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1.悪夢の始まり

アルファポリスで連載していたものを加筆修正して投稿しています。




今日も彼は最愛の恋人を連れている。


愛おしそうに見つめ、何かを話しながら彼女が嬉しそうに彼の腕にその華奢な手を回し、彼はそんな彼女の頬に口付けを落とす。


なんて幸せそうなのでしょう。理想の恋人達だと学園の皆が噂をしています。


──彼は私の婚約者なのに


リーゼロッテがジークハルト第二王子殿下の婚約者になったのは11歳の時。

その年は王家主催の成人前の子供向けのパーティー、ようするに王子殿下の婚約者探しの為の集まりがありました。

ジークハルト王子殿下は私の1つ年上で、王妃様譲りのプラチナブロンドにアクアマリンの瞳で、優しげな顔立ちのとても綺麗な方でした。


いかにも王子様という風貌だわ。


まさか自分が選ばれるとは思っていなかったので、あんなに美しい方のお眼鏡にかなうのはどんな令嬢かしら。とのんきに考えながら、初めて見る王宮でのデザートをたっぷりと楽しんで帰りました。


しかしその数日後、信じられないことに王家から婚約の打診が来たのです。


「……リーゼ、殿下とはあまりお話しをしなかったと言っていなかったか?」


お父様が蒼白な顔で(つぶや)きましたが、私は嘘なんかついていない。自己紹介以外にお話などしなかったもの!


リーゼロッテはブリッチェ伯爵家の長女。爵位は高くないが、国内でも有数の資産家だ。

柔らかく波打つハニーブロンドにヘーゼルアイ。美人のお母様に似て、そこそこ可愛いのでは?と自画自賛するけど、王子殿下に見初められるほどの美しさではないと思う。

やっぱり資産目当て?それとも第一王子殿下を(おびや)かさない程度の地位も良かったのかしら。


「お父様、お断りするのは難しいですよね?」

「……そうだな。お前は健康だし、婚約者もいない。お断りできる理由がないよ」


愛のある結婚がしたい……なんて貴族が言ってはいけないもの。ありがたくお受けするしかないわよね。


「分かりました。お受け致しますわ」


他国との貿易で財を成してきたお父様は、勤勉でお前を愛する婿を見つけよう、といつも言って下さいました。でも、残念ながらそれは無理な様です。せめて殿下が勤勉だといいのだけど。


「お姉様は王子様と結婚するの?お姫様になるの?」


7歳になったばかりのユリアーナだけが嬉しそうに笑っています。

ユリアよ。王子妃はそんなに良いものではないと思うわ。

王太子である第一王子殿下のスペアという立場だから私もがっつり王子妃教育を受けないといけないのよ?

ああ、責任が重いっ!

ユリアみたいに王子様に憧れていたら幸せだったのかしら。



◇◇◇



「リーゼロッテ嬢、婚約を承諾してくれて嬉しいよ。これから頑張るからどうか私を好きになってね」


程よい家門だから選ばれたのだと、愛のある結婚を諦めていたけど、実際にお会いしてみるとまさかの一目惚れだと言われて本当に驚きました。

お茶会で皆が殿下と話をしようと牽制し合っている中、一人だけ嬉しそうにケーキを食べいる姿が可愛らしくて好意を持ってくれたそうです。

え?そんな理由で選んでよかったのかしら。そもそもそれって褒められてる?


最初は不思議な始まりだったけど、彼は私を本当に大切にしてくれ、会う度に好意を示してくれました。

それが嬉しくて、私も少しずつ彼に惹かれていったのです。

王子妃教育が大変で泣きそうな時も、彼の為なら頑張ろうと思えるようになっていきました。


頑張って素敵な女性になったらもっと好きになってくれるかしら。


そう思った時、私はジークハルト様のことがいつの間にか好きになっていることにやっと気付きました。


「ジークハルト様、いつも私を大切にして下さってありがとうございます。

私も……お慕いしております」

「リーゼ、本当に!?」


私が想いを伝えたのは15歳の時。あの時の喜びに満ちた顔を今でも忘れられません。


それからは本当に幸せでした。

今までは週末にしか会えなかったけれど、リーゼが学園に入れば毎日会えるね、と嬉しそうに話してくれて。

入学してからはその言葉の通り、公務でお休みの日以外は毎日一緒にランチを食べ、時間があれば図書室で勉強したり、中庭でお話ししたりと同じ時間を過ごしました。


このまま幸せな日々が続いて行くのだと、そう思っていたのに──


入学してからひと月ほど経った頃、それはなんの前触れもなく起こりました。


「…これからは一緒に食事が出来ないのですか?」

「ああ、それじゃあ」

「あ、待ってジーク様っ!」


私の返事も待たずに(きびす)を返す彼を慌てて呼び止めました。すると、今まで見た事も無い冷たい視線を向けられたのです。


「その様な愛称で呼ぶのは止めてくれ。不愉快だ」


吐き捨てる様に告げられた私を拒絶する言葉。

殿下の側近の方達も何が起こっているのか分からないという表情です。


「いったい何があったのですか?教えて下さい、どうしてしまったの?」


こんなジーク様は初めてで、何故と尋ねることしか出来ませんでした。


「どうして?本当にどうしてお前などを選んでしまったのだろうな。時を戻せるなら絶対に選ばないよ。

この婚約は政略的なものだ。私に愛を望むな。私の前に姿を見せるな、話し掛けるな。

お前に望むのはそれだけだ」


なんてことを……。私に愛を囁いたのはほんの数日前のことなのに。こんな暴言を吐かれるような何かを私はしてしまったというの?


人払いもしていない学園内の通路での会話だったため、その噂はあっという間に学園中に広まってしまいました。

最初は友人達も慰めてくれて、私自身も何かの間違いで、すぐに仲直りできるはずだと信じていました。

しかし、殿下の冷たい態度は変わることなく、一度勇気を出して話し掛けたけど、まるで存在しないかのように無視されました。

そんな様子を見て、殿下が本気なのを(さと)ったのでしょう。それまで仲の良かった友人も不興を買った私といて巻き込まれるのを嫌がり、少しずつ離れて行きました。


そして、彼の側にはいつも美しい女性がいるようになりました。

フリーゼ公国からの留学生マルティナ公女。

大公と異国の踊り子だった女性との庶子。

でも、そんな出生であっても惹かれずにはいられないと噂されていた女性です。

(つや)やかな黒髪に鮮やかなエメラルドの瞳。そして蠱惑的な肢体。

女性の目から見てもとても魅力的な方です。


殿下は心変わりされたのね……


そう気付くのに時間は掛かりませんでした。


こうして私は学園でひとりぼっちになってしまったのです。









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