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青潭の星 ~泡沫夢幻に輝く~

セクラ先制追走記

作者: 暮音孤

何よりも先に。当作品は完結していません。いつ途切れるかドキドキしながら読める方 、推奨。


やたらと展開が早い癖して、進みが牛歩の如く……

描写を重要視していなかった頃に書いた作品です。


閑話休題。

筆者は高校のある教諭の言葉を忘ることができません。

「美人もブスも、数値化したものを絶対値にすればイコールなんだよ」

それがこの物語の主人公セクラの生い立ちです。

【 一 】


 魔王が街の平和を脅かし、勇者が魔王退治に執心するのには、実は理由があった。

 実は、二人はお互いに遥か高みにいる存在にそうするように命じられていたのだ。


 そう。あれはある世界で向かえたクライマックスでのこと――


 魔王は眠れる美女を檻に閉じ込め、乗り込んで来た勇者と対峙していた。

「さあ残すはお前一人だ、魔王!」

「ほう、我が配下の者たちを一人で。勇者の称号は伊達ではないということか」

 感心したように魔王は言う。

「貴様を倒して世界を救うんだ。覚悟しろ!」

「息が切れているようだが? その疲れた体で我を倒そうというのか、勇者よ」

「ふん。回復アイテムは山とある。このハイ――」

「ブレス・ファイアー!」

 勇者が手にしたハイ〇〇な回復アイテムは魔王の息によって、瞬く間に灰と化してしまった。

「……」

「なるほど。灰になったな、勇者よ!」

 魔王は勇者の手のひらでくすぶる回復アイテムであった残骸を指差しつつ、せせら笑う。

「ま、魔王! 貴様も世界に君臨しようと企む者なら――」

「だったら何だと言うのだ? 我に紳士な態度を望むとでも言うのか、勇者よ?」

「いや、強者と万全な状態で闘いたいと思うようになれ!」

「断る。全ては結果だ! 我が支配する世界の歴史に刻んでやろうか、勇者は万全の状態で我に挑んだが敗北したと!」

「断る! そんな惨めな歴史は死んでもごめんだ」

「ならば、その疲れた体で我に挑むがいい!」

「望むところだ!」


 そうして始まったラストバトルは思わぬ形で終結する。


 闘いの剣戟が絶える間なく響き、魔王が笑い、勇者がうめく諸々の音が混じり合い、最高潮に達した時、彼女が目を覚ましたのだ。

「全く、うるさくて満足に眠れやしない」

彼女の名前はセクラ=リコート。美女であり、魔女だ。


「目覚めたのか、セクラよ!」

「坊やの分際で、私を呼び捨てかい?」

「は……い?」

 魔王の目が点になる。

「それで、私の隷僕が勇者か。笑いが止まらないな!」

「隷僕……」

 勇者は大きく目を見開いた。

 何よりも、鋼鉄製の檻を物ともせずに出てきた彼女に二人は息を飲んだ。

