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Japan Force  作者: 坂崎紗葵
最終章スラヴィニアの栄光
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終焉 そして未来へ

「コーヒー、もらえます?」


「はい、少々お待ちください」


キャビンアテンダントに飲み物の注文をしたアナスタシアは以前の邪悪さをなくし、歳相応の可愛らしい女の顔をしていた。


「熱いから気をつけてな」


「温かい物飲むの久しぶり・・・」


「ゆっくり休め。日本まではかなりかかる」


「ん・・・」




「フゥ・・・」


「ため息ですか・・・?」


「ん、ああ」


俺のついたため息に片山が反応した。


「いや、なんだ・・・長かったからさ・・・仕事が」


「ああ・・・僕もですよ。こんなに長い、というか実際の仕事」


片山は少し目を遠目にして


「実際、人を手にかける仕事なんですよね・・・」


「・・・国は70年以上の平和を誇ってきた。もちろん素晴らしいことだ。だが・・・だが、有事に争えない軍に意味はあるのか?俺は・・・それを理解出来ない。


ただ、今の仕事も国を守るためにやってきたつもりだ。韓国紛争時ももっと的確に動けていれば京都攻撃もなかっただろうし」





「チャンスは一度だ。готовый?(用意はいいか?)」


『ダー』



まだ機内を動けない中、シートベルトが外れた音が機内に響いた。


キャビンアテンダントはトイレに立った客だろうと思い、即座に歩き始めた。


「あの、お客様。お席にお戻り願えますか?もうしばらくすればシートベルトは外せますので」


「動くな。我々はテロリストだ」



男は小さな、黒光りする銃を持っていた。





「全員その場を動くな!テロリストだ!」


『キャアアアアアア!!!』


『うわああああ!』



典型的な脅し文句に乗客たちはパニックを起こす。


「動いたらぶっ殺す!」


手に持たれているのはFMG-9、マグプル社製の超小型SMGで隠密度が高い。




「ああ、クソ!・・・エレーナ。動かないでくれ。峯岸・・・どうする?」


「どうするも何も待つしか無い。いざとなったら制圧する。人数を確認しよう」


二人は、いや、SSFの隊員たちとラヴェニズクは腰にあるシグザウエルP229に手を伸ばしていた。



FMG-9を持っているのは4人。


全員目出し帽をつけているわけではなく、東欧系だった。


一人は女。


全員が軍人崩れのような風体であった。



「4人、元軍人風。武器はマグプルかどっかの豆鉄砲だ」


坂崎の報告に7人は「楽勝」と考えた。




「女、この乗客を呼び出せ」


「・・・はい」


キャビンアテンダントは言われるがまま、マイクに手を伸ばし


『エレーナ・クロンチコワ様、至急お話ししたいとのことで-』


『おいアナスタシア・シェパジェノブスク!いるのはわかってんださっさと出てこい!じゃねーとスチュワーデスの頭にチューリップの花が咲くぞオラァ!!!』


『キャアアアアア!』




「・・・ラヴェニズク、私行かないと」


「駄目だ行くな」


「でもっ・・・」


アナスタシアはラヴェニズクの手を強引に離し、走った。


「ああ、くそ!ああ、待て!」



「よぅ、久しぶり」


「・・・ジェレミー・ウラン中佐」



元スラヴィニア陸軍親衛隊ジェレミー・ウラン中佐。


現在彼は


「リュスタル・キャンバスの仕事でね」


リュスタル・キャンバスの私兵組織に居た。


「他のも全員親衛隊ね・・・?」


『フフフ』


残り3人も親衛隊だった。


「あなたがイケないんですよ。死んでくれなきゃあねえ?」


フフフ、と不気味な笑みを浮かべる女。


「ユーチェリ・ガガノフ少尉、あなたは生きていていい人間ではなかった。ここにいる全員を殺しても殺したら無いでしょう?」


「ウフフ、そーね」


ユーチェリ・ガガノフは虐殺担当の兵士だった。


「さあ、て死ねよ」


FMG-9をもう一人の兵士が構えた時、ラヴェニズクは動いた。


腰の拳銃のセイフティを外し、構える。


(軍の学校時代を思い出せ・・・一撃でやれる)


坂崎は驚いたがSSF隊員に合図を送り、全員が拳銃を持った。


バンッ!・・・パパパパパパパパパ!


