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1話

 叶わない恋だと知っている。

 かっこいいヤツなんて他に腐るほどいる。肉食よろしくアプローチする彼らが、理性勝って放っておくような平凡な子ではないのだ。

 きらめく長髪は、近づくとふんわり甘い香りがする。白く澄んだ肌は完膚なきまでになめらかで、いっそ人工的、人形みたいだ。大きな瞳は見つめられたら最後、恋することを止められやしない。まるでそう、天使。

 ――付き合ってください。

 修学旅行、体育祭、文化祭、クリスマス、バレンタイン、季節的イベントを迎えるたび、彼女を手に入れようと男子たちが、寄ってたかって告白しては玉砕する。そのたびに流るる噂は校内だけにとどまらない。周辺他校にまでわたるのだから、彼女の評判の程は計り知れない。

 情報駆けめぐるSNS最盛の時代、ティーンエイジ三大ネタの一つである「恋バナ」が、同世代で取り沙汰されないわけがない。

 つまり、彼女に告ったならその情報リスクは、結果いかんを問わず校内外に伝播してしまうという「公開処刑」が待っている。まして冴えないタローがそんな大それたことをしでかしてしまった日には「身の程知らずめ」と揶揄されること間違いなしだ。さらに我が校には恐ろしい取材力を持つ校内新報記者の山本さんがいるため、尚更情報を拡散される可能性が高い。

 そもそも選びたい放題の彼女に、取り柄のないタローが想いを告げたところで、成就する可能性など皆無だ。

 自室ベットで天井を仰ぎながら、暗澹たる気持ちのタローはため息をついた。いくら考えても彼女は手に入らない。逆に自己嫌悪に陥るだけだ。いっそ考えることをやめて、あきらめモード全開、吹っ切れてしまった方がいい。分かり切っている結論はつまり、彼女は自分のものにならない、そういうこと。これはもう、変えようがない現実。

 きっぱりとすれば気持ちだって幾分か晴れる。

 目をつむって意識がまどろんでから、どれほど経っただろう。その物音はタローの意識を少しずつ覚醒させた。

「なんだこれ意味わかんないぞ? ……ああそっかこうすればいいんだ」

 ガチャ! と明らかに室内でした騒音にタローの意識が急激に目覚める。思わず見やった窓辺に、ソイツはちょうどガラス窓をがらがらと開けて進入してくるところだった。素っ裸の赤ちゃんが、ご丁寧に開けた窓を再びがらがらと閉める。その際にのぞかせた背中の小さな翼が、パタパタする。

「なんか臭い部屋だなあ。ちゃんとファブリーズしてんのかよ」

「ぎゃあああああむぐううう」」

 大声をあげようとすると、豪速で口を塞がれた。

「やめてよ! そんな叫ぼうとするだなんて、やめてよ!」

 大まじめな顔面で、赤ちゃんが言った。

「ボク悪い子じゃないよ。超いい子。わかった?」

 目をじっと見つめられて、返答を要される。

「むう」

 塞がれたまま、うなずくと天使が手を口から離してくれた。

「ボク天使キュードッピ! 君を助けにきた、いわゆるドラえもん的な存在だよ。よろしく、ね?」

 ウィンクを決めて小さな手をさしだし、握手を求められる。仕方なくつまむように握手しながら、タローは尋ねた。

「な、何なの、ドッキリ?」

「どっきりってなにさ。もう恋の話をするのかい? 君のその胸は、ドッキドキなのかい?」

 うふふふ! と笑う天使の顔は、いたって気持ち悪かった。

「いや、だから、その、君は一体何?」

「エンジェル大学ハッピー学部ラブ学科3年、天使のキュードッピさ。今実地研修中なんだ。つまり恋の悩みを抱えている若者の所へ赴いて、解決してあげんの。わかった?」

「ぜんぜんわかんないよ、なんだよそれ、エンジェル大学ってどこのフザケた学校法人さ」

「ちょっとバカにしてる? エンゼル界じゃ名門だよ? 数々のシンデレラストーリーを築き上げてきた偉大なる天使たちを数多く輩出している超有名校さ。人の幸せに寄与する天使たちの学び舎で、ボクは誇りを持って学ばせてもらっているよ」

 小さな胸を張る天使。もう何がなんだかわからない。どうしろというのだ。

「か、仮に君が本物の天使だったとして、……なんでボクのところなんかにきたのさ」

 天使は両手を股間に当ててモジモジし始めた。気持ち悪いけど、我慢してしばらく見つめていると、きゅぽん! 

 なんか出てきた。タブレット型の端末に、天使の輪と羽のロゴマークがあしらってある。

「これさ!」

「なにさ」

「恋のお悩みバーロメーター」

 ドラえもん風に、天使が誇った。

「これでね、悩みを抱えている子が分かるんだ。好きだ、好きだ、好きだ、でもああああ叶わない、ああだめ! みたいな感情が数値化されて表示されるの。まさにこの家、この部屋から、異常な数値が検出されたよ。君のことさ。どうだい、悩んでいるでしょう?」

「……まあ」

「ほおら。やっぱり、ほおら」

 とてつもないドヤ顔だった。


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