白馬の王子様
「おい、どういうことだ?」
アナスタシア・シュパジェノブスクの件について坂崎はミリャコフ・エレッカトリチェに質問した。
「私は、私たちは勝たなければならなかった。逆賊に。それに勝つには・・・国民が信じきっている虐殺者を呼び戻す必要があった・・・」
坂崎は加えて質問をする。
「生きているのか?アナスタシア・シュパジェノブスクは」
ミリャコフは力を落として答えた。
「生きている。ロシアの武器商人の元で」
「アナスタシアが・・・?生きてるだって?」
「ああ、遠いが。生きている」
「・・・場所は?」
ラヴェニズクは食い入るように質問をする。
「抑えろ。場所はロシア北西部、ヴェージマ。ああ、俺の記憶が正しければ陸軍の駐屯地だ」
ラヴェニズクは武器を持った。
「そこへ行こう。助けだす」
ラヴェニズクが言い始めたその時、トランシーバーに無線が入った。
『こちらスターナヴ・エレンチコワ、どうぞ』
「こちらSSFグロウリーダー」
坂崎はスターナヴ・エレンチコワの無線に応答する。
『スラヴィニアングロウと変わってください』
「了解」
俺はラヴェニズクに無線機を手渡した。
「はい、スラヴィニアングロウ」
『任務お疲れ様でした。ミリャコフ・エレッカトリチェの身柄拘束しました。彼女の拘束を受け、新政府は市民政府と交渉状態に入りました。あなたには大変苦労をかけました』
「それはSSFのチームにでも言ってくれ。それより一つ頼みがある」
『はい?』
「ミリャコフ・エレッカトリチェは武器をロシアの武器商人に売る予定だったらしい。市民政府にとってこれは汚点になるかもしれない」
『と、いいますと?』
「前政府とはいえ国は同じだ。武器が輸出されたと世界に知られたら立場は危うい」
『それで、どうすればいいんですか?』
「ロシア北西部、ヴェージマ。そこを急襲する。ロシア政府に打診してくれ」
ロシア政府はリュスタル・キャンバスという武器商人を認知していた。
ロシア政府への資金援助を理由に彼はヴェージマの軍基地の一部に自分の商店を開き、稼いでいた。
ロシア政府としても苦い自体であった。
ロシア政府はヴェージマに駐屯する500人の兵隊のうち、450名を基地司令官の娘の結婚式に招待するという名目で基地から引き上げさせ、さらに50人の兵隊も基地での休暇を命じた。
彼らはヴェージマにあるリュスタル・キャンバスのオフィス攻撃を容認した。
「ヴズルィーフ1より全機。現在より作戦を開始する。作戦を開始する」
Mi-8輸送ヘリはヴェージマから南に2㎞の草原に着陸した。
同行するのはロシア連邦軍ヴィンペル部隊の精鋭たち。
「坂崎中尉、我々は手はず通りで構わないのか?」
「ええ、ウラジミネンコ中佐。リュスタル・キャンバスの私兵の始末をお願いします」
ヴィンペル部隊40名は即座に展開した。
「あれが牢獄・・・ヴェージマ城」
坂崎は思わずつぶやいた。
ヴェージマ城。かつてここまで至ったドイツ人たちが建造した砦。
WW2後は政治犯収容所として使われ、現在はただの城だ。
ウラジミネンコは語り始めた。
「政府はこの城をリュスタル・キャンバスに売却した。奴はここを武装要塞化している。とりあえず爆発に紛れて潜入するのが常套句だ」
「どこからはいればいいんです?」
「壁なりなんでも吹き飛ばしてくれ。うちの部隊がエアボーンで上下を攻める予定だ」
「迫撃砲装填」
2B9 82㎜自動迫撃砲がヘリから降ろされ、城へ砲身を向けた。
「アゴイ!」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!と3発の砲声で城へ命中する。
「続けざまに打ち続けろ!」
SSFはMi-8に乗り直し、エアボーン部隊に加わった。
Mi-28ハヴォックとKa-52ホーカムは編隊を組んで城への爆撃を開始した。
「いけいけいけ!」
ヘリのサイドドアを開け、ロープを滑り降りる。
5秒で城の屋上に着地し、ASライフルを装備する。
ラヴェニズク含め全員が降下完了するのに30秒程度だった。
「俺達はこちらから中に入る!牢獄はそちらだ!」
ヴィンペル部隊の指示を受けて俺たちは別の入口から下へ降りていった。
「襲撃です。敵はアンノウン!不明勢力!」
「何!?」
「どういたしますか!?」
リュスタル・キャンバスは睨むような目で
「各個撃破しろ。必要なら"商品"も使っていい」
「了解!」
「地下牢はこの階段を最後まで降り切った場所らしい!」
「アナスタシア・・・!」
坂崎の声にラヴェニズクは愛する人を助けるため、足を早く動かした。
「ッ!」
ASライフルを即座に坂崎は取り出し、階下から上がってくる敵の頭にバス、バスと命中させた。
「私兵だ、リュスタル・キャンバスの」
P90PDWを所持していた。
黒いベレーにアメリカ製の簡易防弾アーマー。
サブアームはFN57でP90と弾薬に共通をもたせていた。
「行こう、時間があまりない」
階段を転がるように降りていく。
7名の隊員は中腹までたどり着いた。
「敵7名!制圧射撃!」
ジャカジャカジャカジャカ!と軽機関銃が音を立てた。
