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元公務員が異世界転生して辺境の勇者になったけど魔獣が13倍出現するブラック地区だから共生を目指すことにした  作者: 甘酢ニノ
序 勇者、この世に誕生する

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〜2〜

 魔獣は、四足歩行のオオカミに似た黒い煙の塊のような姿をしている。

 大きさは多種多様で、掌に乗るくらいのサイズのものもいれば、腹で街1つ潰せそうな巨大なものも発見されている。

 家畜や野生動物とは違う進化をした生き物だとか、魔に当てられただけの普通の動物だとか、色々な説は出ているが明らかになっていない。

 勇者の仕事は、その魔獣を退治することだ。


 そして、勇者の働き方は2パターンある。


 1つは、パーティーを組んで未開の地の開拓に向かうフリーの勇者。

 フリーといっても主に国からの依頼で働くし、傷害保険や死亡保険等々の手厚い保障がある。魔獣の棲処に自ら行くのだから相応の危険は伴うが、養成学校を卒業した勇者が魔獣にやられて死ぬようなヘマをすることはまずない。

 俺もフリーでやっていこうかと考えたが、人知れず泥だらけになって働くのは御免だった。


 もう1つは、俺のように各地に配属されて住民を守る街付きの勇者。

 凶暴な魔獣と遭遇することは滅多にない。うっかり人に近付き過ぎた魔獣を追い払い、場合によっては退治するのが仕事だ。

 人から尊敬されてちやほやされるには、やはり人がいるところで働かなくては。そう信じてこの道を選んだ。


 その選択が間違っていたと、今なら分かる。

 前世から引き続き、見通しの甘い人間のようだ。報告書に載せる市民意見をまとめながら、俺は頭を抱えていた。



・山の方から鳴き声が聞こえてきたから見てくれ。今すぐに。市民の命を守るのが仕事だろうが。


・木陰が揺れたのは魔獣がいるからだと思う。倒してくれ。私が死んだらどうするつもりか。


・ホテルの裏に魔獣がいる。姿を見た事はないが俺には分かる。間違っているはずはない。必ずいるから捕まえて証拠を持ってこい。


・一意見として聞いてほしいが、山の中を毎日監視した方がいいのではないか。街の勇者として当然の仕事なので言われなくても既にやっているかと思うが、まさか、やっていないのか。


・魔獣が心配だから夜通し広場に見張りに立て。街の勇者なのだから、それぐらいするのは当たり前だ。言われなくてもやってくれないと困る。これだから最近の勇者様は。



 +++++



 この街に配属されて早7日。

 俺は首都にいるオグオン大臣に連絡を取った。オグオンは勇者の先輩であり、養成学校の教官であり。勇者になった今は上司でもある。通信機を鳴らすと、低い声ですぐに応答があった。


『アウビリス』


「ホーリア」


『何だ?』


「時間外労働が多い」


『それで?』


「早朝も深夜も関係なしに市民が事務所に押しかけて来る。通信機も一日中鳴り響いていて休む暇がない」


『それで?』


「寝る間も食事の時間もない」


『飯時は避けてくれるように私から魔獣を説得しろと?』


「まさか。時間外の給料はどうなっているのか聞いているだけだ」


 通話の合間にも、通信機の向こうで誰かがオグオンに話しかける声が聞こえた。首都の勇者だけあって、相当忙しいらしい。

 オグオンは俺が黙るのを待つように短く沈黙した後、常時と変わらない穏やかな口調で続けた。


『支払えるのは固定給だけだ。勇者は全国に散らばっていて、こちらでは業務時間が把握できない』


「それは、そうだが」


『時間外労働については、市と交渉してくれ』


 オグオンがそれだけ言って、通話がぶつんと切れた。

 通信機を置くと、すぐにまた呼び出し音が鳴り響く。放心している俺の横からニーアが通信機を取ると、怒鳴り散らしている住民の声が通信機から漏れてきた。


「勇者様、山の見回りはもう行ったのかと、市民の方から連絡が……」


 ニーアは、初日と比べるとずいぶん疲れた顔をしていた。俺が着任してからニーアも仕事に追われて事務所に泊まり込んでいる。

 副市長に案内された勇者の事務所は、遠方から配属されて来た勇者が住み込みで仲間と一緒に仕事ができるように準備されているものだ。ニーアは市内の自宅に帰っていいはずなのに、仕事が忙しくて帰る暇がない。

 俺はニーアが差し出した通信機に後でかけ直すとだけ言って通話を切り、市庁舎に向かった。

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