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ルーカス、結婚相談所に行く。【掃除係アイリス外伝】  作者: まめ まめみ


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第十話 無限の選択肢のまま

 夕方の第一騎士団本部。

 日勤を終えた者が装備を外し、これから夜勤に入る者が鎧姿で最終チェックをする。

 剣が壁に立てかけられ、金具の鳴る音と、どうでもいい冗談が行き交う、入れ替わりの時間帯。

 第一騎士団の騒がしさが、一段上がる。


 ガヤガヤとした空気の中、ルーカスは、自分の席に座ったままだった。


「おい、ルーカス。もう上がりだろ?」


 通りがかった同僚が声をかける。


「帰らないのか? また反省文か?」


「そんなに毎回、書いてねぇよ!」


 即座に言い返し、ルーカスは肩をすくめた。


「ちょっと……手紙を書いてから帰ろっかなって」


 一瞬の沈黙。


「……は?」

「ルーカスが、なんだって?」

「手紙??」


 背後から、いくつもの視線が刺さる。


「うるせー!」


 振り返らずに怒鳴る。


「家で書くと、もっと騒ぐかーちゃんがいるから、ここで書いてくんだよ!」


 どっと笑いが起きた。


「かーちゃん強ぇなー」

「それは帰れねぇわ」

「うちは嫁が強ぇ。この前もよぉ――」


 適当な茶化しが飛び交い、興味はすぐに別の話題へ流れていく。喧騒は、日常のまま。


「あれって誰に書いてんだぁ?」

「確か、結婚相談所に――」

「いや、案外かーちゃんかもしれねぇぞ」


 好き勝手に言いながら、団員たちは夕方の喧騒に紛れて帰っていく。


「……うるせー」


 もう一度、小さく呟いて、ルーカスは机の上に視線を戻した。


 そこには、ペーパーウェイトが一つ置かれている。


 淡い青。

 夕陽を受けて、角の取れた表面が、静かにきらきらと光っていた。手のひらに収まるくらいの大きさで、触れればころんと転がりそうな形をしている。


 ただ、そこに置いてあるだけだ。

 握りしめるでもなく、何かの意味を与えるでもなく。


 ルーカスは、紙に向き直った。


 書こうとしているのは、謝罪かもしれないし、報告かもしれない。あるいは、ただの近況かもしれない。


 正直なところ、まだよく分かっていなかった。


 自分が何を望んでいるのか。

 どこへ向かいたいのか。


 分からないことは、相変わらず多い。


 それでも、分からないままでも、動いていいということだけは、もう知っていた。


 誰かの人生を、善意で決めてしまわないでほしいという気持ち。

 そして、自分にも、相手にも、選べる余地があるという感覚。


 それをどういう言葉にすればいいのかは、まだ整っていない。


 ルーカスは、深く考え込むことはしなかった。

 ペンを置くことも、立ち止まることもしない。


 騒がしい部屋の中で、誰かが笑い、誰かが怒鳴り、誰かが帰っていく。夕陽が少しずつ傾き、白い紙をオレンジ色に染めていく。


 その光を透かして、シーグラスのペーパーウェイトは、淡く青く輝いていた。


 それを見ることもなく、ルーカスの手は止まらずに文字を重ねていった。


(完)

 アイリス外伝ルーカス編、ここまでお読み頂きありがとうございました。

 まだ何も始まっていませんが、これで完結です!

「結婚する/しない」ではなく、結論を急がず“選べる状態で生きる”ことを肯定する話が書きたかったんですが、難しいですね。

 状況は何も変わってないように見えて、ルーカスは少し成長しました。スズークおじさんは悪い人では無いんでしょうが、失敗してようやく学んだようです。団長は...これから成長して欲しいなと思います。周りのために。

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