「さぁ~て、私の大事な睡眠を妨害したお前らをどうしてくれようか?」

「待たんか、セクラ嬢!」

 魔王が叫ぶ。その後に続いて勇者は訴えた。

「何ヶ月眠れば満足するんだ、あなたは!」

「誰に口聞いとんじゃ~ぼんくらぁ?」

 だが、彼女は寝起きで機嫌が悪かった。二人の側まで引きずるように歩いた彼女は、次いで二人の首に腕を回し、ダブル・コブラツイストをかける始末。

「「い、いつまでも、お、嬢様の――言い、なり、に……な、ると、思う……な(死)」」

「ふぅ~ん。なるほどね。二人の思惑は同じわけだ」

 彼女は笑う。

「坊やは世界を支配せんとする魔王を目指し、隷僕は世界を救った英雄にならんと勇者の道を進んだと」

「「そ、それは!?」」

「面白い。ならば私の頼みを一つ聞いてくれたなら、その企みに乗ってやろう」

「つまり、口止め料か?」

 魔王は聞く。

「喉から手が出るほど、欲しいだろう」

「本当に、それで黙ってくれるんですね?」

 勇者も確認する。

「シャードゥルフ家の言葉が信じられないと?」

「「滅相もありません(泣)」」

「ならば頼みだ。私専用のベッドタウンが欲しい」

 二人は耳を疑った。ベッドタウンという言葉を知らなかったのだ。

「なに、夢の世界に登場した平穏な街のことよ」

「はあ……」

 魔王はいまいちピンと来ていない様子だったが、要約されると、勇者はすぐさま背筋を伸ばして答えた。

「つまり、お嬢様は静かな寝場所を欲しているのです」

「名前は如何しましょう?」

「じゃあ――」


 そんなこんなで、一つの街が魔王と勇者による必死の試行錯誤で、理不尽な世界から切り離された。


 街の名前はチマノラクセ。



【 二 】


 チマノラクセに女性教師が赴任してきたのは――、街の名前が変更されて直ぐのことだった。


「あ~、暇だわ」

 セクラは周りの目も気にせずに頬杖をつき、黙々と自習に励む生徒のことも気にかけずに教室の窓際から見える街を一望していた。

「先生。セクラ先生」

 生徒の一人が呼んでも、何故自分が教師をしているのか口にする始末で、

「先生! 先生ってば!」

 なおもセクラの指示を請うために生徒は声を張り上げていた。


 それはさておき。


 チマノラクセを勇者が駆けていた。もちろん足腰を鍛えるのではない。しかし、必死に走っていた。

「引ったくりよ! 誰か捕まえて!」

 街のおばさんが叫ぶ。

 そう、引ったくりだ。勇者はだから懸命だったのだ。偉いぞ、勇者!

「俺は見たんすよ、あの値札の付いた大剣を背負った野郎が奪ったのを!」

 うん? だから勇者が追っているのでは……。

「誰か自警団を! またヤツの仕業だ!」

「まったく。魔王成敗に必要な費用をこんな形で集めるなんて!」

 おい。ま、まさかな。だって勇者だぞ?

