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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第二章
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最終布教計画!


「これで一段落……か」

 ヘパイストス、デメテル、ヘスティア――三柱の神々の調伏……ではなく籠絡もとい説得を終え、オレは一息ついた。


 では……以降の計画はアテナさんに説明していただきましょう。


 アテナさ~ん、あとはお願いしま~す。  


「はい、ヨシトさん」


 現れたのは……女神モードのアテナさん。

 おお、見慣れた美少女じゃなく、今の彼女は美女そのもの。


 年齢は五歳ほど増えたように見えるが、その増加分がすべて美に当てられているような感じだ。

 いつもの薄茶色の髪だってキューティクルきらきらなのだが、今の彼女は完全な金髪。

 暗いところでも自ら発光してそうな――そんな金色の輝きを放っていた。

 体型も大人びて、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んで、ふとしたしぐさに強烈な色気が漂っている。それでいて身にまとうのは鎧、女性の体形を強調する背徳的な武具だ。


 そして、なにより顔立ちだ。肌は真珠の光沢を混ぜたようなミルク色。

 少女らしい可愛らしさが女性らしい優美に置き換わり、知性が先走った少女に見えた面影は消えた。

 今の彼女には内面の知性が外側の美と究極の融合を果たしている。


 まさしく完全体。どこで17号と18号を吸収したやら。 


 そんな女神アテナが里の発展計画の詳細を説明し始めた。

 一人ひとり、いや一柱一柱の神々がなすべきこと。果たすべき役割。そのための信心分配プランについてプレゼンを始める。


 おやアテナさん、いつの間に資料まで用意したやら……、

 さらに神殿を暗くしてプロジェクターを持ち込み、手元のタブレットで下半期の信心獲得予想グラフまで表示している。

 あれ、もっと神々の会議って荘厳というか、重厚な感じじゃなかろうか?

 すげえキビキビしてるぞ?

 

 オレは……手持ちぶさただ。基本的には信心の電波塔だしな。

 アテナの艶姿を見ててもいいけど、いったん、(あっち)へ帰ろうか。

 質疑応答まで始まって、けっこう長くかかりそうだし。


 と――そこで、


 ピンポンパンポーン。

 響いたのはデパートなどで耳慣れた呼び出しチャイム。

 便利といえば便利だけど、神殿のおごそかな雰囲気が台無しだな。

 まあ、そっちでやってるビジネス会議がすでに台無しにしているという話もあるが。


「ヨシトくん、ヨシトくん、現世に早くおもどりください」

  

 さらに響いたのはエコーのかかったゼウスさんの声。再現性が高い。こってるな。

 なんだろう? また問題でも発生したのだろうか?

  

「里の長老がおいでのようだ。なにか相談事があるらしい。

 しかし、このままだとキミ、変な人だよ! 信仰を失うピンチだよ!」


 なんですと!? ゼウスの言葉がどういう意味か分からないが、それはまずい。


 すぐに神域(こちら)へ来たときと同じく、目を閉じる。

 元いた場所をイメージし、あとは一瞬の浮遊感を味わえば……、

 そこはオレが泊められている長老屋敷の部屋だった。



       ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 あぐらをかいていた状態からすっと目を開く。

 目の前にはゼウスの無駄に整った顔。


 うわ! 何事ですか!? いきなりBLっぽい要素を持ちこまないでください!


 驚くオレだったが、ゼウスもけっこうあわてている。


「そこ、それを隠して!」

 ゼウスが指さすものを見た。

 そこにあったもの――いや、いた人物は……、


 アテナ……のこちらの世界での入れ物、人間名・パラスは部屋の隅っこにいた。

 しかも壁のほうを見ながら体育座りしている。すでに背中から黒いオーラが出ているような……、

 あっちの世界じゃ、あんなに金色だったのに、現世ではもう違う色……なのか?

 白鳥が水面下でがんばってるとこ見ちゃった感じだ。


 うわ、しかし、不気味にホラーです。むっちゃ怖いんです。


 イヤだなぁ、イヤだなぁなんて思いながら近寄って回り込むとですね――、

 だら~りとたらした前髪の向こうで、なんと白目をむいてるんです!

 いつも冷静、冷徹、冷酷なあのアテナさんがですよ! なんて痛ましい!

 なんだか、いきなりブリッジの体勢になって、そのまま歩いたりしそう。

 見たらSAN値直葬にされそうな光景です!


 というか、神域では一秒が千倍になるはずじゃ? 

