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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第一章
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勝利のあとさき。

「ヨシトどの!」


 ヨブさんの視線が熱いです。顔が近いです。どぎまぎします。顔が真っ赤になります。

 熟年(おじさま)エルフなんて新たな趣味(ジャンル)に目覚めたわけでなく、コミュ障ぎみだからです。


 オレを散々ビビらせてくれたエルフの長老ヨブさんは熱っぽい口調で、一気にまくしたてた。  


「先ほどからの言動を見て感嘆しました。勇敢で腕が立つばかりか、慈悲の心もおありになる。

 人柄まですばらしい方。あなたのような人の信じる神ならば、きっと素晴らしい神に違いない。 

 しばらく村にいて教えを広めてください」


 あ、布教の件でしたか……それならお話に乗らなくも……、

 

「長老、なにをおっしゃるのです!」

 先ほどの石投げ青年隊長ジュードくんが抗議している。


「そうです。短慮ですぞ」

 里の若頭パウェルさんも同意見のようだ。 


 だが、里の長老は覚悟を決めたらしい。首を横に振る。


「村には心のよりどころが必要だと常々思っていた。それを今、見つけたのだよ!」 


 おお、ヨブさん、なんか目の色が違う。

 でも、布教しておいてなんですけど……あんまりもめごとのネタにしないでくださいね。


「しかし、相手はどこの馬の骨ともしれぬ若造ですよ!」 

「そうです。外見からして怪しすぎます!」


 ちょっと失礼な反対意見が出てきた。

 さすがにひどいです。前言撤回。やっぱり言い返しちゃってください、長老。


「その、どこの馬の骨ともしれぬ若造が、村人たちを救ってくれた。賊に命がけで立ち向かってくれた。

 ヨシトどのの助勢がなければ、女子どもはさらわれ年寄りは殺されておったのじゃぞ!」

「むう」

 

 その通り! 実績ってのは強いですね。

 パウェルさん、ジュードくんともに、あのときいなかったから言い返せないようだ。ざまあ見ろ。 


「それがしも長老に賛成だ」

 続けて賛成票一票が投じられる。これで2対2だ。

 ちなみに投票した武人口調の主はピエトロさんである。  


「ピエトロさん! あなたまで!」

 ジュード青年はご不満のようだ。尊敬していた武人に裏切られたような気がしたらしい。

 しかしピエトロさんは、ジュードくんの抗議は無視して、こっちにやってくる。

 

 あれ? なんでひざまずくの?


「その腕の冴え、お見それいたしました。ヨシトどのの弟子にしていただきたい!」


 え、弟子入りの申し込み?

 脳筋エルフさんが暑苦しいくらい必死に頭を下げてきた。オレはあわてて首を横に振る。

 

「いえ、弟子は取らない主義でして……」


 即座に却下する。そもそもオレは武術なんていっさい学んだことはない。

 アレスの加護のおかげで強さを得ただけ。言ってしまえばすべてチートなのだ。

 

 そんなオレが長年鍛錬を続けてきた人の師匠面をする……なんてのは、さすがにマズイ。

 明日には、『そなたに教えられることはなにもない』とか言っちゃいそうだし。


「やはり、それがし程度の腕では不足ですか……」


 うつむくピエトロさん。露骨にがっかりしていた。なんだか悪い気分になる。

 いえ、不足なのはこちらの腕なんです……、

 ええい、しかたない。妥協案を提出だ。


「……ですが、ともにアレスに祈りをささげ、加護を受け、武術の道を研鑽いたしましょう」


 オレの言葉にピエトロさん、パッと顔を輝かせる。


「おお、では入信を許可いただけますか!?」

「もちろん。いや、そもそも神を信じる心にいかなる許可もいりません」


 おお、またしても教祖っぽいこと言ってるぞ。オレ、どうしちゃったんだろう?