踊り場に2脚を取り付けたRPK機銃が待機していた。
土のうで銃手の体を隠している。
「くそ、銃座、銃座だ!」
「任せてください!」
姉坂はM14テルミット焼夷手榴弾を銃座に身を晒さないように投げ入れた。
爆発後、壮絶な悲鳴が反響する。
「ギャアアアアアアアアアあ!焼ける!焼けーー!!!あああああ!!!!」
7名の隊員はその横を通って階下を目指した。
「第3セクターの銃座手と連絡が途絶!」
「外部エリア、BTR-90との連絡がオフラインです」
「居住区のBコンコースが破壊されました!」
リュスタル・キャンバスは気がついた。
「くそ、そっちは陽動だ!第3セクターから下は地下牢だ!敵は何人だった!?」
パソコンを叩いていた兵員は
「7,7名です!」
「他の地区の侵入兵は!」
「10名強」
リュスタル・キャンバスは確信した
「敵の目的はアナスタシア・シュパジェノブスクだ!コンピュータを燃やせ!牢へ急ぐぞ!爆破用意!」
「コンピュータ制御のドアです。ハックするので援護を」
伊埜はバックパックからパスワードを解読する端末を取り出してパスワード入力用のドア端末に接続した。
ドドドドド!!!
城が大きく揺れた。
「何事ですか?ウラジミネンコ少佐!」
坂崎の問いかけに
『敵が証拠隠滅のため自軍の司令部を爆破した模様・・・リュスタル・キャンバスは発見できず』
「敵です2尉!」
ダダダッ!と篠原と片山が銃を撃ち始めた。
「伊埜、頑張れ」
「くそ、了解しました」
『こちらA班!牢獄前で敵7名と接敵!』
「やはり。お前が目的のようだな」
リュスタル・キャンバスはガン!と鉄格子の扉を叩いた。
「連れ出せ!コンボイ部隊で脱出する!」
ドアが空いた時、アナスタシアは引きずられるように連れていかれていた
「アナスタシアッ!」
ラヴェニズクの声虚しく、BTR-902台とトレーラーは城を出た。
「くそっ・・・くそぉぉぉっ!」
「諦めるなラヴェニズク!追うぞ!」
ラヴェニズクは坂崎の襟をつかんだ。
「なにで、何で追うんだ!?」
「あれだ」
坂崎はあるものを指さした。
『こちら後部。追跡してきたMi-28を撃墜』
「よくやった」
武装トレーラーはヴェージマから彼の隠れ家を兼ねた武器庫に向かっていた。そこにはリュスタル・キャンバスの私兵部隊が多く住んでいる。
「リュスタルよりオールファイター。敵殲滅のために準備しろ」
『こちらファイター、了解』
隠れ家の部隊とも連絡がとれた。
「万事休すかと思った」
ロシア連邦軍は彼をわざと逃していた。
トレーラーの後ろから高速で何かが接近してきた。
トレーラーの上に座っていた対空兵は度肝を抜いた。
「BTR-90!!!」
「主砲発射!撃て!」
坂崎の合図でラヴェニズクが射撃スイッチを押した。
BTR-90の30㎜砲弾はトレーラーのタイヤを吹っ飛ばし、護衛のBTR-90を撃破した。
「停車、停車!」
BTR-90はブレーキを掛け、中から7名の隊員が降車した。
「気をつけろ」
トレーラーの後部扉に片山と篠原が張り付き、ドアを開けた。
中には数名の兵士と、リュスタル・キャンバス本人。そしてアナスタシア・シュパジェノブスク。
「動くな。全員引きずりだして手錠かけろ!」
坂崎の指示でSSF隊員は私兵たちを引きずり出し、プラスチック手錠をかける。
「アナスタシア!ああ、よかった!怪我をしていないか!?」
ラヴェニズクが頬けているのを横目にリュスタル・キャンバスを拘束した。
「糞野郎、俺を捕まえてどうなると思うんだ!?だれだかしらねえが、てめぇらただじゃすまねえぞ!おい!」
「あー、うるさいうるさい」
ラヴェニズクは数年振りにあった恋人の姿に喜んだ。
「よかった、死んだと聞かされていたんだ!」
「・・・ボソボソ」
「え?」
アナスタシアは小さなふるえる声でガタガタと体を震わせながら
「Я виноватЯ виноватЯ виноватЯ виноватЯ виноватЯ виноват・・・!」(Я виноват=ごめんなさい、私が全て悪いのです。の意)
「アナスタ・‥‥シア?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・」
「くくくっ」
一人笑うものがいた。
「お前の大事な女は廃人になってしまいましたとさぁ!ひひひ!」
リュスタル・キャンバスは笑った。
「お前一体、一体何をしたんだァァアァアアッ!」
ラヴェニズクはMP443グラッチを取り出してリュスタル・キャンバスの額に擦りつけた。
「おいおい、おらぁ、何もしてないぜ?」
「フザケるなよタコ野郎。なにをした、なにを!」
リュスタル・キャンバスは答えた。
「俺は何、コイツに毎日自分の犯した罪を説法してやっただけさ。民間人を虐殺した。その事実を」
「あれは彼女じゃ・・・!」
リュスタル・キャンバスはフッ、と鼻で笑い
「アイツは部下に人民を従わせろと命じた、そう、あのミリャコフ・エレッカトリチェに。そしてアイツは人民を虐殺し、従わせた。間接的でも彼女が命じたのは明白!どうだ?ひひひっ!」
バンッ・・・バンバンバンバンッ!
