表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

神様の外出

なんか新学期始まったら寮のネットが使えなくなってて今まで投稿できませんでした。すみません。

テストが終わり、穏やかに流れる土曜日の午前。

現在、俺、御門大地の家では穏やかならぬ空気をかもし出している。

その原因は正座している孝太の前に立ち、それを見下ろしているリリィにある。


「・・・いいですか?今回点数がよかったからと言って気を抜くと

次回また痛い目に遭いますよ?・・・と昨日そう言いましたよね?」

「言われたかもしれません・・・」

「かも、ではなくて言いました。それを忘れるなど鳥頭ですか?」


ナチュラルに罵倒を挟みながら叱ってくる。

孝太は頭を低くしながらそれを聞くばかりだ。


「それで、今日何をしようとしていましたか?」

「一日中、惰眠をむさぼろうと」

「バカですね。一回死ぬことをお勧めします」


いつもより切れ味の深い言葉をよそに、佳代とカルミアはゲームに、俺と仁奈は勉強に勤しんでいる。

テスト明けからはそこまで根を詰める必要はないので家庭教師はなしだ。

・・・ただし、孝太を除いて。


「で、でも赤点を初めて回避して喜びのあまり叫びそうになった俺がここ一週間ずっとそれを我慢してたんですから、今日くらいは休んでも・・・」

「今ここで悲鳴なら上げさせてさしあげましょうか?」

「あ、結構です」


なんとか抵抗しようと試みた孝太だが瞬殺されてしまった。

とはいえ、今回のテストは俺も孝太も今までにない好成績だった。

なので孝太に同情する部分もあるが・・・リリィが怖いので大人しくしておこう。

南無阿弥陀仏なむあみだぶつ


「ああっ!このキラー追いかけてくるなんて聞いてないぞ!」

「私に任せてっ!・・・ていっ、ていっ、ていっ、ていっ!無限1UPだー!」

「二人共うるさいです」

「「あいすみません・・・」」


リリィの怒りがゲームで盛り上がっている二人にも向けられた。

この家が徐々にリリィに浸食されていっている気がする。

持ち主の俺がこんなに発言力がないとは。悲しい。


「・・・ですがまぁ浅井さんの言うことも一理あります。ずっと勉強づくめというのもストレスが溜まりますし」

「じゃ、じゃあ・・・!」

「ただし、今日まではみっちり勉強してもらいますよ」

「・・・は、はい」


どうやら話は一段落したようだ。

それを機に俺はペンを置いて飲み物を取りに立ち上がる。


「あ、お兄ちゃん。私にも麦茶ー」

「「大地、私にも!」」

「・・・あいよ」


自然な流れで仁奈、佳代、カルミアの三人にぱしられた。

・・・別にいいけどな。

麦茶を取り出し、コップにいでいるとリリィもキッチンにやってきた。


「叱り疲れました」


聞いてもないのにそんなことを呟くと、リリィは俺が注ぐコップ4つのそばに新たに一つコップが置いた。まあ一つ増えても大した手間じゃないし、自分で取りに来ただけましか。