 会議が長引いたとしても、なんで彼女(アテナ)はずっとこの状態なのだろうか?


「次元間通信にくわえて送受信データ量が多いからね。うまく魂が接続できないから時間圧縮を解除してるんだ。巫女の憑依(トランス)状態と同じように、魂で大量の情報をやりとりしてるせいさ」 


 SFなのかオカルトなのかわからない説明をするゼウスさん。

 つまり巫ッ女巫女にされてるのか?

 アテナさん、名状しがたいひどいありさまに――せっかくの美少女が台無しだ。


 ヨブさんにこのありさまを見られたらやばいな。まちがいなく邪教扱いだ。

 白目をむき、体育座りをしてるアテナの抜けがらを引きずり、部屋に備えつけの大きな戸棚に隠す。

 あ、足が引っかかった。無理やり押しこむしかないか。

 うん、すごい犯罪っぽい。これも見られたらまずい作業だな。

 

 あ、そういえばゼウスさんは? どこに隠れます?


「さっきまで実体化してたけど、今のボクは投射思念体だし、キミ以外の人間には見えないから」


 そうですか。よくわからない現象だけど、一安心です。


「早く長時間の実体化ができるようになりたいな」


 おお。そんなに新たな信者たちをその目で見たいですか?

 よし、ならばあなたの教祖たるこの不肖・久世ヨシトがひと肌――、


「さっき見たエルフ娘さんとか超かわいかったし、せめて二時間は……」

 

 ……ああ、なるほど。

 だいたい、いかがわしいホテルの『ご休憩』の時間くらいね。

 モチベーションあがらないけど、できるだけ期待に添いますよ。


「頼むよヨシトくん。それじゃまた。キミのあげる成果を楽しみにしてるよ!」

 ゼウスは、そう言い残して姿を消した。

 

 帰る前に一声、部下に期待の声をかける。

 小さな作業だがやるとやらないで部下の動機づけと成果に大きな違いが出る。

 意外に忘れがちなその作業をさらっとやるあたり、さすがに最高神ということか。

 

 でもエルフ耳の半神半人とかは量産しないでくださいよ。

 ただでさえ、ギリシャ神話の英雄は、ほぼあなたのDNA持ちなんですから。

 量産型英雄(かくしご)英雄量産装置(たねうま)――ダメ。絶対。 


 いや、もしかしてエルフとかケモノ耳娘目当てで異世界布教を始めたのか?

 オレが抱いてはならぬ疑惑にかられたところで――、


    

       ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「ヨシトどの……ご在室かな?」 


「おや、ヨブさん、どうなさいました?」


 平静を装い、部屋の前にいるヨブさんに返答を返す。 

 ヨブさんはどこか遠慮したようすで部屋に入り、たずねてきた。


「お客様に昼過ぎまで、お声掛けもせずに申し訳ない。どうしておられました?」


「……神との語らい、魂の触れ合いの時間をもっておりました」


 静かにゆっくり、落ち着いた声で。宗教者(それ)っぽく言ってみる。

 うん、まちがってないはずだ。

 語らいの話題がゼウスの旅行話だったり、魂のふれあいが洗脳未遂を意味してたりしても。 


「おお、さすがはヨシトさま。敬虔なる神の使徒としてのふるまい、恐れ入ります」

 深々と礼をするヨブさん。


 うっ、敬意の視線が痛い。これでも信心たまっちゃってるんだろうな。

 なんだか、詐欺の片棒を担いでいるような……、

 いや。がんばるんだ。ヨシト、ここを乗り越えてからが本当の教祖の道。

 今は気持ちよく夢を見させてあげるのが、自分の勤めなんだ。


「おや、妹弟子のパラスさまは?」 


 周囲を見回してヨブさんが聞いてくる。

 う、なんでよりによってその質問?


「彼女は礼拝中です。礼拝する姿を異性に見られてはならぬというのが、彼女の信じるアテナ女神の戒律ですので」

 もちろん嘘だ。適当にありそうな戒律をでっちあげただけ。


「おお。そうでしたか。これは失礼を……」


「なに、これはこちらの都合です。それより、今日はどういったご用件で?」

 よそいきの、教祖っぽい口調でたずねる。

 動揺を完璧に隠してくれるヘルメスの話術ばんざい!


 しかし、そのとき――、


 ガタコン!


 あ、戸棚から音が。アテナが目覚めたのか?