ラヴェニズクの放った40S&W弾はFMG-9を持っていた男を撃った。


反動でFMG-9が暴発し、後ろに居た男を撃ちぬく。


「クソ、敵だ!」


6人のSSF隊員が一気に拳銃を撃ち始める。


「射線注意!撃たせるな!」


坂崎は続いて英語で


「伏せて!」と乗客に。



「ああ、くそくそくそ!」


ジェレミー・ウランは死んだ。


悪態をつくのはユーチェリ・ガガノフだ。


「ストルフスキー、パラシュート!逃げる!」


「わかった!」


「ほら、お前もだよ!」


ユーチェリ・ガガノフは最初に撃たれたストルフスキーを先に行かせ、アナスタシアの手を掴んで走った。




「逃げた!クソ、追うぞ!」


「分かった。全員は待機、負傷者と敵を確保しろ!」


『了解しました!』



坂崎とラヴェニズクは後部へ向かった3人を追いかけた。




「ああくそくそくそくそくそ!」


ユーチェリ・ガガノフは悪態を連呼しながら弾がかすった右腕を抑えた。


「あのクソイカレポンチのヤポンスキー共め!飛行機爆破用意!空中でふっ飛ばしてやる」


ストルフスキーはC4爆薬に信管をさした。


「姐さん、いつでも」


ストルフスキーは起爆装置をユーチェリ・ガガノフに渡して落下傘を体に着けた。


「お前は先にとべ-」


ズドン


銃声でストルフスキーは機外へ落ちていった。


「終わりだよ、イカレ戦犯」


アナスタシアはコルトポケットと呼ばれるものすごく小さな自動拳銃を持っていた。


「お前・・・飛行機が吹き飛んでもいいのか?」


ズドンズドン



「え・・・あ・・・?」


ラヴェニズクはまたもや40S&W弾で仕留めた。




飛行機は緊急事態のため、近くのシェレメーチエヴォ国際空港に着陸した。


着陸後、ロシア連邦保安庁の捜査員がテロリストの遺体を回収した。









-4月1日 日本国愛知県午前2時30分-


「寝てるよな・・・」


自宅のマンションドアを開ける。


真っ暗だ。


当然だ。


飛行機は新しい便を待たなくてはならず、さらにFSBの取り調べ。それはまあ真賀山1等陸佐の計らいで数分だった。


これでも急いだが・・・午後には間に合わなかった。


「はー・・・?」


居間には人影があった。


電気を付けると


「ああ・・・お前はホントに・・・」


テーブルにはケーキと俺の好きな料理が並び、ケーキには「お疲れ様!」と書いてあった。


テーブルに突っ伏して寝ているのは間違いなく自分が愛する人間だ。


「・・・ああ、ホント・・・ああ・・・」


涙が出ちまう。


「ん・・・あ、帰ってたの!?」


驚いた顔で凛が眠気まなこをこする。


「起こしてくれれば・・・?泣いてるの?辛いことでもあったの・・・?」


ああ、本当に


「え、ちょっ・・・かえってきて急に抱きつくとか・・・え、なに、どうしたの・・・?」


「凛、本当に・・・有難う」


「・・・ん、ちょっと怒ってたけど吹き飛んだ」


凛は俺を自分の胸に抱きとめた。





「おいしいなこれ」


「でっしょー?頑張ったんだよ」


凛の作る料理を食べながら、お酒を飲んだ。


「あ、そういやあ忙しくて一緒にお酒飲んでなかったな・・・飲む?」


20歳になったんだ。


「のむのむ!」


凛にチューハイを渡すと、ちびりちびりと飲んでいく。


「おいしい」



「ふぁー!」


一緒に風呂に入った。


「お腹大きくなってきたな」


「ん、偶に蹴られるんだよ?」


「俺も親父としての自覚を持たないとな。しばらく休みなんだ。家事は手伝うよ」


「いいよいいよ!明日は休んでて。ね?」


「・・・ありがと」






「・・・ん?」


目が覚めると時計は13時を指していた。


「・・・おいおい・・・」


「おはよー起きた?」


隣では洗濯物をたたむ凛。


「起こしてくれてもいいじゃん・・・」


「だって可愛く寝てたし」



