たった10層しかないゴミダンジョンだとバカにされたので、1層たりとも無駄のない絶対殺戮要塞に改修してみた
「おいおい、噂通り本当にたったの十層しかねえぞ。ハズレくじもいいとこだな」
湿り気のない冷たい石畳を鳴らしながら、冒険者パーティ『赤き獅子』のリーダー・ガルバは吐き捨てるように言った。
彼らはBランクのベテラン。この『最果てのダンジョン』が発見されたと聞き、一攫千金を狙って一番乗りで乗り込んできたのだ。
「でもガルバ、噂じゃ第一層から高品質の薬草やポーションが拾い放題だって話だよ?」
「ハッ、どうせ新米ダンジョンマスターのド素人が、DPの使い方も分からずに投げ散らかしたんだろうよ」
彼らの足元には、先ほど倒したばかりのポイズンスライムの死骸と、大量の回復薬が転がっていた。
毒は微弱、敵は弱小。にもかかわらず、手に入る回復アイテムは最高品質。
ガルバたちは笑いが止まらなかった。湧き出る清涼な水を浴びるように飲み、傷を癒やし、飛ぶ鳥を落とす勢いで一層、二層、三層と破竹の勢いで突き進んでいく。
「見ろよ、もう七層だ! このペースなら今日中に最深部まで行ってマスターの首を獲れるぞ!」
仲間たちの歓声が洞窟内に響き渡る。
しかし、誰も気づいていなかった。
彼らの呼吸が、階層を下るごとにわずかずつ浅くなっていることに。
——最深部、第十層・管理室。
薄暗い部屋の中心で、俺——ダンジョンマスターのジークは、空中に浮かぶモニター群を静かに見つめていた。
「マスター! 敵はもう八層に入ったよ!? 罠もモンスターも全部突破されてるじゃない! このままじゃここに来られちゃうよ!」
案内役の妖精ピコが、小さな羽を必死にバタつかせながら悲鳴を上げている。だが、俺の表情に焦りはなかった。
「落ち着け、ピコ。すべて計画通りだ」
「計画通りって……あいつら、一層から拾った高品質のポーションで完全にピンピンしてるじゃない!」
「そう見えているだけだ」
俺は画面上のステータスウィンドウを指差した。
ガルバたちの体力(HP)は満タンを示している。しかし、その横にある【状態異常】の項目に、目立たない小さなアイコンが点灯していた。
「第一層で拾わせた『高品質のヒールハーブ』と、湧き水に混ぜておいた『無臭の触媒』。単体ならただの栄養剤と綺麗な水だ。……だが、それを過剰に摂取した状態で、第七層の『微小な乾燥ガス』と反応させるとどうなるか分かるか?」
ピコがぽかんと口を開ける。
「人間の体内で、超強力な『麻痺成分』へと化学変化を起こす。……そう、遅効性の複合毒だ」
画面の中で、八層の通路を歩いていたガルバが突然、がくりと膝をついた。
「ガハッ……!? な、なんだ……いきなり足が、動か……」
「ガルバ!? おい、どうしたんだいきなり——ぐあぁっ!?」
後ろにいた魔法使いと僧侶も、申し合わせたように次々と崩れ落ちていく。
どれだけ回復ポーションを飲もうと無駄だ。体内の水分そのものが毒に侵されているのだから、ポーションを飲めば飲むほど毒の回りが早くなる。
「ひ、一から三層で手に入れたアイテムが……全部、仕込みだったっていうのか……!?」
地べたに這いつくばり、絶望に満ちた目で天井を仰ぐガルバ。
俺は管理室のマイクを取り、ダンジョン全体に響くよう静かに音声を流した。
『ようこそ、最果てのダンジョンへ。噂通りの全十層……狭くてガッカリしたか?』
スピーカーから流れる俺の声に、ガルバがピクリと体を震わせる。
『100層もある巨大ダンジョンなら、広さで冒険者の体力を削れる。だが、うちにはたった10層しかない。だから——1層たりとも、無駄な配置はしていないんだ』
ガルバたちの意識が薄れていく。
彼らが持っていた強力な装備、蓄えた知識、そして莫大な経験値が、ダンジョンのシステムによって吸い上げられ、俺のDPへと変換されていく。
【侵入者の無力化を確認。大量のDPを獲得しました】
アナウンスとともに、画面の数字が一気に跳ね上がる。
「さて、ピコ。潤沢なDPが入ったぞ。九層と十層の改修に取りかかろうか」
「……マスターって、見た目以上に性格悪いよね」
呆れるピコをスルーし、俺はニヤリと笑った。
たった10層の小さな箱庭。だがこここそが、足を踏み入れたすべての人間を絶望に変える、世界最強の要塞だ。
読んでいただきありがとうございました!
ダンジョンの管理側の視点で描いてみました。
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