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婚約解消を求められた令嬢は、涙を流しその場を去っていった。

作者: りら


「私と婚約解消してほしい。君の愛には応えられないんだ」

「…この婚約は家同士のもの。侯爵様の許可はすでにおとりですか?」

「当然だ。許可を事前にとらないなど愚か者がすること。父上を説得し、すでに許可を得ている。明日にでも父から連絡がいくだろう」

「…わかりました。私からも父へ話をしておきます。今までご迷惑おかけしまして大変申し訳ございませんでした」

アンネリゼはそう言うと口元を隠し去っていった。頬に雫を零しながら。



*****************



私はユリウス。ベネッツ侯爵家嫡男。父はこの国の騎士団長であり、その息子である私は、将来その後継となることを求められている。そのため、私の身も心もこの国のため、王のために捧げるつもりだ。

私の妻になる者にはそれを分かってもらわなければならない。しかし、アンネリゼは、自分への愛ばかり求めた。私に愛をささやき、束縛し、他の女性が私と会話しようものならば嫉妬しその者を裏で呼び出し蔑んでいた。そして、自分と同等の、いやそれ以上の愛を私に求めた。今まで婚約者として配慮はしてきたが、もうこれ以上彼女には応えられない。


*****************



アンネリゼは、涙をこぼしながら、淑女として許されるかどうかギリギリの速度で走った。放課後、学園の中庭にはたいてい人がいない。呼び出されたのが中庭でよかった。建物の陰に隠れ、急いでハンカチで涙を拭くが、あふれ出る涙はなかなか止まってくれない。ぐりぐりとハンカチをこすりつけ、学園前で待っている我が家の馬車に向かった。

「っアンネリゼ様!?」御者はアンネリゼの異変に気付いたが、口元に人差し指をあて、それ以上何も言わないように指示した。馬車に乗り込むと、我慢していた涙がまたあふれ出してきた。


アンネリゼはハーシュ伯爵家の長女である。1年前、ベネッツ侯爵家のユリウスとの婚約が結ばれた。婚約を申し込んできたのはベネッツ侯爵家からであったが、ユリウスはアンネリゼにいつも冷たかった。最低限の交流さえもしてくれなかった。お茶をしていても、外出していても、ユリウスの都合でいつも切り上げられた。手紙を送っても返事はなく、お祝いの贈り物をしても何も反応がない。騎士は国のためにその命を捧げる、それは分かっているが、それでもこの1年間アンネリゼは婚約者としてユリウスに愛を伝え続けた。


自邸に馬車が到着した。出迎えてくれた執事のフリッツに父への謁見を求める。許可が下り、すぐに父の執務室へ向かった。


「アンネリゼです」

「入れ」

「失礼いたします」

「アンネリゼ!?」入室したアンネリゼの赤く染まった瞳を見て、父はアンネリゼのもとに駆け付けた。


「お父様…」アンネリゼの瞳から再び涙があふれ落ちた。学園でも、馬車でもあれだけ泣いたのに、どんどんあふれてくる。

「お父様…ユリウス様から婚約解消を言い渡されました。明日にでも侯爵様から連絡が来るとのことです」

「そうか…。アンネリゼ、よく頑張ったな」そう言って父はアンネリゼの頭を優しくなでてくれた。

「おとう…さま…。おとう…さ、まっ。ふっあぁぁぁぁ」号泣するアンネリゼを、父は泣き止むまで優しく抱きしめてくれた。



翌日、アンネリゼが目を覚ますとすでにお昼を過ぎてしまっていた。ひどく目が腫れてしまっている。昨夜、侍女のミリアが目元を冷やした後、温かいタオルで温めるなどして頑張ってくれたのに…。

「ミリア、せっかく頑張ってくれたのにごめんね」

「いえ、私の手が及ばず本当に申し訳ありません。アンネリゼ様の御目をこんなに腫らしてしまい…」ミリアは項垂れている。ミリアをこんなに落ち込ませてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「夕食は召し上がれそうですか?その前に軽食も準備できます」

