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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第二章
15/110

懐柔大決戦!

 ~よくわかる神心操作。 監修 ヘルメス 講師 久世ヨシト~


レッスン1、弱気な女神の対処法。


『まずは強気に。不安を募らせ、嫌われることを恐れる性格も利用し、逃げ道をふさぎましょう』

 


 薄暗い取調室。照明はテーブルに備え付けてあるスタンドの明かりだけ。

 もちろん、容疑者を不安にさせることを意図した結果だ。


 ドン、

 テーブルの上に書類の束を置く。少々、乱暴に――、

「ひっ!」 

 その音だけでオレの向かいに座る中年女神――デメテルさんが怯える。

 そんな目で見られるとあれなんだけど……、

 今回は思惑がある。だから彼女の恐怖心はあえて残しておく。


 ぱらり、ぱらり、持ってきた書類をめくる。

 いきなり話しかけたりしない。 

 書類はヘルメスさんからお借りした三神(ようぎしゃ)の信心財務記録だ。

 もちろん、記された数字の意味は分からない。

 ギリシャ語の複式簿記なんかちんぷんかんぷんだからね。

 でも、大事なのは演出だ。


「……デメテルさん」

 オレはようやく口を開く。できるだけ冷徹に。


「ひっ、はい!」

 恐怖に震えるデメテルさんが、しゃっくりのような音を出した。

(う……洗脳されかけたとはいえ、心が痛む) 

 かなり悪いことをしている気になったが、しかし加護を引き出すには必要な作業だ。

  


「オレがなぜ、ここにいるかわかっていますか?」

「え、ええ。取調べ……とか」

「ゼウスさまはね。家族のことを裁くのは忍びない。だから被害者のオレに全部を任せるとおおせです。しかし処置を任されたオレとしても罪のない方を裁く気はありません」


 オレは、そこまで言って言葉を切る。


「…………」

 しばらく続く沈黙。こっちもあせらず、話したことの意味が伝わるまでじっくりと待つ。

 そしてデメテルは気づいた。

 首謀者一人を罰するというオレの意図。生殺与奪の権利がオレにあるということを――、


 そこでさらに一押し、

「ゼウスさまに神罰執行権(らいてい)を与えられていますが、できるだけ使いたくないんですよ。

 あなたは本当は善良なかたのようだから嫌いになりたくない。だから、お願いします。正直に話してくれませんか?」

 

 その言葉でデメテルさんの目にぶわっと涙が浮かぶ。


「わ、わたくしは…………」

 

 よし! 一柱(ひとり)落とした!


 

         ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「わたくしは止めましたのよ! でも信心の不足は圧倒的で……」


「わかりますよ。オレも生前は弱小企業の社員でしたからね。

 どうがんばっても悪化する状況ってのも経験してます。あれはツラいです。

 そんなとき、うまい話を持ちかけられたら――つい乗っちゃいますよね?」


 同意し、同情してみせる。半分は本心だ。


 あの洗脳事件にゼウスたちは激怒していた。オレのためにも怒ってくれた。

 しかし、オレには追いつめられた人間(神さまだけど)の気持ちがわかる。

 だから彼らを憎み切れないのだ。けっこう恨み深い自分としては不思議なんだけど。

 ま、人気神には、せっぱつまった心境はわからなさそうだが……。

 


 そして同情して見せた意図の残り半分は――、

 もちろん懐柔(たらしこみ)だった。

 