・・・なんか考えが危なくなってきている気がする。

それもここ数日、俺の家にみんなが集まり出したからだろう。


テストが終わり、勉強という名の苦行から解放された俺はゆっくり休もうと思っていた。そんなところに孝太が遊びに来た。さらには佳代とリリィまで。

約束もないのに集まった面子めんつに俺は嬉しさを感じた。

が、次のリリィの言葉を聞いた瞬間、そんな感情は消え去った。

・・・そう、「勉強しましょう」という言葉を聞いた瞬間に。

それからはほぼ毎日集まってみんなで勉強をしている。

・・・まぁ、それが終わったあとはみんな遊んだり、読書したり思い思いに楽しんでるんだが。

勉強する時間も一日二時間もない。

だが今まで勉強する習慣のなかった俺らからしたらそれが一週間も続けばストレスになる。

存外、集中力のあった俺や陸上で集中力でも鍛えられたのか仁奈はなんとか耐えられたものの、今日ついに孝太がさぼりを決行したようだ。

・・・失敗に終わったけどな。

もう一度心の中で、合掌。


「それで大地さん、明日は用事があって私はこられないのですが」


麦茶を飲み干したリリィが申し訳なさそうに言ってくる。


「いや、全然いいよ。そういう日もあるし、しょうがない」


むしろ休めてラッキー、などとは思っても言えない。


「はい。ついでに明後日からは強制的に勉強させるのを止めようと思います。・・・専制政治は反発を受けて面倒くさいことになりそうですし」


うん、いいことだ。後半の方は聞かなかったことにしよう。

俺とリリィはコップを二つずつ持って(リリィはさっき飲んだのでいらないそうだ)リビングに戻った。

そしてさっき聞いた専制政治終了のお知らせをし、喜び叫んだ孝太を武力で抑えてから、それぞれまたゲームと勉強に戻った。





「っん~!終わったー!」


今日の分の範囲が終わり、凝った肩をほぐしながら横になる。


「あ、大地終わったの?」

「見ての通りだ」

「そ」


気のない返事をした佳代はふと時計を見てぽつりとこぼす。


「・・・そういえばそろそろお昼ね」

「そーだなー」


俺は疲れ切った頭でよく考えもせずに答えた。


「ここは私が料理でも―――」

「「私がするから佳代は座ってて‼」」


佳代の手料理と聞いて一瞬びくっ!と反応した俺だったが、カルミアとリリィがシンクロして防いでくれた。・・・助かった。


「・・・カルミアも座ってていいんですよ?」

「リリィこそ私より劣るんだからここは私に任せて休んでもいいぞ?」

「いえいえ、カルミアが」

「いやいや、リリィが」


二人は何か言いあいをしながらキッチンへと消えていった。

・・・ケンカするほど仲がいいと言うし、きっと大丈夫だろう。

佳代もいないし。


「大地~、カルミアいなくなっちゃったからゲームの相手して~」

「おう、いいぞ」


そういえば仲がいいと言えば、ここ最近一緒にいるうちにいつの間にか佳代とカルミアは名前で呼び捨てで呼び合うほど仲良くなっていた。リリィも遠慮がなくなってきたし孝太も・・・孝太は前からだけどだいぶリラックスしている。

この数日で少しだけみんなの距離が縮まったように思える。

らしくなくみんなで楽しく過ごしたいなどと考えていた俺にとってこの変化は嬉しい。たぶんみんなも悪くは思ってないだろう。


「私も終わり~っと!お兄ちゃん、佳代姉、私も入れて~!」

「もちろんいいよ~!」

「あ、俺も俺も」

「浅井さんは勉強終わらせなさい」

「はい・・・」


仁奈が入ったノリで孝太も参加しようとしたが、佳代によってあっさりと止められてしまった。

ついでに浅井さんって言われてる孝太だけ実は距離が縮まってないのではないだろうか?・・・孝太だからいいか。











「「「いただきま~す!」」」


結局二人で作ったらしい料理をみんなで美味しく頂く。

昼飯の時は母さんも出てきて大人数での食事となった。

だんだん見慣れつつあるその光景を眺めながら明日の予定を考える。

明日はリリィの用事でこうやって集まる約束をしていない。

テスト明けからも勉強ばかりだったのでどこかに遊びに行くか、家でのんびり過ごすかどちらかにしたい。う~ん、悩む。


「孝太。お前明日はどうするんだ」

「ん、俺?」


頬いっぱいにご飯を詰め込んでいる孝太に向かって問う。

・・・その顔は仁奈だから可愛かったのであってお前がやっても可愛くないぞ。むしろキモイ。


「俺は一日中家でだらだら過ごすぜ!やっと手に入った休日だ。休まなきゃもったいない!」

「あっそ」

「うわぁ、聞いといて興味のない返事だな~」


正直興味ない。

でも孝太の意見も一応頭に入れておこう。


「じゃあ佳代は?」

「私?私はね~・・・う~ん・・・。あ、そうだ!仁奈ちゃんの明日の予定は?」


おい、俺の質問の答えはどうなったんだ?

