《壱》総ての始まり、総ての終わり~覚醒~ その2‐2
意識を失ったハズの鬼凜の躯は、宙へと浮き上がる。
赤銅色に染まっていた髪は更に色みを増し、
まるで炎のよう。
その瞳は、朱の混ざった赤。
「な..何なんだ。これは!?」
秀の声に他の一族の者達が集まり始める。
「刈野鬼凜は適合者よ!
拘束しなさいっ!」
宗主の弓の声が響く。
『バカな人間ね』
麻酔銃を持っている人間は何かに弾き飛ばされる。
父・悠馬が言う。
「鬼凜…なのか?」
『あぁ。今度の躯の主は、そういう名だったわね。
ワタシは、鬼凜であり、鬼凜ではないわ。
鬼凜という人格はただ、周りに応じて出て来ただけ。(人はみんなそうだけど)
まぁ、この躯はとてもいいわね。
今までで一番相性がいいわ。
相性が良すぎてこの者の躯にも影響があったみたいだけど。』
鬼凜の形をした何かが信じられないことを言う。
「まさか"炎の天女"なのか?」
それは、
一族に伝わる血の原種。
"炎の天女"
そして、それの名は、
「フェリア?」
懐かしい名に一瞬歩を止める。
真名でも
仲間うちで呼ぶような名でもなく、
わが子達に
わが夫に
名付けられた名前。
呼ばれた名前。
でも…
『…わが子達が、わが子達を傷つけ、汚し、自分の利益のみを優先する。
それはもう見たくないのよ
せめてこの子だけは、幸せでいて欲しいの』
それは、彼女の願いであり心。
「‥他の者が気を失っているうちに逃げて下さい」
母・綾乃は悠馬の言葉に続けて言う。
「それが私達があの子にできる最初で最後の贈り物ですから。」
綾乃も悠馬も儚く笑う。
「あの子をどうかよろしくお願いします。」
2人の心が見える。
もう、自分の死を覚悟している瞳。
彼女が何度も見続けて来た瞳。
綾乃の心と声が重なる。
(何度もあの子を拒絶し続けた。
これは私達が背負う十字架[トガ])
「そして一言伝えて下さい“生きろ。幸せになれ”と」
鬼凜は、いやフェリアは
飛翔した。
運命は流転し続ける
どうなるのか
それは神すら知らない
ヒトの欲望は果てしないものだから
《壱》総ての始まり、総ての終わり~覚醒~
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