「ヨシトさん……わたくし……」


「でも洗脳はいけません。これはオレのみならず、ゼウスさまたちをも裏切る行為です」


 オレの同情の言葉にすがろうとしたデメテルさんを少し突き離したうえで、 


「ちゃんと加護をいただけたなら、こちらもきっちり神殿を建ててお祀りしたのですよ?」


 今度は暖かく迎えてやる。


「しかし、今のわたくしたちに力など残されてはいません。異世界での布教に役立つことなど、もはやできようはずが……」


「今はできることでいいんです。あなた方がこちらで信者を得て力を得るまでオレたちが支えます。……あなた方、ギリシャの神々が今まで支えあってきたように……」


 最後にとどめのキメゼリフ。


「う、う、うううううううううううぅぅぅぅ!」

 デメテルさん大号泣である。

 さすがだな。ヘルメス印の泣かせ話術スキル。



 数分後、

 泣き止んだ豊穣神デメテルさんから加護……というかアイテムをもらう。

 今ではすごく協力的です。すばらしい。よくできました。


「ヨシトさん。わたくしの菜園でとれた薬草をお渡しします。必要ならまたいつでもどうぞ」

 

 薬草――お薬? オレに使われた催眠薬もすごい効能だったらしいし、これは期待できそうだ。

 ネクタルの効果を得たオレには不要かもしれないが、里の人に使ってあげれば感謝されるだろうし。

 文明化が進んでなさそうなこの世界だと、意外に強力な加護じゃないですか?

 そんなに自分を卑下することはないでしょうに……。

 

「いえ、全盛期は地球全土の収穫量に影響を及ぼせましたのに、今は一ヘクタールの家庭菜園の維持で、せいいっぱいのありさま。お恥ずかしいかぎりですわ」


 え、一ヘクタール!? それはもう家庭菜園じゃないような……、

 比較対象がでかすぎて自信なくすパターンか。ましてそれが過去の自分だとな。


 

        ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



レッスン2、強気な女神の対処法。


『強引な説得は避けましょう。ぶつかりあっての平行線より、情に訴えるなどのからめ手で』



 ――さて、次はかまどの女神さんの番だ。

 

「あたしさ、あたしが全部計画してやったのさ!」

 うわ、いきなり自白ですか? 

 ヘスティアさん。ちゃきちゃきした人だから、嘘は嫌いなんだろうな。

 

 洗脳未遂事件の真相は、実はもう聞きだしてある。

 ヘスティアとヘパイストスの謀略に人のいいデメテルさんが巻きこまれたようだ。

 そしてヘスティアさんは姉御肌だから、他の神に罪が及ばぬよう、自分ですべて引き受けたのだろう。


『教祖洗脳未遂事件、犯神(ヘスティア)の自白でスピード解決さる!』

 う~ん。いいことなんだけどね。捜査官、取調官としてはちょっと物足りない。

 それでも落胆を隠し、できるだけ平静に説得する。



「……あなたが処罰されたら、弟さん――ゼウスさまは、どうお思いになるでしょうか?」

「う!」

 情の深そうな人だと思ってかけた言葉は、思いのほか図星をついたようだ。

 よし、ならばさらにもう一押し。


「オレだってゼウスさまが悲しむ光景は見たくありませんよ」 

「で、でも、あんたは……いいのかい? 洗脳までされかけたのに?」


 先ほどまでのかたくなさは溶けかけている。この抗議も最後の意地みたいなものだ。

 だから――オレは優しく微笑んで見せる。


「では……罰として料理を作ってください」


「な、そんな罰があって――」

 たまるかい、と言いかけたヘスティアさんへ、オレはさらに言葉をかぶせていく。


「あなたの作ってくれた煮物で家族のことを……祖母ちゃんの作ってくれたご飯を思い出せました。

 オレはあの味をまた味わいたい、だから罰というか代償はそれだけにします。だめですか?」


 遠く離れた家族――オレの言葉が気は強いけど涙もろいヘスティアの琴線に触れたらしい。

 本当はうちの祖母ちゃん、海外生活が長かったせいでバリバリの洋食派だけどな。


「わ……わかったよ! 腕によりをかけて作ってやろうじゃないか! いつでも食べにおいで!」

 

 おお、いつでも日本食がいつでも食べられる環境か。

 布教の疲れを故郷の食事で癒せるとは……今まで最強の加護かもしれない。じゅるり。

 いやあ、他の転生さんや転移さんに申し訳ない(棒読み)


