素直じゃないなら仕方がないもん!!
よろしくお願いします(´∀`*)
追加:誤字報告ありがとうございます!わりとめっちゃすごいのあってうわー!でした!
お礼が遅くなりすいません!ありがとうございました!
子爵令嬢ロキシーはブチ切れていた。
それというのも先日の夜会で行われた婚約破棄騒動のせいだ。
新年の祝いにはよほどの理由がない限り全ての貴族家が出席する。そんな席で王太子ミシェルはやらかした。
「メルルーサ!!貴様との婚約を破棄する!!」
総員またかよであった。
彼の婚約破棄宣言は今回が初めてではない。何度もやっては愉快なご冗談ですなあで流されている。
彼と公爵令嬢メルルーサとの婚約は政略的なものだった。現在では有能すぎるメルルーサを手放さない為のものである。ミシェルはそれも気に食わない。
そもそも勝手に婚約者を決められたのが不満で、五歳での顔合わせから暴言暴行を繰り返している。
それでも婚約は破棄されない。弟王子を立太子させメルルーサをそちらの婚約者に…というようなこともない。
なぜなら
「で、殿下あっ……♡そのように愛を叫ばれては……私、私……!たまりませんわあ…っ♡♡!」
これだ。
初対面の顔合わせでミシェルに茶器を投げつけられ熱い紅茶を浴びせられ、周囲が青ざめる中メルルーサは頬を染め瞳を蕩けさせて「あ…ありがとうございましゅう♡」とのたまった。
青ざめていた周囲は首を捻り、怒りで赤くなっていたメルルーサの両親は青ざめた。
うちの子どM?
なにこれ目覚めちゃったの?
混乱する中ミシェルは暴言を投げ続け、メルルーサは照れて身を捩らせていた。
大人たちは戸惑いつつも、なんかまあ…相性はいいみたいだし………いっか!!となり、婚約は成立した。ちなみにあつあつの紅茶含めて、その後のどんな暴力もメルルーサに傷を負わせることはなかった。六歳で魔王を倒したメルルーサは五歳の時から固かった。
それからもミシェルは根気よく暴言暴行を続け、メルルーサは愛を深めていった。
その様子はロキシーも、貴族子女の通う学園で日々目にしている。
ちなみに王子にすり寄るような女はいない。メルルーサはミシェルが妾を望めば、私に嫉妬し苦しませようと…♡嬉しいですわあ♡と許すだろうが、国が排除している。普通に。あと大体みんな二人の言動に引いているのでそういう女自体があまりいない。
そんな訳で、ミシェルが婚約破棄だと叫ぶのも一度や二度ではなく、あーまたか…と流されていたのだが——…
「そういうとこだ!!そういうとこが嫌なんだ!!
罵倒されて暴行されて喜ぶんじゃない!!気持ち悪いんだ!!気持ち悪いんだよ!!ちゃんと嫌がれドMの変態女!!!」
半泣きで訴えるミシェル。
まあ気の毒になと思わなくもない。メルルーサはぬばたまの黒髪の天下一品の美女だがなんかきもい。ミシェルが関わらなければ心優しく優秀な淑女なので、皆尊敬しているが同時に引いてる。
大嫌いな相手と結婚しなくてはいけない。それは辛い。よくわかる。
ロキシーは少し同情する。しかしそもそも暴言を吐かなければいいのだ。普通にそうだが、この場合特に。被虐趣味と知っていてなぜわざわざ喜ばせるようなことをするのか。あほか。
などと考えていたのだが——……
「うふふ……ふふ…♡変態だなんて……♡あらでも私、罵られて喜んだりはしませんわ」
「「「「は????」」」」
いやお前どの面下げてと全員が思った。
「何を…!!!何をぬかすか!!
貴様これまでずっと俺の罵倒を嬉しがっていたではないか!!これが変態でなくなんだというのだ!!」
「だって……男性が、好きな女性に素直になれず、照れ隠しに嫌がらせをするのは……よくある事でしょう?」
は??????
