表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

その男、九十二歳。

作者: 石山ウルマ
掲載日:2010/11/17

西山武にしやまたけしは地方紙の社会部に籍を置き、社会面でのコラムを担当している。

担当コラムの名は『憩いの広場』。

幼稚園でのウサギの飼育や、和やかな生け花教室、町内の句会の風景を取材などを元にレポートを書く。

わずかに1000文字程度の小さな枠が彼の仕事場である。

県内を歩き回り、さわやかな話題を探す。k県内全域も彼の仕事場である。

数センチ四方の紙面と約二百五十万㎡の陸地、この二つが西山の仕事場なのだ。

「落差があるな」と思う。ただし、そう思うだけだ。それ以上の感慨は持たない。


ある日、老人ホームの取材に出掛けて、その九十二歳の男小野寺吉蔵と出会った。

六十四名の老人が、余生をすごしている老人ホーム、それだけで何の感傷も持たない。

西山の社会部では、小野寺がこの施設で最長寿者の老人であることは調査済み。

最長寿者への取材なくしては担当部長の意向に反する。

しかし、その最長寿者の小野寺への取材だけで、わずかな西山のコラムレポート枠の文字は埋まる。


西山が施設関係者人案内されて、車椅子の小野寺に出会った。

西山は簡潔に身分と名を名乗る。

小野寺と二人きりにさせてもらい、取材を始める事とした。

施設関係者が同席すると、被取材者が施設に気兼ねをして話が弾まないからだ。


「九十二歳ですか、お若く見えますね。若さの秘訣はなんでしょう?」

小野寺は無言のままだった。

耳が遠いのかと、同じ質問を繰り返えすと

「聞こえていらあ、うるせえよ」

おそらく聞き違いをしているのだろうと、耳元で同じ質問を繰り返した。


「てめえ、耳が遠いのか。うるせえってんだ」

西山はその老人の静かなる剣幕が意外だった。

九十二歳まで生きてきたのだ、西山は穏やかで丸い感じの老人の姿を描いて来ていた。

たじろいだまま、西山には次の言葉がしばし出なかった。

「何しに来たのか知らねえが、とっとと帰れ」

立ち尽くす西山に追い討ちがかけられた。

「ここはガキの来るところじゃねえ。帰れ」

さらに畳み込まれた。


「でもですね、これは私の仕事なんです」気弱に言い返すと

「関係ねえだろ」

「確かにそうですが・・・・」

「『確かにそうですが』って、そのあとは何だ」

西山は二の句が出なかった。反論を求められて体が硬直した。

反論どころか怒るに怒れず、帰るに帰れず。


「お前みたいな無礼者は、さっさと死ね!」

西山の中でぷつりと何かが切れた。

「ひどいと思います。死ねまでは言い過ぎじゃないですか。私は長生きの秘訣を尋ねただけじゃないですか!」老人相手に怒鳴っていた。


「すまんな、許してくれ。さっきの質問に答えよう、長生きの秘訣はちゃんと怒ること、そして謝るべきはちゃんと謝ること」。


コラムを書き上げるのに1000文字。これは結構、難しい。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 題名に魅かれてやってきました。 面白いです。老人とのやり取り、ありそうなことですね。 そして、それをコラムに書くのは大変ですね。決められた文字数というのは、自分が決めていないので削除の仕…
2010/12/28 14:26 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