 よし。じゃあさっそく、かつ丼一丁、お願いします。使う予定があるので。


「へ?」

 ヘスティアさんがぽかんと口を開いた。

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


レッスン3、ガンコな鍛冶神の対処法。


『その相手の誇りとコンプレックスを見抜いて刺激してください。なかなか扱いが難しいですが、身内になれば頼りになることが多いです』



 ――取調べの最後はヘパイストスさんだ。むっつりしてるな。


「待たせてすいませんね。おなかがすいたでしょう。まずはこれをどうぞ」


 差し出したのはヘスティアさんに作ってもらった定番の取り調べ食品、かつ丼だ。

 おっと。慣れない日本食だ。油物でおなか壊したらいけないね(棒)

 よし、デメテルさんにもらった胃薬になる薬草も渡しておきましょう。

 

 ――もちろん、これは暗示だ。


「そうか、あの二人はそっちについたというわけか? ならばわしのことは……そうか。好きにしろ」


 パッと見、脳筋なドワーフなのに、こちらの意図をすぐ理解してくれた。

 不安そうな顔をした後、覚悟を決めたような表情になる。


 もっともこれはブラフだ。

 アテナにも言われていた。ヘパイストスだけは必ず仲間に引き込むように……と。

 だが、あまり優遇する姿勢を見せたら足元を見られる。

 だから二人の女神を先に説得し、ヘパイストスに取り残される不安を与えたのだ。

 

 そして、次は懐柔(たらしこみ)に入る。



「いえ、処罰する気はありませんよ。あなたの技術(スキル)は重要なんですから」

 

「なにをいう。この博物館送りの老体に……」

 それこそ、なにをおっしゃる。

 あなたより年上の義父(ゼウス)さんは、まだまだ現役バリバリの美女ハンターさんじゃないですか?


「わしは昔、技術により鍛冶師の信仰を受けていた。わしも全力で腕をふるい手本を見せた。

 しかし技術に科学――なにもかもが発達しきったこの現代ではどうなる? わしの技は時代遅れだ。

 おのれの腕が不要になった時代に生きる匠の神ほど、滑稽(こっけい)で哀れなものはあるまい」


 おお、すごい語りますね。


「なればこそ卑屈になった! 怯懦になった! 臆病(おくびょう)になり、貪婪(どんらん)になった!

 貴殿の人としての尊厳を奪う行為であっても、信心をあさましく(むさぼ)ろうとした!」


 慙愧(ざんき)、後悔、無念――抱え込んだうっぷんをヘパイストスが吐き出す。

 彼の気持ちはよくわかる。

 誇りを捨てきれないまま、苦境に屈して、悪事に手を染める。きっとつらいことだよな。


 しかし、もちろん、彼に誇りを捨ててもらっては困る。

 彼には矜持(プライド)をとりもどしてもらわなければ。

 もちろん、布教のために!



「……いいえ、今、あなたの力が求められてるんです! この世界では!」

「なんと?!」


 彼がうつむいけていた顔を上げる。その目に一筋、希望の光――、


「ええ、むしろこの世界での布教にはあなたの力が不可欠なんです。

 信心が少なく、苦しい状況のあなたに加護を頼むのは心苦しいのですが、力を……貸してください」


 この人は職人気質だからな。甘い言葉より苦境であっても頼られるほうがうれしいだろう。


「わしにも……このわしにも、まだ必要とされる場が……あるのか!?」



 最初に不安にさせて、ほっとさせて、最後には自信を持たせて――こき使う。

 えげつない神心掌握術。これぞ神たらしの真骨頂ですね。


        ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 は~い。じゃ、ご三方、こちらに集合してください。

 いろいろありましたが、信頼関係を築くことができたんじゃないかな~と、オレは思いますよ。

  


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