仁奈は不思議そうな顔をし、口をもぐもぐと動かしながら考えている。

だがすぐに考えがまとまったのか口の中の物を飲み込んで答える。


「私は午前中部活で、午後からは家でのんびりします!」

「じゃあ私も!」

「ええっ!?」


仁奈がとても驚いていた。・・・そりゃそうだろうな。

というか佳代は仁奈好きすぎだろ。もはやストーカーに近いぞ。

まあこれで二人の予定は(ほぼ強制的に)決まったわけだ。

あと予定を聞いてないのは~・・・。


「・・・・・・・・」


聞いてないのは・・・・・・。


「・・・・・・・・」


・・・よし。


「明日は出かけるか!」

「私にも聞いてええええええ!!!!!」


カルミアが唐突に泣き出した。

いや、さっきから期待した目で見ていたのはわかっていたんだが、どうせカルミアの予定なんて・・・。


「カルミア・・・あなたに予定なんてないでしょう?」

「あるよ!失礼だなリリィは!・・・明日はたまたまないけど・・・。た、たまたまだぞ!本当にいつもは予定がびっしりなんだぞ!!」

「聞いてもないことを喋ると墓穴を掘りますよ?」

「うぐっ!」


リリィの指摘にカルミアは喉を詰まらせる。

カルミアの予定なんてだいたいないから聞く意味がないと思ったんだよな。

実際なかったし。


「・・・大地くん、さりげな~く私の予定も聞かれてないよ?」

「母さんは仕事だろ?」

「そうだけど~・・・お約束ってやつ?」

「はいはい、次からな。仕事頑張れよ」

「うんっ!」


さて、これで全員の予定を聞き終わった。

・・・で、俺の予定だけまだ未定、と。


「・・・そうだな。カルミア、明日一緒に買い物行くか?」

「え?私とか?」

「うん。お前と」


最初の頃は割とよく出かけていた気がするのだが、最近は全然一緒に出掛けていなかった。あとカルミアがニートになっても困るのでたまには外に連れ出さないと。


「私は全然いいぞ!大歓迎だ!」

「なら明日、午前中に出るから準備しとけよ?」

「了解!!」


カルミアは眩しいほどの笑顔を浮かべ、歌でも口ずさみそうなくらいにテンションが上がっていた。そこまで楽しみにされても困るのだが、精一杯楽しませるとしよう。

俺は止めていた手を動かして昼飯を食べ始めた。


「・・・・・む~!」

「・・・・・むぅ!」


そこで気が付く。

佳代と仁奈が不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいた。


「ど、どうしたんだ?」

「お兄ちゃんが最近遊んでくれない・・・」

「私と二人で出かけたことはないのに・・・」

「いや、よくみんなと一緒にゲームしてるだろ?それから佳代のは都合が合わなかっただけで・・・」


だからそんな不満そうな顔をされても困ります。


「「じゃあ都合を合わせるから今度遊んでくれる?」」

「は、はい・・・」

「「やったー!」」


ほとんど強制的に約束された。あと仁奈、少し前までは怒って泣いたりしていたのに今では脅すくらいにまで成長するとは・・・。

成長はいいけど、佳代の悪影響は受けたらだめだぞ?あ、胸の成長の影響は受けていいぞ?


「ひゅ~、モテモテだね~大地」

「冷やかすなよ孝太。ついうっかり殴っちゃうだろうが」

「ついうっかりで殴るなよ!?」






賑やかな昼飯が終わったあと、みんなでトランプやゲームをしながらまったりとした時間を過ごした。ババ抜きでは俺がババを引いたり俺がババを引かされたり俺のババを引いてもらえなかったり・・・。