「おーい。呼んできたぜ、自警団」

「勇者にも困ったものだ。何で魔王たる私が団長をせねばならないのだ」

 あ……、そうなんだ。

 そうなのだ。勇者が犯人で、魔王が追おうとしているのだ。


 そして、魔王の猛追が始まった。


「あと幾らでローンの返済が終わる、勇者ウェリバートよ!」

 少し遅れて、前を走る勇者から返答がある。

「剣はこれで完済だ!」

「ならば、その大剣で私と闘え! 路銀は必要あるまい」

 魔王は間髪入れずに返す。しかし、勇者の返答はなかなか来ない。

「だが、防具の分が!」

 やっと届いたと思っても、そんな情けない内容だ。魔王は毎度切れていた。

「これまでは自分のものになっていないからという理由で待ってやったのだぞ!」

 そして、

「返事は不要! 勝負だ、勇者よ!」と魔王。

 そこに勇者の返答。

「だから防具が自分のものではないんだ!」

「何の話だ」とは切れた魔王。

「さあ、かかってくるがいい!」

 魔王が二言済むと、勇者の声が聞こえてくる。

「借金地獄の話だ。朦朧としたか、魔王ダラルロール!」

「ふはははは! 血の池地獄の間違いであろう」

「これから貴様を血祭りに上げてくれるわ」

 分かると思うが勇者の返答。

「それでは去らばだ!」

 魔王、魔王。

「……」「いや! 闘えよ! 勇者?」

 そして、今日も魔王は勇者にまかれるのであった。


 それはさておき。


「あ~、暇だわ」

 セクラは授業時間いっぱいをそれで過ごし、下校時間になるや生徒を放って帰っていった。


「先生……さようなら」

 ひたすら耳元でセクラを呼んだ生徒はこの日、転校届けを提出したそうな。



【 三 】


 チマノラクセに赴任した女性教師がようやく学校に慣れた頃だった――それが起こったのは。


「あ~、暇だわ」

 セクラは始業時間になったのを枕元の時計で確認しながら、さも退屈そうにぼやいた。

「先生。セクラ先生」

 バンバンッと家の扉が叩かれる音と共に、訪問者はセクラの名を呼ぶ。しかし彼女は再度ぼやくだけだった。

「あ~、暇だわ」

「先生! 居ることは分かっているんですよ!」

 なおもセクラを説得しようとするその人は奥の手に出た。

「これ以上、授業のボイコットを続けるというのなら校長の私にも考えがある」

「あ~、如何だわ」

「クビだ!」


 それはさておき。


 チマノラクセを勇者が駆けていた。もちろん足腰を鍛えるのではない。そして、引ったくりでもない。

「追剥だ! 誰か捕まえてくれ!」

 街のおじさんが叫ぶ。

 そう、今度は追剥だ。勇者はだから懸命だったのだ。困った奴だよ、勇者は。

「俺は見たんすよ、背中にしょった大剣で襲うところを!」

 ……もういいや。

「誰か自警団を! いや、団長に報告だ!」

「まったく。魔王さんを成敗するためとか御託並べやがって、てめえの方が魔王っぽいって!」

 あはははは。

「おーい。呼んできたぜ、自警団」と街の住民。

「街の方々よ。私達の組織は……」とは魔王の言葉。

 ん?

「ああ、魔王軍でしたな」

 笑う街の住民。

 はい?

「勇者にも困ったものだ。何で魔王たる私が魔王軍を引き連れて、勇者を追わねばならんのだ」

 あ……、そうなんだ。

 魔王は「打倒! 勇者」というスローガンの元、勇者を追っていたのだ。


 そして、魔王の猛追が始まった。


「街の平和を脅かすのは私達の役目だ、勇者ウェリバートよ!」

 少し遅れて、前を走る勇者から返答がある。

「そんな事は勇者の俺がさせん! もっと強くなった時が貴様ら魔王軍の最期よ!」

「つまり経験値集めに街の方々を傷つけたのか! その大剣で!」

 魔王は間髪入れずに返す。しかし、勇者の返答はなかなか来ない。

「魔王に肩入れするヤツ等など、敵だ!」

 やっと届いたと思っても、そんな情け容赦のない内容だ。魔王は切れた。

「これまでは致し方ない理由と情状酌量の余地ありと見逃して来たが――」

 そして、

「今回ばかりは許さんぞ、勇者!」と魔王。

 そこに勇者の返答。

「待つんだ! これにも理由が」

「何の話だ」とは切れた魔王。

「さあ、墓に刻む言葉は決まったか?」

 魔王が二言済むと、勇者の声が聞こえてくる。

「ローン返済地獄の話だ。俺の話をまずは聞け、魔王ダラルロール!」

「ふはははは! そんな内容でいいのか、情けないな!」

「では、これより貴様を墓石の下に閉じ込めてくれよう!」

分かると思うが勇者の返答。

「断る。アデュー!」

 魔王、魔王。

「……」「いや! 闘えよ! 勇者?」

 そして、今日も魔王は勇者にまかれるのであった。


 それはさておき。


「あ~、暇だわ」

 セクラは授業時間いっぱいをそれで過ごし、下校時間になったことを確認するや校長を無視して眠りに着いてしまった。


「先生……私は本気ですよ」

 ひたすら扉越しでセクラを呼んだ校長はこの日、セクラの解雇を決定したそうな。


(続く)



※※設定裏話※※

書きたかったセクラは1話目から既に居ませんでした(笑)。

目指したはずのセクラは、……小さな子ども達を優しく、時に厳しい慈愛に満ちたセクラ先生であり、

教員机の上に乗る写真たてには、

世界支配をもくろむ魔王と世界平和を信じる勇者の双方の首を絞めて笑顔で写真にうつる彼女がおり、

可愛い生徒が彼女に写真について訊き、当時を懐かしむように語る……そんなストーリーだったのです(泣)!

