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10.懐かしい香り

「大丈夫よ、リーゼ。あの子はあなたを心から愛しているわ。

だから二度とあんなことは起こらない。

安心なさい。あなたは今まで通り、あの子を信じて側にいればいいのよ。ずっとそうだったでしょう?悪い夢は終わったの」


そういって微笑む姿は慈愛すら感じるけれど、ようするに、魔法についてこれ以上聞くことは許さないということね。


「残念ながら魔法のなぞが解けない限り、殿下をお慕いすることは難しいです」

「まぁ、私の言葉では信じられないと言うの?」

「……ちょっとした間違いだから待って欲しいと言う言葉を信じて大人しく待っていた結果がこれでした」


左手で前髪を上げ、傷痕を見せる。

卑怯かもしれないけど、先に脅してきたのはそっちだもの。

王妃様に歯向かうなんて初めてだから、心臓がバクバクして手汗が酷い。

誰か助けてと心の中で唱えていると、足音が近付いてくる。ゆっくりと音がした方を向く。


「母上だけリーゼとお茶を飲んでるなんてズルいな」


終わった。人生終了のお知らせです!

助けを求めたのは絶対に貴方ではないのに何故来るの。怖いって言ってるじゃない。

いえ、最近はあまりにも意味分からなさ過ぎな執着が気持ち悪くて怖いのは無くなったかもしれない。でもそれでは何の解決にもなっていないのよ。

とりあえず、お願いだから隣に立たないで!


「ふふ、リーゼがやっと怖がらなくなって嬉しいな。本当になぜ私は君にあんな酷い事ができたのだろう。時を戻せるならあの時の自分を殴り殺したいよ」


殴りたい、じゃなくて殴り殺したいの?

怖いよぉ、帰りたいよぉ!

だって目がまったく笑ってない。本気で言ってるの?


「……あの、不可能ですよ?」

「そうかな。じゃあ、私も指の1本でも切り落としたらいいのかな。それとも顔を潰す?でもあまり汚い顔になると隣に居たくないよね。どうしたらいい?」


……なにこれ。魅了魔法ヤバイ、完全にぶっ壊れてますよ?もう無理、泣きそうっ!

涙が零れ落ちるのを必死で我慢していると、殿下がこちらに手を伸ばした。


「ひっ!」


思わず悲鳴が漏れる。怖い怖い何!?

一瞬動きが止まったけど、そのまま私の涙を拭う。そしてソッと私の前髪を上げた。

私はすっかり硬直し、息を止めたまま殿下を見つめることしか出来ず。


あ、気が遠くなりそう……そう思った時。


ふわりと殿下から懐かしい香りがした。

シトラスの爽やかな香りはジーク様によく似合っていて、あの頃と変わらない香りに胸が痛む。


ちゅっ、と額に温かいモノが触れた


───はっ?


何が起きたか分からず、呆然とする。

王妃様も固まっている。


「……あの時の自分は殺したいけど、私が付けた傷だと思うと……有りかな」


もう無理……

私はそのまま気を失った。




……あったかい。でもどうしてまだジーク様の香りがするの


目を開けるとまさかの殿下にお姫様抱っこで運ばれてる途中でした。


ぎゃっ!どこに運ぶの!?


「でででででで殿下!何をしてるんですか!」

「おはよう。眠ってる姿を見れて嬉しかった」


眠ってません!気絶です!そんな溶けそうな笑みを向けないでっ!!

助けて離してとジタバタすると、仕方がないなとゆっくり降ろしてくれた。

私は今日一日で寿命が縮みまくったと思います。


「殿下。私はもう貴方の婚約者ではありません。ですから、このような接触をしてはいけませんわ。どうか他の者にお任せ下さいませ」


従者も護衛もいるじゃない。なぜ貴方が運ぼうとするのよ。

もう、疲れ切って大声を出す気力もないわ。


「君の体を他の男に触れさせろというの?許せるわけないだろう。何、私を試してるのかい?」


どうしてそんなにピリピリした空気にするの。

まだ何もしていない従者が困惑しているわ。

もう、どうしてこんなにポンコツになったのかしら。会話が成り立ちません。

確かに前も大切にしてくれてたけど、ここまでの独占欲はなかったのに。いえ、どうかしら。私が彼しか見てなかったから、そんなことが起きなかっただけとか?

もしかして、このポンコツが本当の殿下?

黒歴史が増える一方だわ。




お城に泊まっていけばいいという、ありえないお誘いを頑として断り帰路につく。

精神的に疲れ過ぎてこのまま意識を手放したいくらいだけど、気絶とはとても危険な行為だということを先程理解しました。お家まで頑張れ私。


「お父様、ただ今帰りました」

「お帰り、リーゼ。何もなかったかい?」


めちゃくちゃ色々ありましたよ?何から話せばいいのか分からないけど。とりあえずは、



「殿下がすっかりポンコツで怖いです」


一番の問題を報告しました。


不敬な発言は止めなさいと窘められましたが、今日の出来事をすべて話すと。


「本当に魔法で壊れてしまわれたのか?」


ほら。お父様だってそう言うじゃない。


「しかし困ったな。お前に許される為に自分を傷付けるというのは。それも脅しじゃなく本心から言っているのだろう」

「はい、本気の目でした。王妃様も真っ青になっていましたし」


もう、マルティナ公女がポンコツにした責任をとって結婚したらいいのに。

諸悪の根源に悪態をつく。それくらい許されるはずです。

これからどうしたらいいのかしら。









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― 新着の感想 ―
魅了の魔女は禁呪に手を出し、王家の婚姻を壊したのだから国賊レベルでしょう。 幽閉とか甘い処分ではなく公開処刑して、貴族家を脅す王妃と壊れた王子を幽閉するのが妥当なのでは。
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