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そんなある日、私に久しぶりの縁談が来た。
相手はブラッド・カークという方で、私の一つ年上の16歳らしい。
今回も多分うまくいかないだろうとは思った。何しろ今まで会った全ての人がお姉様を好きになって私はお断りされているのだ。
結果は見えているので最初から断ろうかと思ったけれど、そう口にしたらせっかくお前などに話が来たのだぞとお父様に怒られてしまった。
私は渋々ブラッド様に会うことにした。
ブラッド様は、今までの縁談で会った誰よりも美しい方だった。金色の髪に赤い目。整った目鼻立ち。いかにも貴公子らしい少年が、向かいのソファから私に微笑みかけている。
私はそんなブラッド様を冷めた思いで眺めていた。
どうせこの人もお姉様を好きになるのだろう。それなら早めにお姉様を見てもらった方がいい。私はこの後ブラッド様をどうにかして今日中に姉と会わせられないか頭の中で計算する。
しかし彼は予想外の言葉を口にした。
「はじめまして、メイベル嬢。絵姿の通り可愛らしい人だね。姉君と少し目元が似ているんだね」
ブラッド様は私の目を見て微笑む。私は驚いて聞き返した。
「姉を見たことがあるのですか?」
「ああ。以前、王宮のパーティーでお会いした。少し挨拶を交わした程度だけれど」
「それならどうして私に婚約の話なんかを? お姉様ではなくていいのですか?」
思わずそう尋ねてしまった。求婚者の殺到しているお姉様だけれど、まだ婚約者は決まっていない。どうせホワイト伯爵家の令嬢と婚約するのならば、お姉様の方がいいとは思わなかったのだろうか。
しかし私の疑問にブラッド様は不思議そうな顔をした。
「どうして? 私が求婚したいのはメイベル嬢だよ」
「本当にいいのですか?」
「ああ。絵姿を見たとき、とても可愛らしいご令嬢だと思ったんだ。実際に見て印象通りの素敵な人だと思った。君がいいと言ってくれるなら、ぜひ婚約の話を進めたい」
ブラッド様はそう言って笑う。その笑顔を見た途端、心を撃ち抜かれる音がした。
この人はお姉様と会った上で私を選んだくれたのだ。あの美しいお姉様ではなく、目立たない私の方を。
私はすっかり感動して、ブラッド様のためにどんな努力でもしようと決めた。
***
それから二年。私はブラッド様に好かれようと日々頑張ってきた。
入りたかったルヴェーナ魔法学園への入学は諦めた。魔法学園に入りたいと考えていると話したら、ブラッド様に顔をしかめて止められてしまったのだ。ああいう場所は普通の令嬢が行く場所ではないと。
お父様もお母様も、せっかくの縁談を学園に入りたいだなんてわがままのせいでなしにするのはよくないと言った。それで途中まで進んでいた入学手続きを、ほぼ強引に取り下げられてしまったのだ。
学園に通えないのは悲しかったけれど、大人しく諦めることにした。こんな私と婚約してくれたのだから、両親の言う通りブラッド様の意見を尊重しないと。私は前向きに考えることにして、独学でできる限り魔法を学んだ。
それからは、呼ばれるままにブラッド様の家に行って、ブラッド様のお母様やお姉様に気に入ってもらえるようお話相手になったり、彼の家で運営している商会の手伝いをしたりして、毎日ひたすらがんばった。
一緒にパーティーに出るときは、常に彼の意向通り振る舞えるよう神経を尖らせていた。頑張っていればブラッド様に喜んでもらえると思ったから。
しかし、私のそんな態度は逆効果だったらしい。むしろブラッド様を疲れさせていたようだ。