 ヨブさんがのぞいて、さっきの状態のアテナを見たら、卒倒――どころかショック死しかねない。


「あ、あれは!?」

「パラスですよ。あのなかで女神への礼拝をしております」


 それがなにか? という感じで言い放ってみる。

 ポーカーフェイス、ポーカーフェイス、心臓はバクバクしてたけど。 


「あの……他にも部屋はございますので、そちらを利用なされては?」

「さようですか。許可が頂けたこと、パラスに言っておきましょう」


 おかしいのはあなたのほうですよ、って感じに徹底的に平静を装う。

 

(よし。うまく切り抜けたぞ)


 と、オレがほっとしたところで、響くアテナの声――、


「あれ、わたし、なんでこんなところで……」

 

 いや、あなたがホラーな感じだったからですよ! アテナ!


「ヨシト……さま?」

「……神との深いレベルの語らいにおいては、忘我の境地におちいるものです」


 しれっという。我ながらすげえ言い訳だな。

 よく考えるとまちがっていないところが、もっと恐ろしいけど。 

 

「ヨシトさん、わたしはなぜ……」

 戸棚を開け、けげんな表情で出てきたアテナを目で黙らせると、


「それよりヨブさん。なにかご用件があるのでは?」

 オレは鉄面皮のまま、話題を強引に変える。

 持っててよかった交渉スキル! 最強だぜ鉄面皮(ポーカーフェイス)! 万歳(ビバ)ヘルメス!


「さあ、わたしでよければ相談に乗りますよ」

 オレがむりやり話をうながすと、ヨブさんは疑問を内に仕舞い込む。そして――、


「ええ、里の恥部をさらすようで、心苦しいかぎりなのですが……」

 里の長老は苦悩を顔に浮かべつつも、話を切り出した。



         ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 アテナとともに長老の話を聞く。

 エルフの娘さんがお茶をおいていったが、ヨブさんのお茶は飲まないまま冷めた。

 オレは話を聞きながら飲んだ。ハーブ茶だろうか。口がさっぱりする。

 アテナは上品な動作で茶を口にし、それからおもむろにいった。


「そう、やはり反対派がおいででしたか……」


 ヨブさんの話はつまり、里の中にオレたちを快く思わないもの、なかには強硬に追放を主張するものまでいるということ。


「……お分かりだったのですか?」

「いきなりやってきた人間と、そのものが信じる神を敬え、唐突にそういわれても難しいことでしょう」


 アテナは冷徹に里の人間の心理を分析する。

 さすが。さっきまで白目をむいて神々と交信してた人とは思えない。

 

「もうしわけありません。あなたがたは里を救ってくださった英雄だというのに……」

「だからこそですよ。得体のしれぬ強い力を持った相手。敵を滅ぼしたならいなくなってほしい。

 今度はそのものが敵に変わるかもしれないのですから」


 と、理解を示した上で、アテナはさりげなく問う。


「――で、どなたが、わたしたちを追放せよとおっしゃってるのです?」

 アテナの目が危険に光った。


「それは……しかし」

 長老としては言いづらいでしょうね。


「もちろん。そのかたを害そうなどとは思っておりません」

 たぶん、そのあとに、ばれるようなやり方では――と続くんでしょうけど。


「そうですな。特に鍛冶師のパウェル、あのものは村の若い者のまとめ役ですから。彼が強硬に主張すればわたしでも無理は通せぬのです、今はピエトロが説得にあたってくれていますが……」


「なるほど。鍛冶師ですか……わかりました。ならば兄弟子ヨシトさんが直接、話をつけにいきます」


「え? ごぼふっ!」


 むせた。お茶が気管に入った。

 ちょ、な、なにをいきなり! ハーブ茶返せ!

 ……じゃなくて、オレを反対派の中に放り込むとか鬼ですか!?


「いいえ、女神です」

 それはそうですけど……そうじゃなくて!

 言いつのろうとしたオレにアテナが素早く顔を寄せた。


 揺れた髪、彼女がふいに香らせた甘いにおいにドキッとする。

 コミュ症気味の人間にいきなり近寄らないでください。特に美少女は――、


 そんなオレの抗議など無視して、アテナは話を続ける。

 

(考えがあります。実はヘパイストスが……)


      

         ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 そして――、


「し、しかたないですね。あ、アテナさんのために行くんじゃないんですからね!」


 ――アテナの考えを聞くと、オレはツンデレ気味に納得したうえで、行かざるを得なくなった。

 

 どこへって? 


 もちろん教団移転反対派の集会のただなかですよ!

 


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