序章 | アザレアの庭園
どう表現すればいいのか正解は分からないが、確信している。これが「幸せ」というものなのだと。もしこれが幸せでないのなら、他に何が幸せだというのだろうか。
胸の奥が温かく、心地よい感覚。心が浮き立つようなこの感情を、人はきっと幸せと呼ぶに違いない。
夕暮れの橙色の光を浴び、風に髪をなびかせる少女のシルエットは、まるで美しく削り出された彫像のようだった。桃色の唇に自然と浮かぶ微笑みは、どこまでも甘い。すべてを見透かすような真紅の瞳は、今、僕の姿を映し出している。彼女は、溢れんばかりの幸せと愛おしさを込めて、僕を見つめていた。
周囲は静寂に包まれ、僕たち二人だけの「音のない世界」にいるかのようだ。いや、正確には、彼女との時間を噛み締めるために、僕がそれ以外のすべてを拒絶しているのだ。夜へと向かう夕空の下、アザレアの花が咲き乱れるこの庭園で、彼女は美しい言葉を紡いだ。この無音の世界で、その唇からこぼれたのは――。
「愛してる」
泣きたかった。少なくとも、僕の胸にはそんな想いがこみ上げていた。それは悲しみではなく、体中を満たすほどの幸せのせいだ。涙がこぼれ落ちそうなほど、僕は今、幸福の中にいる。かつての青臭い未熟な自分に終止符を打ち、これまでの苦労がすべて報われたような、そんな気がした。
「な、何か言ってよ!」
恥ずかしそうに頬を赤らめる彼女の仕草は、たまらなく愛らしかった。ふと、初めて出会ったあの頃を思い出す。あの時の彼女は、今にも壊れそうで、誰かの助けを必要としている少女だった。けれど今、目の前にいるのは、凛として美しい一人の女性だ。その成長が、僕の心を温かく包み込む。
「僕も、愛してる」
心の底からの言葉だった。それは脆い愛でも、義務感でもない。僕のありのままの感情だ。以前とは違う。僕は彼女と一緒にいたい。彼女を幸せにするためだけじゃない。僕自身が、彼女と共に幸せになりたいんだ。目の前の彼女と……喜びも悲しみも、すべてを分かち合いたい。
「待たせてごめん。長い間、ずっと」