「だから私……殿下が強く嫌がられるほど、こんなに照れていらっしゃるなんて、どれほど私を好いておられるのかと嬉しくて……♡♡」
メルルーサがきゃっ♡と顔をおおい、ミシェルは絶句して膝をつき、ロキシーは青ざめ——メルルーサの母、公爵夫人ギンダラははっとしていた。
ミシェルとの顔合わせより前、甥っ子——メルルーサにとっては従兄弟——が遊びに来たことがある。
その子供が、メルルーサの黒髪を不気味だなんだと罵倒し、そんな悪意に晒されたことのないメルルーサは泣き出した。そう、泣いたのだあの時は。
クソガキとその親は出禁にしたが、メルルーサがどうにも自分の髪をみっともないものと思うようになってしまった。メルルーサの髪は亡くなった祖父からの血が濃くでており、両親とは髪色が違ったせいもあるだろう。
落ち込むメルルーサが見ておれず、言ったのだ。
男の子は好きな子に照れて意地悪しちゃうことがあるのよ。本当はあなたの髪が美しくて大好きで褒めたかっただけ——
素直なメルルーサはそれを信じ復調し——今に至るまで信じ続けていたのだった!
だからミシェルとの顔合わせであの様な目にあっても、まあ照れちゃって♡と嬉しがっていたのだった。
ギンダラはうわー!!となっていた。うちの子被虐趣味じゃなかったー!!私のせいだったーー!!!ごめんーーー!!!
とはいえおかげで婚約が上手く?行ってるわけではあるのだが——……
パン!と国王が手を叩いた。
「やれやれ!ミシェルの照れ隠しにも困ったものだな!!早く素直になれればいいのだが!
メルルーサや、これからもミシェルに呆れず愛してやっておくれ」
「もちろんですわあ♡うふ…うふふ…♡」
ということでまたも婚約破棄はなかったことにされ、おあついですなあ、あてられてしまいましたなあ、などの追従が囁かれる中——
ロキシーは、絶望していた。
ロキシーの婚約者こそ——照れて素直になれず暴言暴行に及ぶ男だったからである!!
そして今、ロキシーは学園の中庭でブチ切れている。
「おいブス!聞いているのかブス!!
返事くらいしろ能無し女!!」
目の前にいるのは婚約者のポールだ。
耳まで赤くしながらロキシーを見つめ罵倒している。
死ね。
初対面からポールがロキシーを好きなことはわかっている。顔に出ている。だからなんだ。
初めからポールはロキシーに対し暴言を吐き、髪を引っ張るなどの暴行に及んでいた。
そしてポールの親もロキシーの親も、あらあら照れちゃって♡と止めることはなかった。
死ね!!!!
ロキシーの心は憎悪でみちみちである。
今ではメルルーサのことも憎んでいる。
なぜなら——……
「何黙ってやがるクソブス女!!!それでも淑女か!?メルルーサ様のように喜ぶべきだろうがクソブスが!!」
これだ。
今まではよかった。罵倒されて嫌がるのは普通だった。メルルーサが受け止めているのは変態だからと思われていた。
しかし先日の夜会で——
「好きな子をいじめちゃう男♡」に、国がお墨付きを与えてしまったのだ!!!!
好きな子いじめという、ありがちといえばありがちな(許されないが)話だったのがまずかった。
照れ隠しの嫌がらせくらい赦すべきという風潮ができてしまったのだ!!
まーーあ連中図に乗った。
両親もあっちの両親も、ほらあーメルルーサ様も仰ってるんだから!!である。
そして婚約者はそれまではあった、本当は素直に話したい…という葛藤を捨てて、更に暴言をひどくした。
周囲もかわった。それまでは被虐趣味じゃないんだもの、辛いわよね、だったのが、まあひどいけど本当は好きなんだから許してあげたら?殿下ほどじゃないんだし。となった。
マゾにはなれずともスルーはできるやろというわけだ。
できるかあ!!!!
死ね!!!!
暴言暴行の記録をとって裁判所に訴え出るか、でなれりゃ結婚式の夜に全員殺し被虐嗜好のない身にはあまりの虐待に耐えきれずと訴え、死後も醜聞に晒してやろうとしていたのに台無しだ!
