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魂はバリアノバ王国へ


 ジョセリンは、この力というより特異体質と言うべきか。これに初めて気が付いたときのことを思った。

 

 あれは四歳の時だった。


「おじい様は風邪で寝ていらっしゃるから、お部屋には入ってはいけませんよ」


 そう言われたことが、幼心の好奇心に火をつけた。

そっと、おじい様の部屋に入ってみると、枕元に置いてある琥珀色の瓶が目に入った。

それは実は薬だったのだが、幼いジョセリンにはとても美味しい飲み物に思えて、つい一口飲んでしまった。

 

 ふと気が付くと自分がおじい様のベッドの下で眠っているのが見えた。なぜ自分が見えるのだろうと最初は不思議に思ったが、幼い心は順応性が高い。ふわふわしている自分がとても楽しくて、部屋の天井辺りをグルグル回った。

 外にも出てみたいと思って窓を開けようと思ったら、取手がつかめなかった。その代わり、そのまま手が外に出た。ちょっとびっくりしたが、すり抜けられることを知ってワクワクした。

 それからは屋敷の上を飛び回り、使用人の前に顔を出したりしたが、誰も気が付いてくれなかった。

 厩に行くと、馬たちが興奮したので、動物には気配が分かるようだった。


 それから、身体に戻ろうかと自分の身体を捜したが祖父の部屋にはなく、自分の部屋のベッドに寝かされていた。

 傍には母のエリッサが心配そうにジョセリンを見つめ、今は宮廷医長であるフィデル先生がジョセリンの手を握っていた。


「どうも、ただの睡眠とは違う気がします」

「というと?」

「深い深い眠りとでもいうのでしょうか。脈と呼吸がひどくゆっくりでして......。気が付いてくれると良いのですが」


 それを聞いてジョセリンは慌てて自分の身体めがけて落ちて行った。

 

「あ、ジョセリン、気が付いたのね。良かった! おじい様の部屋であなたを見た時は驚いたわ。声を掛けてもゆすっても目覚めなかったから、何か大変な病気かと思って先生に来てもらったのよ」

「ごめんなさい。お母様。おじいちゃまの薬飲んじゃったの」


 そこでフィデル先生にいろいろ聞かれたのでジョセリンは正直に答えた。


「奥様、これは魂の離脱現象だと思います。きっかけになったのはあの風邪薬だと思いますが、過去の事例などもう少し調べてご報告します」

「はい、お願いします」


 次の週に来た、フィディル先生は沈痛な面持ちで両親とジョセリンの前で次のように語った。


「過去の事例を調べてみました。そこで分かったことは......」


 この症状を持つ人間は数万人に一人と言われている。だから分からないことも多い。ただ、魂の離脱が一日以上続くと体に戻るのが困難になり、そのまま亡くなった事例が何件かあるということ。

 

 最初のきっかけは人それぞれで、その後何もない人もいれば、何度も離脱できる人もいる。離脱現象は自分がそう望めばできるようだ。

 体に負担はかかるので、何度も経験すると、身体が成長しないこともあるらしい。


「ジョセリン、お空を飛びたいと思って寝たら大きくなれないから駄目だよ」と言われた。


 ジョセリンも大きくなれないのは困るので、それからはちょっとだけ試したこともあったけれど、部屋からは出ないようにしていた。


 十二歳くらいになって、ある程度身体が成長してからは、少し冒険してみたいと思うようになった。


 そして気が付いた。一度行ったところには飛んで行かなくてもそこへ行きたいと望むだけで瞬時にその場所に自分の魂が存在できるということを。

 

 考えたら実体がないのだから、それは可能なのだ。便利なことに暑さ寒さも感じない。風の強さも関係ない。水の中でも平気だが、怖くてあまり深い所にはいかないことにしている。


 動物には意志が通じるということも発見した。馬や家畜などの耳元で命令すると彼らはその通り動いてくれるのだ。

 もちろん、人には全く見えないし言葉も通じない。物もつかむことも出来ない。ただ聞いて見るだけだ。

 

 六歳の双子の弟の部屋は面白かった。二人ともベッドから落ちて寝ていた。

 ホールディンやランダルの所へ行ってみようかと思ったが、さすがに、他人の寝室への出入りは良くないと思って控えた。


 

 十四歳の頃、紅色に染まる明け方の山々に魅入られ、ついそちらの方に飛んで行った。いくつもある湖は美しく朝の光に映え、その上を小舟のようにゆらゆらしながら漂うのは楽しかった。山の中には珍しい動物もいて、つい時間を忘れて戯れていた。

 ハッと気が付いて身体に戻った時には、自室が大騒ぎになっていた。

両親はもとより、フィデル先生、ランダル、ホールディンまでいた。


 母のエリッサはジョセリンに縋り付いて泣いていたので、ジョセリンは戸惑って

「お母様どうしたの? なぜみんなここに?」と声を出したら、

「ああ、神様、ジョセリンを戻してくださってありがとうございます」

とさらに泣かれてしまった。


 どうやらジョセリンは一日近く魂を離脱させていたようだ。


 後で話をよく聞くと、サシャが朝、ジョセリンを起こしにきても全然起きてくれないので、疲れているのかと思いそのままにしていた。

 昼過ぎても、ジョセリンが起きてこないのでこれはおかしいと思い、夫人に知らせた。それからは公爵の知るところとなり、フィディル宮廷医長が駆け付け、ホールディンとランダルも来たという。


 脈や呼吸は段々遅くなり、

「もしかすると、このまま目覚めないかもしれない」と先生が顔を曇らせたという。


 それからは、フィディル先生にも両親にも魂の離脱を禁止されてしまった。



 けれど、今回ばかりはこの特異体質を使わなくては何も分からない。彼の無事を確かめるだけでもいい。

 

 ジョセリンはバリアノバ王国の王城はまだ行ったことがないので、瞬時にそこへ行くことは出来ない。眠る前にじっくりと地図を確かめた。

 

 この国ウィンブッシュ王国との国境にある緩やかな山を越えると、平原が広がる。その向こうにあまり大きくない川ワサンが流れている。ワサン川を渡ると、いくつかの町や村が点在する。そして大河にぶつかる。バリアノバ王国の首都エズラはその大河の向こう岸に面している。

 商業路は通っているが、それを辿ると時間がかかる。直線距離を探さなくてはならない。


 首都の大通りを真っ直ぐに小高い山の方へ向かうと王城がある。行方不明と聞いているランダルがそこにいる可能性は低いが、最初に事情を探ってから動くのが正解だろう。


 ジョセリンは頭の中にそれをたたき込んだ。そこまで行くのに時間にすれば多分一刻もかからないとは思うが、あまりのんびりもしていられない。


 

 軽く湯あみを済ませ、軽食を口にして蜂蜜入りのお湯を飲んだ。

誰からも見えないにしても、夜着ではまずいと思い、ひまわりの柄のワンピースを選んだ。実は以前、ランダルに可愛いと言われたからだ。


 まだ陽は傾いてはいないが、暗くなると道が分からなくなるので、サシャとエリッサに「行ってきます」と言って、ベッドに入った。


 まもなく身体から魂が抜けだした。このふわっとする感触はわりと好きだ。自分の寝姿を見るのも意外と楽しい。

 

 ジョセリンは頭の中の地図を頼りにひたすらバリアノバ王国へ向かった。

 

 

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