「アナスタシア、アナスタシア!」
「ごめんなさいごめんなさ・・・」
リュスタル・キャンバスの遺骸と私兵の遺骸を脇道に捨てるSSFの隊員をよそ目にラヴェニズクはアナスタシアに話しかけ続けた。
「わかるか?俺だ、ラヴェニズクだ!」
「ら・・・・ラ・・・・ラヴェニズク・・・?」
「そう、そうだ。わかるか?わかるか!?」
「ラヴェ・・・ああ・・・・」
アナスタシアは目にいっぱい涙を貯めて。
ボロボロと涙を流し始めた。
「いいですね、あれ」
篠原がポツリ。
「再開ってやつだな」
坂崎の返しに
「2尉はご家族居ましたっけ?」
と篠原。
「ん、妊娠した奥さんがいる」
篠原は
「ええ!?独身だと思ってた」
と、こんな答え。
「篠原さん、俺はどうよ、俺は!」
と、石塚が声を張るが
「目を怪我してる人は嫌いかな」
「じゃあ俺は!?」
伊埜も必死に声を上げる。
「撃たれる人は論外!」
「ハハハ‥‥‥」
片山もこれには苦笑し、姉坂も
「ま、まぁ篠原さん」
「姉坂さんはいいじゃん、彼氏いるし」
「ご迷惑おかけしました・・・」
「いえ、しかしこれで我々も仕事は終わりです。国に帰って妻の面倒が見れる」
坂崎は先ほどリュスタル・キャンバスの私兵からいただいたタバコに火を着けながらアナスタシアの謝辞に答える。
「あーいや、ひとつ頼みがあるんだ」
ラヴェニズクの声が入った。
「俺達は何処かに亡命したい。日本政府にそれを計らってはくれないだろうか」
「ん・・・俺の権限ではないが」
「あー、こちら坂崎です。お久しぶりです、真賀山1等陸佐」
『おー、お疲れさん。聞いたよ。アナスタシア・シェパジェノブスクまで助けだしたんだって?』
「はい」
『先ほど市民軍は政府軍を吸収して統治したよ。民主主義国家の再誕だ』
「それはよかった。ああ、アナスタシア・シェパジェノブスクとラヴェニズク・クラフチェネンコについてなのですが・・・」
『ん?どうした』
「ニホンへ亡命できないかと、打診してくれと言われまして」
『んぅむ、簡単だ』
「え?」
『なにせ彼女は"死んだ"ことになっているし、ラヴェニズクも死んでいる。新しい国籍でも取得すれば日本に永住権を与えれるはずだ』
電話はしばらく続き、の日本行きの飛行機にのることになった。
-3月30日午後3時40分 エストニア タリン空港-
『午後4時発、フィンランド航空タリン発日本行き578便にお乗りのお客様はA搭乗口へどうぞ』
「やっと終わったよ、凛」
『お疲れ様!いつ帰ってこれそう?』
「明日の午後くらいかな?」
『じゃあ、夜は豪華なご飯用意しとくね!』
「ん、ゴメンな連絡できなくて。規定でさ」
『いいよ、気にしてない。じゃあ、頑張ってね』
公衆電話の電話機を下ろして小銭を取る。
「峯岸さん、行きますよ」
空港内で階級で呼び合うわけにも行かないので片山は偽名で坂崎を呼んだ。
「ん、わかった」
「エレーナ・クロンチコワが新しい名前かぁ」
「俺はラヴェード・スラデだぞ」
楽しそうにラヴェニズクとアナスタシアは話し合っていた。
飛行機は管制塔から許可を出され、ゆっくりと前進して空に飛び上がった
--「チャンスはあまりないんだ」--
--「ボスは最終支払をたんまり出してくれた」--
--「殺して、パラシュートで逃げっちまおう」--
飛行機は数時間のフライトを予定していた。
次話、JapanForce完結予定