「おい何黙ってやがるゴミクズ女!!薄汚いツラ余計に陰気にしやがって!ほら笑え!わーらーえーよ!!メルルーサ様を見習えや!!」
「あら私?」
メルルーサが現れた。
眼輪筋を震わせた王子の腕をとって。
婚約破棄後の王子はガチクソ怒られるのでしばらく大人しいのだ。
「これはメルルーサ様!殿下!私もお二人にはおよびもつきませんが、婚約者には素直になれませんで!このクソボケうすら馬鹿女にもメルルーサ様を見習えと調教しているところです!」
溌剌としたポールが言う。死ね。
「まあ……!そうでしたの……♡うふふ……♡素敵ですわね♡」
てめえのせいで詰んだわくそが。
「ほらメルルーサ様も仰っておられる!俺がこれだけ罵倒してやってんだから喜べ薄汚い豚女!!」
死ね。
「まああ♡おあついことね♡」
死ね。
「返事しろや舌がねえのかゲロカスが!」
死ね
「笑えつってんだろがよ愛されて嬉しいでしゅうううて小便垂らして」
死ね
「喜べや生きてる価値もねえ最下位ブスが——」
「死ねやおらあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
パァンッ!!!
ロキシーの拳がポールの顔面に炸裂した。
「なあっ…ぶっ!!」
パパパパパパパパンッ!!!連打である。
ロキシーの拳は、揺すった木から舞い降りる木の葉全てを掴む速度をもつのだ!!
「死ねやボケがてめえが死ねゴミがゴミがゴミがゴミがてめえが死ねてめえが死ねてめえが死ねてめえが死ね」
あまりに高温の炎が静謐さを持つように、透徹した怒りでもってロキシーは、悪罵をつげながら連打を浴びせた。
「なにをっ…!!やめっ…!!」
ポールが掴み掛かろうとするが、ロキシーは見事なフットワークやスウェーでことごとくそれをよけ、更に拳を浴びせる。
踏み込んでは遠ざかる、蝶のように舞い蜂のように刺す攻撃であった!
ロキシーには師匠がいた。
日々の忿懣に、部屋でクッションを殴るなどしていたロキシーだったが、ある時庭で思い出し怒りにかられ拳で宙を打った。
それをたまたま見ていた庭師——元拳闘士の——が、「お嬢には才能がある!!」と、稽古をつけてくれることになったのだ。
走り込み鶏を追い生卵を飲んで腹を壊し階段をかけあがった。
苦しいことも辛いこともあった。庭師は「立て!立つんだ嬢!」と励ましてくれた。言われるまでもなくロキシーは立ち上がった。
いつか必ず奴らを殺す。熱い想いを胸に。決意を拳に。
そして今———……!!!
「てめえに罵られるいわれはねえんだよ誰がブスだよにやけづらしやがってよくもまあクソ面下げて表にでられんな恥知らずが鏡ねえのかてめえんちはあってもわかんねえかどたまにクソしかつまってねえもんな暴言暴行しか脳のねえ底辺ゴミカス野郎が息してんじゃねえよ臭えんだよおら殴ってやってんだから笑えよ笑え!笑え笑え笑え笑え笑え笑え死ねーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
口が悪いのは庭師のせいである。
「ぐぶっ!!」
一際深く踏み込んだロキシーがレバーブローを叩き込む。衝撃にポールの体が浮くほどに。そして—
「死ねやオラア!!!!!」
ガッ!!!
眉間に拳を叩き込み、浮いた体を地に叩きつけるように——打ち下ろした!
ドサッ……
あとにのこるのは息を荒げたロキシーと、もはや動かぬポールである。いや違う、周囲には人がいた。
もとよりポールの罵倒で耳目を集めていたところにこれである。皆唖然としてこちらを見ている。
ロキシーはふー…と深く息をつき——…
「素直になれなくて、つい」
「素晴らしいですわあーーーーーーーーー♡♡♡」
わあああーーー!!
