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第1話 未踏

つい最近の事なのに、もう随分と昔の事のように思える。

あれは…そう、暑苦しくも太陽の日に照らされながら、山道を登っていた瞬間とは裏腹に、肌寒く薄暗い空間の中、俺は目を覚ました。


「ここは…」


床に手を付き、身体を起こしていく。

今にも床が抜けまいと警告しているかのように、

辺り一片からメキメキと音がしていた。


視界に入った光景を簡潔にお伝えしよう。

そこら中に張り巡らされた蜘蛛の巣、生い茂った苔や草、古く錆びれた木造。


誰が一目見ても分かる。古小屋、言わば廃墟だろう


とりあえずここから出ようと、扉を目先に足を踏み出したその時、ドスンと音が鳴り響いた。


「なんだこれ…」


自分の身体が床に倒れ込んだ音だった。

途端に足に力が入らなかった。それだけでは無い。

全身が気だるく、痛みが広がっていた。


自身の姿に目を向けると、その瞬間、時間が止まったように感じた。


再び時間が流れる頃には、状況の整理はまだ出来ていなかった。


大量の出血や痣を確認できたが、驚いたのはそこにではない。

獣のように全身に靡いた毛、何本か折れているが、鋭く長い爪、頭を触ると、柔らかい、突起のような物がある感触がした。


とても人間の姿ではない。言い換えればそう。

まるで魔物のような。


兎にも角にも、魔にも物にも、ここから出なくては、外の様子が知りたい。

ほふく前進をするかの如く、俺は身体を捩らせながら古小屋から出た。


「ぁあ…ちょうどいいや…」


古小屋を出た先には木の棒が落ちていた。

俺はそれを杖の代わりにし、身体を起こした。


辺りには木々や植物が生え広がっていた。

恐らくここは森の中だろう。

さっきからこの古小屋をかすかに照らしていた光の正体が分かった。


すぐ目の前には街灯があった。まるで道標の如く、それは奥にも転々と続いていた。


もはや何も考えることなく、迷いもなく俺はただ街灯を頼りに、足進める。



しばらく進むと、集落が見えてきた。

また、さっきまでの静寂とは裏腹に、何やら賑わっている様な声が聞こえてきた。


ようやく誰かに会える…

その期待を胸に、俺は高く佇んだ策から覗き込むように集落に視線を向けた。


先程の予想とは打って変わった、彩りの乏しい景色に、息が詰まった。

賑やかだと思っていた声と雰囲気は、罵声と暴力へと変わり、歓声だと思っていたものは悲鳴へと変貌を遂げた。


目の前で起きているイベントは、とても残酷で、どこか見覚えがあった。



魔物が魔物を虐めている。まさしく異様な光景。

俺は声を出すことは愚か、息を飲み込むことも難しい中、その場にただ立ちすくんでいた。


暫くすると、奴らは俺の存在に目を向けた。


「ゃべっ…」


咄嗟に声が出たと同時に持っていた杖を落としてしまった。


気づかれた。奴らはニヤけ面かましながら、俺の元へとゆっくりと近づいてきた。


未踏の地へ来ていきなり生死を彷徨うイベント発生に、俺は正しく絶体絶命。



「おうおうおう誰かと思えば死に損ないの劣等種族のチビ野郎じゃねえか」


「なんだおまえまだあるけたのかよ。」


「まーたいじめられにきたのかゼミー?!」



必要以上に俺に罵声を浴びせた、かなりガタイの良い、俺の身長2人分はあるであろう無駄にデカイこいつは、恐らくこの群れのボスだろう。


その次に、連なるように俺に詰め寄ってきたコイツは、蔑む様な目で俺の事を見下していた。

手には刃物が握られている。


最後のゼミガメ野郎の手には、大きな石が握られていた。


コイツらが俺の出血と痣の原因か、

俺の事を知っているのだろうか。


そんな事を悠長に考えていた時、ボスであろう一人が、拳を高々と振りかざした。


「まっ…!」



グォーン グォーン



殴れる、そう悟り、歯を食いしばった矢先、

遠くから鐘の音のようなものが聞こえてきた。


「やべっ急がねえと」


「遅刻するゼミ…!」


ボスを皮切りに、その三人衆は集落の奥、どデカい建物へと走り去っていった。


先程まで三人衆から集中砲火を浴びていたであろう、その場に横たわった傷だらけの魔物と、自身のみがその場に残された。



俺はすぐに悟った。ここは地獄だと。

夢か、或いは転生したのだろうか、いずれにせよ俺はこの未踏の地で、どう生きていけばいいのだろう



















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