第六話 小隊長は、常連になった
フリーマーケットの端の区画に、その店はあった。
小さなテーブルに布をかけ、その上に、繊細なガラス細工が並んでいる。
淡い青や緑、乳白色。どれも角が取れていて、光を含むと、柔らかく色を返した。
「今日はランプシェード、出してないんっすね」
ルーカスが何気なく言うと、店の奥にいた彼女――店長さんが顔を上げた。
「よく覚えてますね」
「いや、前に、夕方だと光に透けてキレイだなって思って」
そう言いながら、作品を覗き込む。
写真立て、小さな置物、ペンダント。どれも主張しすぎず、けれど、ちゃんと目を引く。
「今日は曇り気味なので。光を透過する作品は、色が沈むんですよ」
「へぇ……」
「その代わり、アクセサリー系の小物は安定して売れますね。天候に左右されにくいんですよ」
設営の位置どり、布の色、高さ。
戦略の話になると、ルーカスは自然と前のめりになる。
「夕方が一番売れるんでしたっけ」
「ええ。フリマとしては終わり頃ですけど、西日が差す時間帯が、一番きれいに見えるので」
だからその時間に合わせて、ハーバリウムやランプシェードを前面に配置換えする。今日は出さない判断も、その延長だ。
「……こうして作品の話をしている店長さん見ると、ほんとに別人っすよね」
「何がですか?」
「素材集めのときの、店長さん」
「ちょっと!?」
即座に突っ込まれる。
「悪い意味じゃないっすよ!」
慌てて手を振りつつ、ルーカスは続けた。
「浜辺で、中型の魔物が出たときのこと、覚えてます?」
「……覚えてますけど」
「あのとき、同行してた魔法使いが、いつものノリで撃とうとしたら、『素材が痛むでしょう!!!』って」
「やめてください! あの時は、その――、」
店長さんは顔を赤くする。
「いや〜、正直びっくりしたっす。『イカ型の魔物の足を、一本ずつ剣で叩き切れ』って言われるとは思わなかったっす」
「足じゃなくて、腕です」
「しかも『血を砂浜に落とさないで!』って」
「……あの時は、夢中で」
店長さんは、少しだけ視線を逸らす。
「ごめんなさい……」
「いい経験になったっすよ」
「え?」
「いつもは、第二騎士団と組むことが多いんで。魔法で、ドーン! バーン! はい終わり!! 勝ちっ!! っすからね」
「……そうすると、どうしても浜辺のシーグラスが傷むんです。変色もするし」
「あと、イカの――」
「腕です」
「そーそー、それ!!! その話をしたら、騎士団の人に『あれは腕だ』って、すっごいドヤ顔で!!!」
「え!? ちょ、ちょっと! その話、広めないでくださいよ〜!」
「大丈夫っす!」
「何がですか!?」
ルーカスは、にっと笑った。
「この辺りじゃ、店長さんが一番、素材に厳しいって有名っすよ! みんな言ってます!!」
店長さんは、少し困ったように笑った。
「……小隊長さん」
「はい」
「結婚の話、まだ考えてないんですよね?」
「はい!」
即答だった。
「同盟っす!」
「同盟……?」
「結婚まだ考えない同盟」
一拍置いて、店長さんが吹き出す。
「なんですか、それ」
「いや、ちょうどいいかなって」
「変なの」
そう言いながらも、彼女はどこか肩の力が抜けたようだった。
雲の隙間から漏れた光が、テーブルの上を撫でていく。
シーグラスの作品たちは、それぞれ違う色を返しながら、静かに輝いていた。
少なくとも今は。
この二人が、どこかへ急ぐ必要はなさそうだった。