ス○ブラではファルコンパンチで吹き飛んだり、クッパの道ずれに付き合わされたり、カービィに食べられたり・・・。

とてもたのしかったです、まる。

外が暗くなり始めると孝太たち三人は支度をして家に帰った。

明日は出かけて勉強ができないので寝る前に少しだけ勉強しといた。

・・・これが習慣になってしまったらどうするんだリリィめ。

感謝の言葉しか出てこないぞ。






翌日。恨めしいほどの晴天。出かけるからってここまで晴れなくていいのに、と思ってしまうほどの晴天。


「それで大地、今日はどこ行くんだ?」


白いワンピースにお馴染みのだぼだぼ黄色パーカーを羽織ったカルミアが楽しそうに聞いてくる。

・・・この笑顔が見れるならこんな天気でもいいな、と思えてしまう。


「まだ考え中。カルミアって俺が学校に行ってる間、ずっと家にいるのか?」

「う~ん、たしかに家にいることも多いけ結構商店街にも行くぞ。欲しいものもあるし。あとごくたまにデパートにも行く!」

「へ~」


なんか意外だな。俺が帰ってくるといつも玄関まで迎えに来てくれるからてっきり引きこもってるんだとばかり。

でもそうなのか、割と外に出かけてるんだな。ならできればいつもは行かないところがいいんだけど・・・。


「・・・よしっ。カルミア、電車乗るぞ!」

「え?どこ行くんだ?」

「まぁまぁ。付いてくれば分かるから」


それだけ言うと俺はさっさと駅の方へと歩いて行く。






電車に揺られながら俺たちは5駅分離れたところで降り、近くのバス停に向かう。


「なあ大地~、どこ行くんだ~?」

「もうちょっとでわかるさ」

「さっきからそればっかだなぁ・・・」


文句を垂れながらも着いてくるカルミア。

あと15分くらいバスに乗ってれば着くからもう少しの辛抱だ。




「・・・お、見えてきたぞ」

「ホントか!?」


カルミアはバスの窓に顔を近づけて外を見る。

しかし外には建物がたくさん並んでおり、どれが目的地なのかわからないようだった。

・・・そろそろ教えてもいいかな。

そう思い、口を開こうとしたとき、バスに無機質なアナウンスの声が響いた。


『次は○○水族館前、○○水族館前でございます。お降りの際はお忘れ物のないよう―――』

「・・・もしかして水族館か!?」


アナウンスが終わるとカルミアは目を輝かせながら聞いてきた。

俺は頷き、再び窓の外に目をやる。




「おおおおお!」


バスを降り、水族館入口まで歩く。

近くまで来るとなかなか大きい。他の水族館に行ったことないから比較できないけど。


「カルミア、いきなり来たんだがお金は持ってるのか?」

「うん。一応少しは持ってきておいたぞ」

「そうか。なら入るか」


二人並んで切符を買いに行く。

休日ということもあって思っていたより人が多い。だがすぐに俺たちの順番は回ってきた。


「大人2枚!」


カルミアが伝えると店員はあたりをきょろきょろと見回す。


「え~っと、あなたたち二人?」

「うん!」

「あのね、ここには子供料金というのがあってね。子供は大人より安く入れるの」

「大地は高校生だぞ?高校生って大人料金じゃないのか?」

「あ、うん。隣の人は大人料金であってるんだけど、あなたは子供料金でいいのよ?」


カルミアもまた不思議そうな顔できょろきょろと見回し、自分を指さしながらようやく気が付く。


「もしかして私のことか!?」

「うん」

「失敬な!これでも私は大地より年上なんだぞ!」

「背伸びしたい年頃なのは分かるけどお金まで無理して払わなくていいのよ?」

「だから私は大人なんだー!!」


二人の面白い掛け合いをこのまま暫く見ていてもよかったのだが、俺たちの後ろにも人が並んでいるので俺がカルミアを説得して子供一人と大人一人の切符を買った。


入場する前は「私は大人なんだからな!」といまだに言い張ってたカルミアも中に入って、神秘的な空気に当てられたのか感嘆の声を漏らして静かになった。

一番近くの水槽に寄って魚を見る。名前は分からないけど色鮮やかで綺麗な魚だった。

カルミアはひとつひとつの水槽に寄って、じっと魚を見つめてはうっとりしたような顔をする。俺も静かにはしゃぐカルミアの後について行きながらこれだけで来てよかったなと考えてしまう。


サメやエイ、ウミガメなど、いくつか見て回ってから水族館の外に出た。貰ったパンフレットを見ると、外ではペンギン、アザラシ、イルカショーなどがあるようだった。


「なあ大地!どれから見に行く?」

「そうだなぁ・・・」


どれも一度は見て回りたい定番だから迷うな。とりあえずイルカショーだけは時間が決まっているのでそれを確認して見逃さないように気を付けて、後は適当でいいだろう。


「・・・よし、じゃあまずは―――」


ペンギン見に行くか、と言いかけたところでくぅ~という音がカルミアから聞こえてきた。

だがカルミアがそんな奇声を発したわけではなく、お腹が鳴ったようだった。

・・・ふと、カルミアと出会った時もこんなことがあったな~と思い出す。

俺は笑いながら「飯にするか」と提案する。


「そ、そうだな。私はまだ大丈夫だけどそろそろお昼だし大地はお腹が空いてるだろうから昼飯にしても―――」


くぅ~。

またしてもカルミアのお腹が鳴る。

カルミアは少し恥ずかしそうにしながら「よ、よし!早く食べに行こう!時間がもったいない!」と言ってさっさと歩き出してしまう。

俺は小さく笑いを堪えながらカルミアの後をついて行った。






お腹を満たした後は、さっき考えたようにペンギンから見に行った。

ぺたぺたと体を揺らしながら歩いたり、優雅に水中を泳ぐ様に俺もカルミアも夢中になって見ていた。さらにその後、アザラシのボールを使った芸を見たりラッコの貝を叩く姿を見て過ごした。