 こうして話は進んでいく。 

 一方、話題に取り残されていた石投げ青年団長と若頭は、頭に血を上らせ、


「お、オレは認めないからな!」

「この件についてはまた明日話し合いましょう!」

 

 二人は捨てゼリフとともに遠ざかっていった。



「やれやれ、すみません。あれはあれで村思いなのですが、視野が狭く暴走しがちでして……」

 と、長老は弁明した。

「いえ、熱心な方なのでしょう。若いうちはそうでなくては……」

 オレは分別くさいことを言ってみる。十歳くらい年を取った気がした。


「とにかく今日はわが家でお休みください」


 と、長老が勧めてくる。


「いや、うちへどうぞ! 武術について語り明かしましょうではありませんか!」


 そこで今宵の宿を争いに来たピエトロさん。けっこう暑苦しいです。

 いやあ、大人気ですね。どちらにしようかな?


「いえ。ピエトロの家はむさ苦しい男所帯、娘さんも泊まれるような広さはございませんぞ」


 じゃ広いほうでお願いします。即決です。

 正直、熱のこもった武術談義とか無理です。

 さらに監視役(アテナさん)と同部屋とかイヤすぎます。

 労働者として、せめてプライベートの時間くらい要求します。


 え? 美少女と同部屋は役得じゃないかって? 

 ちがいます。絶対ラッキースケベなんてないし、もし万が一あったら……殺されます。


 こういったやりとりをへて、オレたちは長老の家へ向かうことになった。



 よし! 信者ピエトロ、信者ヨブ、それに今夜の宿もゲットだぜ!



          ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

 


 その夜、祝勝の宴が続くコルクの里

 長老の家から、ひっそりと抜けだす影が一つあった。

 

 細身の人影の正体は……アテナである。 

 彼女は茂みに身を隠し、人を待つ。

 

 二刻ばかりして――、

 宴が終わり、すべてが寝静まった深夜、里を逃げ出そうとした人物に背後から声をかける。


「……お仲間のところへお戻りですか?」

「ひっ!」


 その男は、中年で小太り、冴えない見かけをしていた。

 耳のとがり具合を見るにエルフの血を受けているらしいが、人の血が強く出ているらしい。

 容姿は平凡以下。それがこの男のコンプレックスだった。

 ハーフエルフの里ではそんなこと気にする者はいない。しかし男は気にした。

 口下手なのも不器用な生き方しかできないのも、すべてハーフエルフらしからぬ見かけのせいにした。

 

 だから里の人間を売ったのだ。正確には男たちが行商に行く日を奴隷商人に教えてやった。

 くわえてピエトロが森に不審者の探索に赴くよう、情報を流したのも彼だ。

 自分と違って容姿に恵まれた里の民へ、ちょっとした意趣返しのつもりだった。


 それだけのことをしておいて、発生した結果におびえ逃げ出そうとしたのだ。

 つまり、その程度の器しか持たぬ男であり――、


「な、なぜ私だと!?」 

 だから、あっさりと語るに落ちる。


「……あの『石打ち』のとき、あなただけが周りのようすを気にしながら石を投げていましたからね。

 ああまでして必死に周りに溶けこもうとする人間は、間者以外にいませんよ?」


 疑いはそれほど濃くはなく、先ほどの問いも半ばかまをかけたもの。

 だが、そこまで教えてやる義理はアテナにはない。


 アテナは獅子身中の虫がどれほど恐ろしいものか知っている。

 大軍に包囲されてなお十年持った(トロイア)が、わずかの兵の侵入を許したばかりに陥落した。

 その光景をアテナは一度、自分の目で見ているのだ。

 

(だからこそ、布教の拠点となりうるこの里に裏切り者がいてはならない)

