《壱》総ての始まり、総ての終わり~覚醒~ その2‐1
自宅に帰って鬼凜が目にしたのは、礼服を着ている兄・戒
そして40代ほどの男女であった。
「…お母さん、お父さん…」
女は、その声を嫌そうに、どこか哀しそうにした。
女性の名は、刈野綾乃。
男性の名は、刈野悠馬。
戒と鬼凜のれっきとした両親である。
ただし...鬼凜が信じているのは兄だけ...と言いましたが、それは、
「あぁ、もう嫌だ。こんな子を本家に連れて行かなきゃならないなんて、恥さらしだわ。こんな悪魔の子なんて。」
母である綾乃は言う。
鬼凜は、生まれる前は"凜"と名付けられるはずだった
しかし、"鬼凜"と名付けられた。
それは、"鬼子"。
私達の"凜"を殺した"鬼子"という、 忌み名。
鬼凜自身は覚えておらず、兄に聞いただけだが、
鬼凜が生まれたとき、泣いたりしないときは、ちゃんと黒瞳であったらしい。
しかし、泣いたとき、赤い瞳に変わった。
最初のうちは、気のせい,目の錯覚だと、両親は思ったらしいが、
徐々にその時間が増えたらしい。
そして、1才を過ぎる頃には黒になることはなかった。
両親特に母綾乃にはそれが娘の"凜"が、悪魔か何かに汚がされるように思ったらしい。
今では、赤が朱に変わってきている。
まるで炎か血のように。
であるからして、10も離れた兄が面倒を見、育
てたようなものなのだ。
「本家に行くの?戒兄。」
"本家"
もう今では、そういう言葉を使う者は少ないだろう。
別名"宗家"
鬼凜の家の本家である神野家のことである。
父悠馬が神野家の血を引く者である。
まぁ、ただし、ひどく薄いが(系図の端っこにちょこっと乗るくらい…)
昔から、時代の時々で、暗躍している家で
影宮-影の天皇家-
とも言われている。
そんな家に
「こんな系図の端っこに少し載るだけの家が。どうして…」
「どうでもいいからついて来なさい」
…
(どうしてなのかなんて私も知らないわよっ!)
鬼凜には、声無き声を聞く力があった。
人の心の声
死んだ人-霊-の声、姿
自然の声
昔はそれと、普通の声の区別がつかなかった。
どちらも同じように聞こえているから。
今も昔も
だから余計に気味悪がれたのである。
今は一応これをある程度は制御出来るようになった。
そして、彼女はだからこそ悟っていた。
人は醜く、弱い。
弱いからこそ、人は、同族を自然を傷付ける。
寂しいからこそ、支えてくれるものを作るということを。
ーーーーーーーーーーーーー
神野-影神-家本家についた。
鬼凜がここに来るのは初めてだ。
「よく来たね。鬼凜ちゃん。16歳おめでとう」
鬼凜にとっては知らない人であった。
年は、父の少し上程度。
「..兄さん。その子に関わらない方がいいですよ。」
父・悠馬が言う。
「こんにちは。どうもありがとうございます。」
鬼凜はとても他人行儀に言った。
「その子がお前の娘の鬼凜か?悠馬。」
「...はい。父上」
厳格そうな鬼凜の祖父だと思われる人。
(なんで、分家の血筋の私の家がこんなに本家
に?)
鬼凜は不思議に思った。
一人の老女と老人が来た。
年は80は超えているだろうしかし、その目は、鋭くなっていた。
「こ、こら鬼凜ちゃん
頭を下げなさい。」
鬼凜の叔父は言う。
「あの二人は本家宗主神野弓様とその夫神野秀様だ」
このような高齢は神野家では希少であった。
なぜなら、分家では、少なくなってきたが、本家では、
血族婚がいまだに行われ、普通の結婚の方が少ないらしい。
理由の1つには、普通の結婚の子供の出産率が、血族婚に比べ非常に少ないのが挙げられるのだとか。
現に、弓と秀は、血縁上従兄妹だが、結婚し、孫までいる。
今でこそこうだが、江戸時代には、兄妹でとかひどい時は親子でということも多々会ったという。
(もちろん周りが強引に)
「刈野鬼凜のみついてくるように」
秀の低く重厚な声が響く。
秀と弓と共に鬼凜は家の奥深くへと入る。
ついたのは地下室。
隠し扉の後ろにあった階段の先にそこはあった。
そこにおいてあったのは、机と、2.3人の一族
の者らしき人間。
「鬼凜よ。この箱を開けて見よ。」
"開けてはダメ"
鬼凜の脳裏に小さな声が響く。
鬼凜は箱を開けた。
中に入っていたのは、
赤黒い何かで濡れたリボンらしきもの。
それは
"血"。
“ドクン”
鬼凜の中で、心臓とは別の鼓動が響いた。
その音は、どんどん速く大きくなる。
血は燃えるように熱く、
汗は吹き出て、
身体のバランスが崩れる。
鬼凜の内の異物が何かを気絶するように。
リボンは燃え、鬼凜の黒髪は、炎のような赤銅へと変わる。
「な‥何これ...体が熱い…」
鬼凜は途切れ途切れに言う
「素晴らしい!
適合者だ。あれの」
その場にいる者達が口々に言う。
“逃げなさい”
鬼凜の耳に女の人のような少女のような声が…。
訳の分からない恐怖に支配される。
「..何をするつもりですか?
あの血はいったい…?」
「おや..気を失わないのかい。
記録では、適合者は皆気を失ったらしいが…。
彼女の時もそうだったし」
(‥『適合者』?さっきもそんなこと言ってたよね。
いったい何の?)
鬼凜はわずかな間で自己分析する。
「.何の適合者?」
鬼凜の疑問に秀は答える。
「まぁいい、いずれ知ることになるのだから。
わが神野いや影神家は、天女の血を引く家系なのだよ
そして、天女の恩恵を受け続けて来た。
適合者というのは、天女の血を色濃く受け継いだ者のことだ。
正直、君に期待はしていなかったのだがね。
16を向かえた一族の少女はすべて、これを受ける。」
(天女…。また‥非現実的な…)
しかも恩恵?
「もし何か力があるとしても、私があなた達に
恩恵?
そんなのありえないわ」
鬼凜はこう吐き捨てる。
「ふん。恩恵というものは、力づくでも手に入れるものだよ。
鬼凜。
さぁ眠りなさい。」
秀の声が小さくなる。
鬼凜の意識は遠ざかって行った。