクの里は、わがオリンポス教団の本拠地となった。



      ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 と、話がまとまったところで、


「ヨシトどの!」

 

 いきなりひざまづくピエトロさん。

 え、なんでしょう?



「ヨシトどの、いえ、ヨシトさま……わたしを弟子にしていただけませんか?」


 いえ、武術の弟子はとらないといったはずじゃ……


「ちがいます。オリンポス教のほうです。わたしをあなたの一番弟子にしていただきたいのです」


 はい、それはもちろん。これでもみなさんの教祖ですからね。

 オレでよろしければ――、


「ありがとうございます。さらに厚かましいお願いなのですが、あなたに名前を頂きたいのです」


 おお、と周囲から驚きの声。

 疑問に思っていると、長老が説明してくれた。


「エルフの風習でしてな。信頼、尊敬する相手に名前をもらうことはこの上ない名誉なのです」


 なるほど。命名親(ゴッドファーザー)みたいなもんか。

 断ったらかわいそうだしなあ。盛り上がってる空気が興覚めにもなりそうだし。

 さてはピエトロさん、このタイミングを狙ってたな。この策士め。

 ――しかし、どうしたものだろうか?


「名付け親が、そのものから受ける印象から付けることが多いとされています」


 長老が、また助け舟を出してくれた。ナイス年の功だ。

 

 う~ん、ピエトロさんのイメージ……か?

 まず浮かぶのは、この人の揺るがない心と体の強さ。

 たとえばいかなる時代の大波にも耐え続ける……、


 そうだ。岩だ。大きな岩。

 大地にしっかりと腰を下ろし、周囲の人々を支える、そんな岩のような人だ

 ならば――、


「では、あなたの堅固な心と体、そして贈った剣の名の下の部分から(ロック)と名づけましょう」


「ロック!? おお、短くありながら強さを感じさせる素晴らしい名前だ!」


 思った以上に喜んでくれた。


「このピエトロ……ではなくロック、お師匠様に誠心誠意おつかえします」


 こちらを見上げる目は本当に信頼できそうだ。

 

 この人が……オレの一番弟子か。

 そうだな。いつか信者たくさん集まったら元の世界に帰れるわけだが……、

 この人にならあとを任せられるんじゃなかろうか?


 脳筋に思えたが、さっきの説得を見るかぎり、リーダーシップとかありそうだ。

 性格も信頼できる。

 なによりエルフだから長寿命だしな。

 うん、(ゼウス)の地上における代理人として完璧だ。

 


(あっちに帰るとき、この人に神域への(ゆびわ)を渡していくとしよう)


 と――オレは心に決めるのだった。

    

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