「大地、イルカショーは何時からなんだ?」

「え~と・・・お、そろそろ始まる時間だな。見に行くか?」

「うんっ!」


元気に返事をしたカルミアはテンション高いままスキップをしていった。・・・・・イルカショーと反対側に向かって。


「っておいおい。そっちは反対だぞ」


慌てて俺はカルミアの手を掴んで引き止めた。


「そうなのか?失敗失敗。じゃあ改めてレッツゴー!」








「大地!イルカすごかったな!ぴょーんて飛んでたぞ!あとサメもすごかった!あんな間近で見たのは初めてだ!それからあのちっちゃいの・・・え~と・・・」


「もしかしてクリオネか?」


「そう、それ!可愛かったな~」


水族館を出てもカルミアは興奮冷めやまぬ状態でどれだけ楽しかったのかを早口でまくし立てていた。こんなにテンションが高いカルミアは初めて見た。クリオネが食事をするときは激変することは黙っておいてやろう。


家まで歩きながらカルミアの話を聞いているとポケットで携帯が震えた。カルミアに一言断って取り出して見てみると母さんからのメールだった。


『ちょっと商店街に寄って夕飯の買い物に行ってきて。買うものは一緒にいるカルミアちゃんにチンジャオロースって言えば伝わるから。それじゃあ今日の夕飯何かな~とか想像しながら買ってきてね♪』


いや、想像するまでもなくチンジャオロースだろうよ・・・。これで違ったら三回回ってワンとでも言ってやる。(心の中で)


「どうしたんだ?誰かからメールか?」

「母さんから夕飯の買い物を任されてな。カルミアにチンジャオロースって言えば伝わるらしいんだが・・・」

「ああ、シチューの食材か。わかった!任せろ!」


うわ~、本当にチンジャオロースじゃなかったよ・・・。というかどっちにしろ夕飯分かっちまった。


「じゃあ大地、商店街でいいんだよな?」

「おう」


俺に確認を取るとカルミアは再び上機嫌で歩き出した。

その背中に俺は心の中で三回回ってワンと唱えながら着いて行った。






「・・・これで終わりかな」


頼まれた食材を全部買い終えた。これで後は帰るだけなのだが・・・。


「くっ!なかなか手強いな・・・。でも私は負けないぞ!やぁあああああ!」


ものすごい人ごみにカルミアが突っ込んでいっていた。


スーパーを後にしたところで運がいいのか悪いのか中からセールの開始の声が聞こえた。それを聞いたカルミアが俺が止める間もなく再び中に戻ってしまったのだ。

しょうがないので俺は両手に荷物を下げたまま外で待っていることにした。


「・・・ん?」


そして視線を巡らせたところで気づく。

路地裏みたいな人目のつかないところに3人に囲まれながら連れていかれる中学生くらいの子がいた。

前にカルミアを助けたと思ったら俺の勘違いでした、なんて件があったのでまた勘違いかもしれないが一応注意するにこしたことはない。




ということでそいつらの後をこっそり付けてみました。

見つからないようにしながら会話を盗み聞く。


「おら、さっさと金だせや!」

「ぶつかっといてすみませんでしたで済むわけないよなぁ」

「す、すみませんでした・・・!」

「だから謝ってねえで金だせっつってんだよ!」


どうやら今回は勘違いとかじゃなかったらしいな。付いてきて正解だった。

さて、ここからどうしよう。自慢じゃないが普段この悪い目つきで何かとからまれる俺にはこいつらを締め上げるのは簡単だが、なんせ今は両手が買い物袋で塞がっている。こんな状態じゃまともに相手にできない。

