お雑煮
――あの日、1日4本に制限した“バナナ生活”を成功させて以来、ゴリラはその手応えを噛みしめるように、今日もまた――1本入りバナナを手に取ろうとしていた。
「ウホウホ!」
ゴリラはおやつタイムにと、バナナ革命1本を手に取りカゴに入れる。
目的のバナナを手に入れたことで、子供のような笑みを浮かべて、今度はお雑煮に使用する具材を確認する為に、もう一度スマホへと目を向けた。
「ウホ……ウホウホ」
上から、順に大根、人参、白味噌、おもちが表示されている。
ゴリラは画面を見ながら頷く。
「ウホウホ」
だが、大事なことを忘れていたことに気付いた。
まともな料理はこのゴリラ生の中で、ほとんどしてこなかったということを。
しかし、それは仕方のないことだった。
彼の主食はあくまでもバナナなのだから。
「ウホゥ……」
ゴリラはその事実を思い出したせいで背中を丸くし小さくなっている。
すると、後ろから誰かが話し掛けてきた。
「ゴリラくん、どうかしたの?」
「ウ、ウホ?」
ゴリラが振り返ると白い帽子に白色の衣服。
髪の毛は帽子の中に入れており、青色のエプロンをつけてる薄化粧の女性。白波珊瑚、45歳がいた。
彼女は果実などの陳列係であり、このマルデ・プラザの社員。
そしてゴリラとはよく果実の鮮度について語り合う仲でありバナ友である。
「ウホ、ウホウホゥ……」
「なになに? そんなことで落ち込んでいたの?」
「ウホ……」
「大丈夫よ! 出来ないことくらい誰だってあるわ」
「ウホ?!」
「ええ! ホントよ!」
「ウホウホ……」
「ふふっ、一生懸命働いているんだから、少しくらいの贅沢はいいんじゃないかしら? お雑煮もレンジでチンすれば出来ちゃう時代なんだから」
「ウホウホ?」
「そうよ! だから、気にしないことよ」
「ウホウホ!」
「うふふ、でしょう?」
「ウホ!」
「はーい、せっかくの大晦日! 他にも美味しそうな物、たくさんあるので見ていってね」
「ウホウホー!」
ゴリラは珊瑚の言葉に背を押され、野菜・果実コーナーから牛・豚・鶏肉コーナーを通り抜けて、店内の一番端に位置するお惣菜コーナーへと向かった――。
☆☆☆
――10分後。
時刻【11時10分】
店内で作られたお惣菜などが、陳列されているコーナー。
ゴリラは途中の【お買い得価格】というポップに、足を止めながらも、何とか目的地に着いていた。
「ウホウホ……」
そんな彼は、おすすめされたお雑煮を前にして、真剣な表情を浮かべている。
その視線の先には【本日のお買い得品】と書かれたポップと【大晦日限定】と書かれたポップが並んでいた。
違いは使用された食材の数。
お買い得品は5品目。
大晦日限定品は11品目である。
具材の数もそうだが、容器も明確に違った。
11品目の食材が入っているお雑煮の容器は、正面には謹賀新年と金色の文字で書かれたTHE大晦日、お正月といった外観をしている物で。
特価のお雑煮には、黒色と赤色のコントラストが特徴であるいつもの容器が使われた物だ。
その価格差は100円差。
この差がますます彼を悩ます原因となっていた。
安い方を買えば、その100円でバナナ1本は買える。
だが、もう今日のバナナは買った。
ではせっかくの大晦日、贅沢をしてもいいのではないか。
ゴリラの頭の上で、天使と悪魔が戦う。
どちらの声も、それぞれにもっともらしい意見を言ってくる。
「ウホウホ!」
ゴリラはそれを振り払うように頭を振る。
そして2つのお雑煮を手に取り、商品をしっかりと見定める。
その表情は、リモート会議などで打ち合わせをするときより、真剣な表情だ。
太く立派な眉毛も眉間に寄ったままで、ピクリとも動かない。
ゴリラは2つのお雑煮を持ったまま、目を閉じて考えた。
心から、楽しむスタイルならばどちらがいいかを。
ゴリラは悩んだ末に答えを決めた。
「ウ、ウホゥ!」
そして、目を閉じたまま、選ばなかった方のお雑煮をそっと戻して、ゆっくりと目を見開く。
「……ウホゥ」
彼の手には、容器に金色文字が書かれた、11品目の食材が入ったお雑煮があった。
せっかくの大晦日、心から楽しむには……という自問自答を重ねた結果。
こちらの方がいいと考え至ったのだ。
悩んでいたことが解決したことにより、その頭の上で争っていた天使と悪魔も仲良そうに手を取り合って、
「ウホウホ!」
ゴリラもスッキリとした表情を浮かべていた。
こうして、ゴリラは今日の戦利品である至高のバナナである、バナナ革命とお雑煮を購入し、満足そうな顔をして社宅へと帰っていった――。
☆☆☆
――この後、街なかで【もういくつ寝るとお正月】と口ずさむゴリラの姿が目撃されましたとさ。
ウホウホ




