アンクール
「やだな、昨晩呼んでもらった」
「間違ってもデリヘル紛いを呼んだ覚えはないぞ」
「匿ってください」
「脈絡が無さ過ぎる」
「悪いやつに追われてるんです」
「てかその前に服着て、なんで裸なの?」
「服持ってないんですよ」
「じゃあここまでどうやって来たのさ」
「あの着ぐるみを着て来ました」
「通りで見覚えがないと思ったよ」
「さあ、匿ってください」
「てか、なんで俺?なんでここに来たの?」
「手頃なアパートを見つけて、開いてたのがここだったので」
「軽いノリで来るみたいなのやめろ」
「か弱い少女が悪いやつに追われてるんですよ?」
「分かったから、まず服着て」
「服持ってないですって、また着ぐるみ着るんですか」
「この部屋をカオスにしたくない。そこに畳んであるの適当に着てよ」
「なるほど、男装プレイですか」
「プレイから離れろ」
「これでいいですか」
「うん、とりあえずは。で、誰に追われてるって」
「だから、悪い人」
「もっと具体的に」
「ヤクザです」
「全然面白くない」
「ほんとですってば」
「じゃあなんで追われてるの」
「それが私にもよく分からなくて」
「なにそれ、わけも分からず追われるなんてないだろ。身に覚えないのか」
「強いて言うなら、私がそのヤクザと抗争してる組の娘ということくらいしか」
「ビンゴだよそれ」
「やっぱり」
「いやふざけんなよ、巻き込まれたら俺まで殺されるじゃんか」
「大丈夫、すぐには見つかりませんよ」
「時間の問題じゃあないんだよ」
「困ってる少女の話を聞かないなんて、良心痛みませんか」
「聞いた上で嫌だと言ってんだけど」
「少しの間でいいんです、迷惑はかけませんから」
「ここに来た時点で迷惑してんの」
「事の発端は末端の組員が相手にカチコミに行きまして」
「聞いてもないのに話し出しちゃったよ」
「その組員が行方を眩ましてしまって、ならケジメとして娘である私を殺すと相手の組長が言い出して」
「なんとも突飛な話だな」
「ですから、事が収まるまでここに」
「収まるまでって…そいつが見つかるまでってこと?」
「そうなんですかね?」
「いや、聞かれても」
「よろしくお願いします」
「嫌だよ」
「ならここで死にます」
「ふざけろ。って、え、ちょ、なにその拳銃」
「逃げてきた途中、すれ違ったお巡りさんから拝借しました」
「そんな気前の良いお巡りさんはお巡りさんじゃないから。盗ってきたんだろう」
「嫌と言うなら、これで自殺します」
「なんでもいいけど、出てけって」
「私の話の何を聞いてたんですか」
「どうせそんな度胸も無いんだろう」
「ありますよ。ただこれ、引き金硬いんですよ」
「じゃあ壊れてんだろ」
「日本の物はヤグいんですね」
「ほらほら、気が済んだら出てってって」
「出てってもいいんですけどね」
「え、何その物分かりの早さ」
「今出てったら見つかると思うんですよ。多分まだこの辺探しているでしょうし」
「知ったことか」
「もしこの部屋から出たところが見つかったら、匿ってたと思われてあなたも危ないと思うんですよ」
「少しの間なら居てもいいよ」
「ありがとうございます」
「普段は何されてるんですか」
「普段からこんな感じ」
「ニートなんですか」
「自宅を見張ってんの」
「ニートなんですね」
「うるせ」
「それはそうと、お腹空きました」
「自分の身の程分かってる?」
「そうは言っても、人間、食べなきゃ死んでしまうわけで。昨日だって、何も食べてないじゃないですか」
「慣れてるから」
「私は死んでしまいます」
「死ねばいいじゃん」
「そしたらあなた、誘拐犯になりますね」
「冷蔵庫になにかあんだろ」
「……何もないですよ?」
「マジで?」
「マジで」
「飲みかけのなんかあんだろ」
「すっからかんですね」
「じゃあ無いなぁ」
「喉が渇きました、お金ください」
「うるさいなぁ……そこに財布があったろ」
「不用心ですね」
「なにが」
「財布を持って逃げちゃうかもしれませんよ、私」
「大した金額入ってないし」
「……小銭ばっか」
「飲み物は買える」
「◯◯さん」
「なんだよ」
「探し物が見つかりました」
「そりゃ良かった。」
コメディ色が強くなってしまいました。