※※※※※※※※



【 四 】


 チマノラクセに赴任した女性教師が早くも学校を辞めさせられた翌日だった――それが起こったのは。


「あ~、暇だわ」

 セクラは生徒の登校時間になったのを横目に確認しながら、さも退屈そうにぼやいた。

「先生! セクラ先生」

 パシ、パシッとセクラの二の腕が叩かれながら、そんな声も上がる。しかし彼女は再度ぼやくだけだった。

「あ~、暇だわ」

「先生! あなたはウチの先生ですから!」

 なおもセクラを先生よばわりするその人は彼女の腕の中にいた。

「首ってツラいわよね」

「す、すみませんでした!」

「じゃあ、赴任さんの説得お願いしますね」


 それはさておき。


 チマノラクセを勇者が駆けていた。もちろん引ったくりをしたからでも、犯罪行為をしたからでもない。

「勇者を! 誰か見つけてくれ!」

 街の魔王が叫ぶ。

 今日は隠れ鬼ごっこらしい。勇者は昨日からずっと逃げていたのだった。

 困った奴だよ、勇者は。

「俺は昨日見たんすよ、マントから霞がふきだして消えるのを!」

 あー、霞のマントかい。

「そいつは伝説にも登場する防具じゃないか! すぐ魔王様に報告だ!」

「必要ない。まったく、いつの間に霞なんぞを」

 そこには既に魔王がいた。

「おーい。証言を取ってきたぞ! あ、いや取って参りました、魔王様」とは魔王軍の一。

「よい。それで?」

「あ、はい。何でも――、


『これは霞……。親父、この品は幾らだ!』

『ん? 埃っぽいマントですし、現金でならお売りしますよ、勇者さん?』

『う……。と、とにかく幾らだ!』

『そうですな、このくらいかと』

 防具屋の親父は算盤を弾いて見せた。ゼロの数は少ない。

『安いな』

『切れた、汚い、買い手無しですから』

『3Kか。それでも薬草よりも安いとは、信じられん』

『ならばもう少し高くしましょうか?』

『いや~、まさか。即買いだ、親父!』


 だそうです。そして……」

「それには及ばん。どうせ先にマントをはおって払わなかったのだろう」

 手下はその通りとばかりに頷いた。

「勇者にも困ったものだ。どうして魔王たる私が街の方々から慕われておるのか」

 そう、魔王は間違いなく、街の平和を脅かすために、街に魔王軍を引き入れたのだった。


 ゆえに魔王は機嫌が悪かった。


「殺してくれるわ、勇者ウェリバートよ!」

「そんな事を言われて、誰が現れると」

「いるではないか!」

「ふん。このマントがある限り、無駄なことよ」

 勇者は間髪入れずに返す。だが、魔王の返答も早かった。

「まあ、いるならば良い! 訊くが、貴様どれだけ装備している?」

 すると、勇者は指を曲げながら読み上げたのだった。

「ほほう。霞のマントだけでなく、ほか諸々の武具防具もか」

「しかも全て店で手にいれた代物さ」と勇者。

 そこに魔王の反応。

「それで?」

「ビビろう?」とは自信満々な勇者。

「断る! 私の幾度の誘いを一方的に断った勇者など恐るるに足らず」

 続けて魔王は言う。

「まあ、勇者が情けないなら、それも一興! 街の混乱を横目に隅で震えているがいい!」

 そして、ついに魔王は魔王と言うにふさわしい行動を始めるのであった。


 それはさておき。


「あ~、暇だわ」

 セクラは彼女の代わりとして赴任してきたハナコと暇を持て余していた。朝っぱら、セクラの腕の中にいた校長の姿はない。

「でも、本当にごめんなさい。校長の勘違いがハナコさんにも迷惑をかけてしまって」

「そんな――。あたしこそ、セクラさんの職を横から奪うような真似を」

 そして和む二人の会話に、ついに校長の安否についてのぼることはなかった。



【 五 】


 チマノラクセを震撼させたのは、女性教師二人が買い物に出かけた日のことだった。


「デブって、生きてる価値ないのよね」

セクラは校長を絞めた手口で、他人の首を捕まえていた。

「でも、セクラさん、本当に凄いですよ!」と一方ではハナコが手を叩いて感心している。

「ん?」

「だって、首を掴んで投げたんですよ。普通なら首の骨がいかれて、殺してしまいます」