 冷徹な決意とともに、アテナは殺意と……用意した剣を向ける。


「うわぁ、死ねえぇ!」

 裏切り者のハーフエルフは逆上して、襲いかかってくる。

 腹のあたりでかまえた短剣は用心のために持っていたようだ。

 その死にもの狂いの突進をサイドステップで軽々とかわし、アテナはあっさり剣で一突きした。

 さえぎる骨のない腋の下から抜け、アテナの長剣は目的地――心臓に到達する。


「え、う……?!」

 ハーフエルフの里の裏切り者は、あっけにとられたまま命を落とした。 



「おいで……ケルベロス」 

 アテナは死体を召喚した冥府の番犬に食わせる。

 ごわごわした毛並、しかし腹の当たりの毛はやわらかい。アテナはそこをもふもふした。

 三つの頭も順番になでてやる。アテナの無表情も心なしか幸せそうだ。

 そして完食。魂まで平らげたケルベロスは満足げに帰っていく。周囲には血の一滴も残されていない。

 

 飼い犬にささげられた異界の人間の血肉。これで冥府の主ハデスもも利益供与されたことになる。いわば共犯となったわけだ。

 かくして死体処理というおぞましい作業も、アテナにかかれば冥府の主を巻き込む一手となる。

 もっともケルベロスの飼い主・冥府の王ハデスは、あれでかなりの愛犬家だ。噂ではケルベロスの巨体に合う服まで作らせたらしい。

 (ケルベロス)を猫っかわいがりしてる彼には『悪いものを食わせた』と怒られそうだが……

  

「まあ、いいでしょう」

 アテナは冥府の王の抗議をあっさり頭から追いやり、今日という日を振り返ることにする。


「……あのヨシトという男、思いのほかにやりますね」

 

 あえて情報を制限してみたが、ヨシトは思いのほか的確にたくましく対応している。

 情報が万全でもいつか一切の事前情報なしに事に当たらなければならぬ時が来る。不測の事態に秀才が崩れ落ちるさまをアテナは何度も見てきた。だからこその試験だった。

 ましてやここは異世界だ。今までの常識がまったく通用しない世界――それでもヨシトは適応している。

 ヘルメスのいらぬ手助けがあったとはいえ及第点といえよう。

  

「……それに運もある」

 

 知恵の女神だからこそ、アテナは人がその能力だけではうまく行かないと知っている。

 運に恵まれず、どれほどの天才が歴史の陰に消えてきたことか。

 その点、ヨシトはいきなり信者を獲得する機会を得て、それを最大限利用してしまった。

 軽薄さとヘタレさにはイライラさせられるが、成果は認めざるを得ない。


 神々の奇跡を使って大都市の富豪や権力者に食いこみ、そこから教団を作って勢力を広げようか……とアテナは計画していたのだが、これはこれで面白そうだ。

 

「あの男は、なかなかの掘り出し物だったということですね」


 つまり(ゼウス)のもくろみは成功した。あいかわらず乾坤一擲の大勝負に強い主人公体質である。


「だからこそ、周囲が苦労させられるのですけどね。……わたしも含めて」


 愛憎半ばする父にため息をつく。

 実はアテナは今回の計画に反対していた。

 せっかく長年かけてためた人気をヨシトを異世界に送るため、かなり使ってしまっている。

 しかも重圧をかけぬため、この件はゼウスの配慮でヨシトへは秘密にされていた。

 それゆえアテナのヨシトへの対応はきつくなっていたのだ。

 ヨシトが毒舌女神と思ったのは、それが理由なのである。


「うまく行けばいいのですが、失敗すれば大打撃。賭け事にもほどがあるというものです」


 それでもアテナは父のため、教祖となる男の案内役、さらに仕事の監視まで引き受けた。

 女神としての義務であると同時に(ゼウス)への捨て置けぬ想いからだった。 

 神の身といえど親子の情愛を切り離せぬ。割り切れぬものなのである。


「いえ、それでいいのかもしれない」


 知の女神としては論理と推測がしばしば覆されることに腹も立つが、かといってすべて計算で片が付く世界はひどく退屈のような気がする。

 長い年月を生き、感性の摩耗した神々にとって偶然と奇跡はこれ以上ないスパイスなのだ。 


 たとえばヨシトが引き起こした今回のイレギュラーのように……。 



「さて、計画を変更するとして……あの頼りない教祖をどうやって使いこなしましょうか?」


 煌々たる月光を浴びつつ、アテナは一人つぶやいた。


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