・・・よし。俺はひとつの方法を取ることを決めるとそいつらの前に姿を見せた。


「あ?なんだてめぇ?」


中学生を追い込んでいる3人は学ランで俺と同様に悪い目つきでいかにも不良って感じの奴らだった。その中学生と思われる少年はびくびくと震えながらこっちを見ていた。


「え~と、あ~、こんなところにいたのか海人。さっさと帰ろうぜ」


少しだけ詰まりながらも考えていた言葉はきちんと出てきた。これで後はこの子が乗ってくれれば俺がなるべく穏便に解決することが


「えっと・・・誰?」

「ええええぇぇぇ!」


なんと乗ってくれなかった。それほどまでにテンパっていたのか、それともかなり純粋な子なのか、はたまたただのバカか。

どっちにしろ俺の考えた作戦は変更だ。


「てめぇこいつの友達か?覚えてられてないみたいだがな(笑)」


うぜぇ。

まぁいい。こいつらが俺に注目してくれれば俺もやりやすい。


「ま、まぁそれはおいといて、だ。お前らのやってることは犯罪だぞ?わかってんのか?」

「はぁ?俺らはぶつかられた側の被害者だぞ。けがもしたんだ。お金を請求して何が悪い?」

「えっ!けがしたんですか!?大丈夫ですか!?病院にいかなくちゃ!あ、でも僕お金持ってないやどうしよう!」


こんな嘘を信じるなんてやっぱり純粋な子なのかな?でもとりあえず今は黙ってて。

そういう意味を込めて人差し指を立てるとこくこくと頷いてくれる。そして不良どもと会話しながら中学生に近づいていく。

・・・なぜ不思議そうな顔をする?純粋だからか?しょうがないのか?


「なんですか?」


小声で中学生が聞いてくる。


「後は俺が引き受けるからお前は早く逃げな」

「え、でもこの人たちと今話してるのは僕ですよ?順番は守らなきゃダメですよ」


・・・まさかこの子は今の状況がわかってないのか?バカなのか?


「まぁいい。懇切丁寧に説明してる時間はないからとりあえず帰るんだ。あとこのことを親にでも聞いて対応でも学んどけ。いいな?」

「おい、何こそこそと話してんだよ」


不良どもが手を上げる前にさっさと逃がすように強めに背中を叩いて逃がす。


「待てやおらぁ!」


当然追いかけようとするが、間に俺が割り込んで阻止する。思ったより中学生が純粋、悪く言えばバカだったおかげで時間がかかってしまったがこれで俺の狙い通りになった。

後は話を付けて帰ってもらうか、もしこいつらが手を出して来たら適当に相手をして逃げるだけだ。


「よしお前ら。ここからは俺が話を」

「うっせー、邪魔だ!」

「うぉ、っと」


まさかいきなり手を出すとは。予想外でした。


それからも殴りかかってくる3人をいなしながら逃げ続ける。が、どんどん壁際の狭いところまで追いやられて避けるのが難しくなってきた。


「これで終わり、ぃだっ!」


逃げ場所がなくなった俺はつい避けるのじゃなくて先に手を出すことで回避してしまった。

正確には両手は塞がっているので足だが。その行為が余計相手の怒りを買い、殴る手が早くなってくる。そうすると自然と俺も手がでてしまうわけで・・・。


いよいよどうしようかなと思い始めた頃に声が響いた。


「お巡りさんこっちです!早く来てください!」

「なっ!」

「ちっ!」

「覚えてろよ!」


その声にいち早く反応した不良たちが捨て台詞を吐いて去って行った。

・・・そうだよ、最初からこうしとけば良かったんじゃないか?

とりあえず溜息を吐いて声のした方を見る。


「カルミア・・・」


そこには静かに佇むカルミアが立っていた。

ここはすぐさま助けてもらったお礼を言うところなのだろうが、カルミアの放つ雰囲気がそれを許してくれなかった。


「・・・大地。今のは何だ?」

「今の、ってさっき中学生くらいの子があの3人に」

「大地が攻撃してたことだ」


俺の声に被せて言ってくる。


「私この前人を傷つけることは嫌だって言わなかったっけ?」


確かにカルミアは昔人を傷つけた、だからそんな行為はもう嫌だという風なことを聞いたことがある。

俺が何も答えずに俯いているとカルミアは申し訳なさそうな声を出す。


「大地が悪いわけじゃないことも分かってる。私が理不尽なことで怒ってるのも。大地は良いやつだからな。無暗に手を出すような奴じゃない。・・・けど、ごめん」


そう言うとカルミアは背を向けて早々と消えて行ってしまう。

結局俺は何も言えずにただその場で立ち尽くしていた。


これからテストがあったり学生会行事で忙しくなったりしますけど頑張ります!


読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