「ふふふ。これでも昔から得意だったのよ、川岸まで安全確実に着地させることには」

「練習したのでしょう?」

 暗に、どれだけの犠牲を払ったのかを訊かれていることに気が付いていて、セクラは答えた。

「デブって、生きてる価値ないと思うのよ」

「あたしもそう思いますわ」

 パシ、パシッとセクラの二の腕が叩かれる中でも、彼女は再度ぼやくだけだった。

「コツは投射姿勢に入る時に捻った分だけ、手を離す時に逆に捻ること。そうすることで捻りを無効化して――」

 実際は初めの捻りで意識は飛んでしまうが……。

「凄いです! あたし、今度やってみます」

 そして、投げた時には……。

「気を付けてね。実験はデブだけよ」

「例えば、アレなんかどうですか?」

 ハナコが指差す先には、丸っこい生物がいた。

「待って!」

 今にも走ってしまいそうだったハナコを制止して、セクラは言う。

「私も昔はそうだったけど、デブと見て実験台にしようと思ってはだめよ」

 まずは本当にデブか確認するように、と続ける。

「今は……。そうね、このおデブさんをぶつけてみましょう」

 そう言うと、腕に挟んでいたデブの首を離し、

「い、痛くしないで下さい」とはデブ。

 改めて掴み直して投射した。

「デブに生きてる価値な~~し!」

「そんな~!」

 セクラに投げられたデブは綺麗な放物線を描いた。そして、謎の生物に一撃を加えた。

 ムクリと生物は体を起こした。

「あれは……」

 ハナコはその姿に絶句。セクラが繋げた。

「ブーンルバルクス=カーラディナ。このチマノラクセを形式的でも治める王族の嫡子よ」

「何をしているのでしょう?」

「どうせ、冒険に出るための路銀集めじゃない?」

 ハナコの疑問に、悩む素振りすら見せずに即答するセクラ。ハナコは恐る恐る尋ねた。

「お知り合いなんですか、彼と?」


 それはさておき。


 絶体絶命の事態に、勇者は魔王の言葉通り隅で震えていた。

 もちろん武者奮いからではない。

「魔王を! 誰か倒してくれ!」

 頭を抱え、街の勇者が叫ぶ。まさに魔王の破壊行為になす術なく、ずっと誰かに助けを求めていたのだ。

 いや、お前がやれよ、勇者。

「くそ! 勇者が情けなければ、魔王も街に手を出せないに違いないと踏んで、勇者の犯罪を見過ごしていたのに」

「これでは話しが違うよ!」

 誰との策略だよ、それは。

 とにもかくにも街の人々、特に店の親父達は口々に愚痴った。

「魔王も魔王だ。あんなに我々に優しかったのに!」

「再建が追い付いてるからいいものを、手当たり次第に家を壊すなんて。なあ?」

そして、話しを振った先には話題の中心が立っていた。

「空き家から潰しておるわ。再建だって間に合っておるのだろう。ならばグチグチ言うな」

「「「「魔王さん!!?」」」

「うるさい。しかし本当に何をしているのだ、勇者は」

 答え。魔王の言葉に従っていた。

「もう装備は整ったはずだが」

 だから、隅で震えて……。

「ま、魔王さん! もしかしたら勇者は仲間を捜しているのかも知れません!」

 街の人々は勇者の代わりに答えた。

「なるほど。そして、魔王たる私にその仲間を殺られて、真の力を開放させる算段か!」

 魔王は勝手に納得して、勇者の仲間になりそうな人物を街に求めて魔王軍に命令を下した。

「勇者の仲間を私の元に連れて参れ! 勇者の目の前で手に掛けてくれよう」

 魔王はさも愉快そうに笑うと、まもなく言葉を失った。

 高笑いをする魔王を漢が見ていたのだ。


 それはさておき。


「冒険好きなわがままお姫様よ!」

「返答になってないけど、お姫様? 王子ではなくて?」

 如何にも嫌っている、そんな気配を漂わせるセクラのもの言いだったが、ハナコは気になったところを訊いた。

「じゃあ、玉の輿を狙って話しかけてみたら?」

「?」とハナコ。

 すると、件の相手が振り返ってきた。

「ほう。セクラの仕業であったか」

「はい……?」

 カーラディナは素敵なハスキーボイスだった。ゆえにハナコは固まった。

