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ルーカス、結婚相談所に行く。【掃除係アイリス外伝】  作者: まめまめみ


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1/3

第一話 休みを取るだけなのに

 第一騎士団の大部屋は、その日も騒がしかった。

 書類の山、誰かが何かにぶつかって倒れる音、どこからか聞こえてくる訓練の掛け声。


 団長とルーカスは、恒例の「魔獣討伐」について盛大に騒いでいた。


「この討伐さぁ? 俺……現地で逃亡するかもな~~~(チラッチラッ)」

「大丈夫っすよ団長! 団長が行けば魔獣も土下座してきますよ!」

「ふむ。まぁ、今回の討伐でも、俺が期待されているようだからな! うむ!! 俺が行くしかないみたいだな!!」

「余裕っすよ〜〜ー!!!」

「なんでメンバー選定だけで、そんなにテンション上げてるんですか。落ち着いてください!」


 そんないつもの会話が落ち着いたあと。


「……ところで団長」


 ルーカスが、ぽつりと呟いた。


「団長。俺、休みを取りたいっす」


 その一言は、小さな声だったが、大部屋によく響いた。騒がしい部屋の空気が、ほんの一瞬だけ止まった。


「……休み?」


 聞き返したゴードン団長は、散らかった書類を拾い上げたまま、瞬きを二回。

 

 そして、にやりと笑った。


「おぉっ? 何だ!? どうした!?」


 ルーカスは一拍置いて答える。


「私用です」


「私用って何?」


「……私用です」


「えー? 何だそれ。気になるだろ」


 周囲の騎士たちは、ああ始まった、というように顔をしかめた。ゴードン団長は、気になったことを胸にしまっておけない性分だ。そしてしつこい。


 結局、ルーカスが観念したのは、同じ質問を三回繰り返された十分後だった。


「……お見合いです」


 その瞬間、ゴードン団長の顔がぱっと明るくなった。


「おお! いいじゃん!」


 なぜか胸を張る。


「俺さ、ルーカスなら大丈夫だと思うんだよなー」


 何が、とは言わない。

 誰に対しての何が大丈夫という評価なのか、全く分からない。

 だがゴードン団長は、完全に“いいことを言った顔”をして、満足そうにうなずいた。


「ほら、真面目だし。仕事できるし。変な癖もないし」


「団長、それフォローですか?」


「そうだ! 褒めてるぞ!」


 ルーカスが訓練のために部屋から出て行った後も、ゴードン団長は元気だった。


「休み取るんだってさ」

「お見合いらしいぞ」

「いや、俺は大丈夫だと思うんだけどな?」


 ゴードン団長は腕を組み、うんうんとうなずいた。なぜか「育てたのは俺」感が出ている。

 別に大声で言っているわけではない。

 だが、会う人会う人、相手を選ばず言い散らかしている。


 ルーカスが不在の大部屋で、その話題を何度も出した後で。


「俺、余計なこと言ってないよな?」


 ゴードン団長が確認するように聞くと、誰も答えなかった。

 沈黙に耐えきれず、ゴードン団長は焦った顔で続ける。


「心配してるだけだぞ?」

 

 近くにいた若手たちは、目を合わせないまま、そっと視線を逸らした。

 その時だった。


「……団長よぉ」

 うんざりした声が、机の向こうから飛んできた。


「すべての人の行動に首を突っ込む前に」

 スズークだった。書類から目も上げず、深く息を吐いた。

 

「すべての業務に首を突っ込め」


 ゴードン団長は口を開けたまま固まり、数秒後、ゆっくりと椅子に座り直した。


 その夜。

 自室の机で、ゴードン団長は一枚の紙を前に腕を組んでいた。


 題名はまだ書いていない。

 どうせ誰にも出さないのだから。


 ――俺は、何であんなに言いふらしたんだろう。


本編『掃除係アイリス』完結後の外伝②、連載です。


このお話は、恋愛や結婚を描く物語ではありません。


結婚したいわけでも、したくないわけでもない。

自分が何を望んでいるのかも、まだ分からない。

そんなルーカスの、日常を追っていきます。


次話では、結婚相談所という騎士団とは真逆の静かな場所に行くことになります。

よろしければ、もう少しだけお付き合いください。

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