「ありがとう。クッキーがいいわ。庭で食べたい。夕食はもちろん食べられるから、昨日は食べられなくてごめんなさいと料理長に言っておいて」


ミリアがクッキーと紅茶の準備をしてくれた。紅茶は蜜のような甘い香りがし、口に含むと、口の中にじんわりと甘さが広がっていった。私の一番大好きな紅茶だ。穏やかな風が気持ちいい。庭に咲いているバラの香りが鼻をくすぐり、心が安らいでいくのを感じた。



夕食のため食堂に入ると、父、母、兄がすでに待っていてくれた。


「アンネリゼ、早速だが本日ベネッツ侯爵と婚約解消の手続きをしてきた」

「お父様、お手数おかけしました」

「アンネリゼは悪く無い。フリッツ、シャンパンの用意を。…今日の夕食はアンネリゼの好物ばかりだよ。料理長が腕を振るってくれた」

「お父様…」


「アンネリゼ、本当に本当によく頑張った。今日はお祝いだ!乾杯!」

「「「乾杯!」」」



「アン、本当よく耐えたね。1年間頑張った。明日は兄と出かけよう。お祝いに髪飾りを買ってあげるよ」

「いいえ、アン、母と観劇でも見に行きましょうね。新しいドレスも仕立てましょう」

「もう少しでアンネリゼが不幸になってしまうところだった。父のせいでベネッツ侯爵家からの婚約の申し出を断れず、アンネリゼに苦労を掛けてしまった。1年間も本当にすまなかった。本当に、本当に、婚約解消になって良かった!」

「お兄様の作戦通りになりましたわ。お母様の細かいご指示も本当に助かりました。友人達も快く協力してくれて…。婚約解消が嬉しくて昨日は泣いてばかりでごめんなさい。お兄様、お父様、お母様本当にありがとうございました!」



*****************



本日アンネリゼとの婚約が無事解消された。

私は将来この国の騎士団長になる男だ。そのため、私の身も心も、この国、そして王のために捧げるつもりだ。妻よりも優先しなければならない。私の妻になる者にはそれを分かっている女性でなければならないのに、アンネリゼは、自分への愛を常に求め、私を束縛し、他の女性が私と会話しようものならば嫉妬しその者を裏で呼び出し蔑むような悪女だった。高潔な私にはふさわしくない。

今まで婚約者として配慮はしてきたが、もう彼女に割く時間は無くなった。

お茶を飲んでいる暇があれば剣をふるいたい。外出する暇があれば鍛錬をしたい。嘘でも愛をささやいている暇があれば筋トレをしたい。婚約者へのプレゼントを選んでいる暇があったら走りこみたい。

そうだ、運動後に摂取するタンパク質をもっと上質なものに改良しよう。この6つに割れた腹筋、盛り上がった上腕二頭筋、迫力のある大腿四頭筋、鍛えられた素晴らしいこの肉体、そしてそれに見合う凛々しい我が顔。全てが整っている。なんて美しい。

毎朝鏡に全身を映してのポージングも欠かせない。常に自身の肌・筋肉の状態をチェックし、何かあればすぐに調整しないとならない。それがこの国のため、王のために身も心も捧げる私の務め。騎士団長とはこの国の顔となる者、常に美しくあらねば。



さて、将来騎士団長となる者は独身ではいられない。婚約者の選定を父に任せていては、今までのように私にふさわしくない女性ばかりになる。これで婚約解消は5回目だ。この私に見合う未来の妻は自分で探さなければ。




騎士団長は世襲制ではありません

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バカ息子の父「…いっそ、僧侶になるか?バカ息子よ。 結婚しろなんて言わなくて済む。」 バカ「え?何をおっしゃってますか?父う」 ゴンッ(拳骨が炸裂) バカ「うごおォォォォ、痛え(涙目)。」 父「早…
後半「アレ?」となりましたが最後の一文wwwww 継げないから安心して自分磨きを一生やってろとしか
シリアスだと思ってたら最後がコメディだった(笑)!! そりゃ逃げられる訳だわ〜〜婚約解消した者同士ネットワークありそう… そんな事言ってる割に実技駄目そうですよね…
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