「カーラ。今度は何?」とセクラ。

 そこに髪がやけに長いカーラディナの反応。

「痛かったことはセクラの隣にいる、カーラの美しさには劣るけどそこそこには美貌と言える女性に免じて許そう」

「だから、何?」とはうんざり気味のセクラ。

「魔王さんという人外の生物に誘われたのだ。カーラに勇者の仲間を探せとな!」

 セクラは言う。

「街を形式的にでも治める王族が! 街の平和を脅かす!! それもダラルロールの言葉に!!! 従ってんじゃな~~~い!!!!」

「何っ!? 人外生物と知り合いなのか、セクラ」

「あいつは魔王の三下だって」

「何だと! くそ、三下の分際でこのカーラを懐入か!?」

 足元まで伸びる髪を振り乱して怒りを隠さないカーラディナに、

「あ、あのぅ……」とようやくハナコの復活。

「面倒よ! ハナコと私が勇者の仲間よ! 三下のところに案内なさい、カーラ!」

「なに? なに、なに?」

「三下に対する勇者なんてきっと不甲斐ない奴に違いないわ!」

「だから何なの?」

「私達三人で三下を殺っちゃうのよ」

 そして、ついにセクラはセクラと言うにふさわしい行動を始めるのであった。

「カーラも入っているのか、セクラ?」

「当然!」

「あ、あたしの意志は?」

「……」

「そ、そんな~」


(続く?)



※※設定裏話※※

この物語の特徴は何と言っても、具体的な容姿描写がほとんど見受けられないこと(笑)。

しかし、それが霞むほどの事態が――!?

※※※※※※※※


「本気で殺っていいの、セクラさん?」

「いいわよ。猫被ってるんでしょ、ハナコは」

「うふふふ。な・い・しょ」(続)



【 間 】


 セクラ率いる勇者の仲間によって、魔王ダラルロールの役目は潰えた。後に、「ハカセ召喚」あるいは「ハカセの覚醒」と呼ばれる出来事だ。


 それはさておき。


 後日、チマノラクセの隅で固まっていた勇者は無事保護された。何故か身ぐるみ剥がされたウェリバートは懐に大金を抱えていた。

 もちろん、その大金は彼によって損害を被った街の人々に配分された。しかしながら、それでも余ったお金は彼の懐に戻された。

 そこまでの経緯に至るまで、気を失っていた彼を起こすほど、街の人々は鬼ではなかった。


 それもさておき。


 セクラは誰か達に話しかけた。

「ベッドタウンが二人の無用な心遣いで台無しよ」

「それでも必要な措置であったと言ったら?」とは誰か。

「また、私が勇者の仲間になって上げるわ」

「横で闘ってくれるのですか?」とは、また誰か。

「まさか! 出番なんて与えないわ」

「で、ですよね」

 肩を落とすその誰か。

「連れはどうするのですか、お嬢様?」

「世界の脆弱さを見せて上げるわ」

「当然」と付け加えて、セクラは楽しそうに笑った。


(続く?)



※※設定裏話※※

今回は事後談です。短くてすみません。

語る必要はないと判断し、ダラルロール対決編は割愛させてもらいました。

そして、物語はいよいよ佳境へと突入していきます(笑)。

魔王と勇者の名前はあえて伏せているのではなく、この時点で決まってないのである(笑)。

そして、ハナコの能力も……。

※※※※※※※※



【 六 】


 チマノラクセ――それは蜃気楼のごとき街であり、誰もその場所を知らなければ歴史にも刻まれていない。いや、決して知られていないわけではない。神と魔王と勇者、それだけの存在が連綿と伝えてはいる。

 それは何故か。それは世界に疎まれた存在を眠らせるためだけにしつらえられた場所、封印の地であったからだ。

 だが、彼女は目覚めてしまった。しかも彼女の無意識が呼び寄せた同属性の精神体とともに。

 彼女の名前はセクラ。不要悪あるいは不必要悪とも呼ばれる存在だ。

 ならば、神や魔王や勇者とはいかなる存在なのか。世界の要請を受けるもの、それが答えだ。そして、三者は血の繋がりによらない。世界の次に、時代が要請するものなのだ。


 それはさておき。


 セクラは次なる魔王を倒すため、勇者を問い詰めていた。

 いや、次なる、って。魔王は?