昼食をとって俺は家事を手伝った。


夕方のTVをつけるとすべてのテレビ局があることを取り扱っていた。



「アメリカ合衆国は先程、イランに対して攻撃を開始しました。これは昨日起きた米軍の墜落機を中国へ売却しようとしたためだと言われていて-」



「凛、休暇無くなりそう」


凛は肩を落として


「チューくらいしてってね」



思った通り携帯に電話が入った。


「はい、坂崎です」


『わかってるよね?イラン事象。明日から作戦開始。邦人救出ね』


「・・・りょーかい」












-2012年8月29日 愛知県内の産婦人医院-


「修一くん、落ち着いたらどうだ?」


「お父さんこそタバコが毎分1本ペースですが」


凛の父と俺と凛の母親、それとうちの親父とおふくろは分娩室の外に居た。


凛は俺に立ち会いをすることを拒んだ。


「だって見せたくないもん・・・すごい顔するから」


と。


俺は足が貧乏ゆすりから毎秒2回ペースの機銃ゆすりだったし両方の父親は毎分1本ペースのヘヴィースモーカー。


「名前は決めてあるの?」


と、凛の母親。


「女の子ということなのでさき、と」


「いい名前ね。ドキュンネームじゃないのでしょう?どういう字を書くの?」


「薄絹とかの紗に葵という字で紗葵です」


「いい名前ねえ」


と、俺の母親。



「おぎゃあおぎゃあ」


産声は響いた。


その場に居た全員が、拍手した。


そして俺の、父親としての人生が始まる。


















-2026年4月1日 柊北部中学校始業式-


「紗葵ちゃん、遅れるから」


「はあい・・・」


ゴシゴシと眠気まなこをこする姿は、数十年前の母似である。


「おはよ、お父さん」


「ん、おはよう。今日も可愛いな」


「・・・朝からヘビー」


「悪い」


俺の早朝ジョークも快調に滑り倒す朝。


俺はコーヒーを飲む。


「新学年頑張れよ」


「・・・うん」


心なしか心に違和感を覚えた。


なんだろうか



「じゃあ、行ってきます」


「おう、行ってらっしゃい」


「いってらっしゃい」


凛と俺、二人残されたマイホーム。


前のマンションから一戸建てを何とか立てて住んでいる。


真賀山さんがSSFの指揮官を辞し、俺はソレを継いだ。


今年でもう43。


「年取るもんじゃないなあ」


「まぁ、いくつになっても修一カッコいいけど」


「ん、ありがと」


そっと抱きしめる。


「15年経っても仲いいのうちだけだよな」


「そうかもね。里中さんのトコは・・・生きてれば同じくらいだと思ったけど」


里中、赤坂は10年前にBECの作戦中に行方不明になってしまった。


里中先輩はシングルマザーで防衛省の技術研究本部に入ったと聞いた。


「・・・いつ死ぬかわからない」


俺は新聞を開いた。


「中華人民共和国連邦(People's Republic of China federation of states,PRCSパークス)は本日、統一高麗連邦と合意の上で高麗連邦を領土にした」


PRCSは10年前、東アジア共同体構想で確立された。


モンゴル、ミャンマー、ラオス、キルギス、タジキスタンがすでに取り込まれた。


PRCSは実態が西側政府には不明であった。


「・・・戦争かな」




自分の子供、紗葵たちには戦争を体験して欲しくない。


そう願うばかりだった


                   -END-

見てくれてありがとうございました。長々と駄文晒しただけですいませんでした。


坂崎修一と仲沢凛の物語は今回でお終いです。


でもタイトルにあるように「未来へ」。が次のコンセプトです。


次回作も見ていただけると幸いです。それでは、数日後に。

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