メルルーサが飛び上がって喜び手を打ち鳴らした。周囲ものせられて拍手し、よくわからん歓声をあげている。
万雷の拍手の中、ロキシーはたたずみ、去来する思いに浸っていた。
「そこまで愛されるなんて、婚約者の方もお喜びですわね!!健やかな寝顔をしておられるわあ♡」
原型をとどめていないが。
「そうですね。言葉も大事ですが、行動で示すことも必要かと考えまして。殿下もそうしておられましたし」
「まあ!その通りですわね…うふ………♡あらやだ、でも私、あまり行動で示せておりませんわね……」
メルルーサは愛を告げるのに衒いはないが、身体接触はミシェルからの暴行と、腕を絡めるくらいがせいぜいだ。
「それはそれは…口付けなどはされないのですか?」
「それはっ……!!そんな、だって、私……
恥ずかしくて」
ロキシーの目がかっぴらいた。
「ならば照れ隠しですわ!!!殿下もそうしていらっしゃったでしょう!!行動でしめしておられたでしょう!!髪を掴み引きちぎり殴り蹴り水に落とし地に埋め爆薬をしかけ狼をけしかけ象に踏ませ屋敷に火をつけ毒薬をしこみ剣できりつけ銃で撃ったでしょう!!恥ずかしくてハグもチューも素直にできない殿下はそうされたでしょう!!ならばお応えするしかありません!!恥ずかしくてハグもチューもできないのなら照れ隠しくらいはできるのでは?それくらいはして差し上げなければ殿下がお可哀想ではないですか!!!」
「んなっ!!!」
「まあっ!!」
ギョッとする王子。まさか。まさかそんな。
メルルーサは六歳にして魔王を倒した女だ。それが。そんな。
「そう……ですわね」
胸の前で手を組んだメルルーサが言う。
「私にも……殿下ほどには難しくとも……
ロキシー様くらいには……」
メルルーサの手がゆっくりと持ち上がる。
「好きだーーーーーーーーー!!!!!」
ミシェルは叫んだ。死ぬ!!無理!!やばい!!
「好きだメルルーサ!!!俺は素直になった!!!
今まですまん!!!俺は素直だ!!!お前も素直でいろ!!!!頼む!!!!好き!!!!!」
ぶちゅーーーーー!!!!!
メルルーサの照れ隠しを防がんと、ミシェルはメルルーサを抱きしめ口付けた。
メルルーサは蕩けて気絶した。
さてそれから——ミシェルは「素直に」メルルーサに愛を告げるようになり、暴言暴行はなりをひそめた。死にたくない。
メルルーサも喜んでそれに応え、はたからみればラブラブカップルとなった。
また、ロキシーと同じように図にのった馬鹿により傷つけられたものたちが訴えをあげ、こりゃまずいってんで国が動いた。
暴言暴行ってほんとは好きとか関係なく駄目だからね!王子も反省したからやめようね!ということになり、数組の夫婦が離婚し、数組の婚約が解消され、監禁されていた数名が救出された。
ミシェルは内心憤懣やるかたなく煮えたぎっていたが、命惜しさにメルルーサに愛を示すうち、素直に喜びはにかむメルルーサに、こいつもこうして見れば普通だな、となった。
どんなに虐げても蕩けて喜んでいる姿は不気味だったが、優しくされて喜ぶのは当たり前のことだ。
そうなると、なんなんだよこいつ!という思いがなくなり、段々とメルルーサへの憎悪が薄れていった。考えてみれば優秀で美人で一途に自分を愛している女であって、そんなに嫌がることでもないな、となったのだった。大体逃げられないし。こわい。
そんなわけで、ついに二人は名実ともにラブラブカップルとなったのである。
一方ロキシーだが、倒れたポールを人気のない裏山に首だけ出して埋め、親たちに思いの丈を思い切りぶつけ、ぶつけまくって、庭師を伴い隣国へと出奔した。
その後は女拳闘士として活躍し、おおいに名をあげ、引退後は小さな料理屋を開き、幸せに暮らしたという。
♡完♡
お読みいただきありがとうございました!!
埋められたポールは薄々嫌われてる気はしてたけどほんとに嫌われてたんだなあとしくしく泣きました。
親たちは生きてはいますが、そんなに嫌だったなんて…&国からの怒られも発生ししょんぼりしました(´∀`*)