「ちょっと! 魔王の三下がダラルロール。で、その魔王……とは言っても私にとっては坊やだったけど……。今はそれが問題じゃなくて!」

 あー、取るに足らない存在でしたか。

「かいつまんでお願いします」とは勇者。

 しかも霞のマントを始め、さすがに値札は外されていたが件の大剣、鎧、盾を装備していた。

「私の隷僕なら、主の意思を組み取れなさい!」

「じゃあ――」

 血走る眼を向けるセクラは、いつ拳が振るわれてもおかしくない程に恐ろしい形相をしていた。

 そんな彼女の理不尽な命令に、やれやれといった顔をしながら勇者は口を動かし始めた。

「世界が安定してあり続けるには、魔王と勇者の存在が欠かせなかったのです」

「あんた、分かって……」

 セクラはあんぐりとする。

「はい。そして時の要請に伴って、知らぬ間に決定され、そういう存在に仕立て上げられるのです。(中略)ゆえにそれがどんなに狭い空間であれ、その存在は必要だったのです」

 一気に打ち明けた後、そこには理解しきれていないハナコとカーラディナが頭をフル回転させた上で燃え尽きていた。セクラはというと、

「つまり、どこかにコレを仕組んだ奴がいると?」

 理解していた。

 さすが先生だ。あれ、ハナコは?

 一方、勇者はそれを言う彼女に思うところがあった。

「セクラ様。まさか!?」

「あら? 隷僕は読心術があったのかしら」

 勇者は首を振り、言い訳をする。

「勇者に備わっていたのです!」

「欲しいわね、それ」

「へ? あ、あの、勇者は選ばれるものでして奪えるものでは……」

 読心だ。怯える勇者に、セクラはにこやかに答える。

「もしかしたら、選ばれるかもしれないじゃない」

「ででで、ですが!」

「じゃあ、もったいぶらず教えなさい!」

 歯をカタカタ鳴らす程にひきつる勇者に、セクラは詰め寄った。


 それはさておき。


 何重にも封印を施したにも関わらず、急速に接近している不要悪に神と魔王と勇者は顔を付き合わせて……。

 いや、ごめん。

 三者は各自いる場所で目を瞑り、深層意識の海で対応を協議していた。

(いつも通りでかまわないんじゃない?)

(トウマス様もいつも通りでいいぞ)

(では、吾輩もそのようにしよう)

 いや、確認しただけだった。


(続く)



※※設定裏話※※

回を重ねる毎に物語らしくなる当作品はついにここまでやってきた。だけど、おかしいよ。

カジキマグロが登場してないよ(笑)! 本当であれば、登場するんだよ?

神、魔王、勇者の組み合わせが、何だか有名な大冒険の話しを彷彿させますが、パクリではありません。

悪しからず。

※※※※※※※※



【 七 】


 魔王と勇者は大きな街を巡って戦いに明け暮れていた。

「ダリ兄ぃ、みぃーつけた!」

「あ~あ、また見つかっちゃったか」

そう、至るところでカクレンボという戦いに。


 それはさておき。


 セクラは引き続き、勇者詰め寄っていた。内容は次の世界への行き方。そして、勇者は口を割る。

「か、簡単ですよ、セクラ様」

 顔色は蒼白に、かつ紫色に唇を染めあげられた勇者は首を絞め上げられた状態で、息も絶え絶えに、それでも礼儀を忘れない。

「もったいぶるな、隷僕!」

「はひっ!」

「じゃないと投げるわよ?」

 勇者は知る。それが如何なるものか。

「怒らないで下さいよ?」でも、なかなか言わない勇者。機嫌悪くなっていくセクラ。

「言え!」

「勇者か魔王に! ボコられ――」

 そして勇者は空を飛んだ。


 それもさておき。


「本当に、強いよ、……シャン」

「ダリ兄が太り過ぎだからよ」

 二人は兄妹だった。兄ダリジュに、妹のシャングリアーゼ。どちらかが魔王で、勇者だった。


(続く)



※※設定裏話※※

今度の魔王と勇者は兄妹です。

世界観を始めとした設定が確立したにも関わらず、内容に変化がない、

むしろ過激化する作品なんて初めてです(笑)。

しかも一作一作、前回分の不満を踏まえて執筆されている作品。

※※※※※※※※



【 八 】


 セクラは僅かな時間だが、童心に戻っていた。

「あっ。みぃーつけた!」

「ああ……。み、見つかっちゃいました……か」

 そう、勇者を空の彼方へと投げてしまい、その代用を探していたのだ。

 魔王は絶望の眼差しで見上げながら言う。

「な、何の御用でしょう、お嬢様?」

その引き攣った笑顔には、心からの同情を贈りたい。


 それはさておき。


「大丈夫かい、ウェリバートさん?」

「これは、ダラルロールさん」

 すっ裸の勇者に、魔王が話しかける。

「まったく……。嵐のような方でしたね」

「嵐というより猪では?」

「では、嵐を纏った猪で」

「そうですね」

 二人は自分達の主人の無事を語ることの無意味さを理解していた。

「でも。ホント、勇者なんて柄じゃなかったですね」

「仕方あるまい。弱虫ウェリが鳥に棲む、だぞ。勇者になったからと……いや、よくもまあ街の人々から逃げたな」

「だって、支払おうとする度に睨んでくるんですよ! 逃げますよ」

「まあ、それもこれもお嬢様を退屈させないために主人が仕組んだもの。果たして、この先どうなることやら」

「ですね」

 二人の世間話は続く。


 それもさておき。


「(中略)教えなさい!」

「は、はい! 魔王か勇者にボコ――」

 そして魔王も空を飛んだ。


(続く)



※※設定裏話※※

魔王と勇者がセクラを殴りたいだけなのか、本当なのか、それは筆者にも分からない。

※※※※※※※※


【 九 】


「「ですから!」」

 セクラが問い詰める度に勇者も魔王も空を舞う状況が打開されたのはハナコの提案のおかげだった。

 セクラの死角に配置された二人がステレオで話す。


 それはさておき。


 ダラルロールとウェリバートの話しは続いていた。

「あれは底まで行く勢いですね」

「底というと、神のいる? でも、ここから出られるだろうか」

「それは……難しいですね。へ、ヘ――へクシュンッ!」

「おや、やはり裸は寒いかな」

「裸ですから」

「ぜい肉もない、しまった裸ですからな」

「でも、都合良く服や布が落ちてませんから」

「仕方あるまい。チマノラクセには彼女に関係する以外の一切は皆無なのだ」

 寒い寒い、とダラルロールは何枚も重ね着された体に、もう一枚重ねながら続ける。

「しかも、封印を守るためとはいえ、君の装備を剥いでゆかれた」

 ダラルロールは「君の主は酷いな」と同情する。しかし、ウェリバートは首を振った。

「それこそ仕方ありません。此処に穴が開いて、なおも装備があっては吸い込まれてしまいますから。そうなっては維持に支障が出てしまう」

「そうか。どうやら、君を見くびっていたようだ」

 そう言って、ダラルロールは自らが着ていた上着をウェリバートに掛けてやった。

「だ、ダラルロールさん……」


 それもさておき。


「「道はチマノラクセのあった場所にあるのです!」」

「……」

「「開く鍵はあなたなんです!」」

「……」

「「そして、今のあなたは鍵として致命的!」」

「「少しでいい、調整させて下さい!」」

「……分かったわ。やりなさい」

「「では!」」

 ちょこん。――そんな表現が正しいだろう。セクラの体をボコした輩は再び空を飛んだ。

「痛いじゃないの!」



※※設定裏話※※

疲れたため、座談形式を多用してのお届けになりました。

というか、魔王とダラルロール、勇者とウェリバートが混ざってしまい、手に負えなくなりました(泣)。

セクラとの関係が分からなくなり、前回で限界でした。


今後に関わることですが、魔王とは「混乱」、

勇者とは「秩序」を象徴する隠語のようなもの。

以後、三つの表現は激減します。悪しからず。



というか続かなかった。

最後までお読み下すった方、ありがとうございます。そして、すみませんでした。


完結させようと試行錯誤はしたものの内容が破綻したので、破綻する前のものを投稿しました。

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