淡い恋心
――10分後。
時刻【19時20分】
パーク内に入場出来たゴリラ達は、まずどこに行くのかでもちきりとなっていた。
第一候補は、やはりお腹が空いては戦はできないということで、パーク内のレストランで食事。
第二候補は、この時期しかやっていないパーク内を徘徊するゾンビ達を見に行くこと。
第三候補は、キラキラと輝くイルミネーションと乗車時に選べる音楽が人気のホープライドというジェットコースターだ。
「ウホウホ?」
「そうですね……もうご飯時は過ぎていますし、私達。仕事を終えてから何も食べていませんしね」
「僕もすももさんの意見に賛成っす!」
「うんうん! 犬太の言う通り、確かに今が狙い時だな」
3つも候補があれば、意見が分かれてもおかしくはないが、彼らはバナ友。
根っこの部分で……いや、房の部分で繋がっているのかも知れない。
意見が一致した3人と1頭は、パーク内散策しながらも、レストランへと向かった。
☆☆☆
目的のレストランがあるエリアまで、あと少し、あと少しだったのだが――。
「……グォォォォオ!」
「肉ぅ……新鮮な肉が欲しいぃぃーー!」
ゴリラ達の前には、精巧な特殊メイクと役者達の演技により、本物にしか見えないゾンビの集団がいた。
通り抜けるにもゾンビに群がる人混みを避け、ふいに背後から現れるゾンビの襲撃にも備えなければならない。
「うわぁぁぁー! ゾンビだぁぁぁーー!」
体を鍛えてはいても、まだまだゾンビは怖いお年頃の犬太はすっかり怯えてしまい誠に抱きつき離れない。
抱きつかれた誠はというと怖がってはいない。
だが、犬太に抱きつかれたことが少し嬉しいなら、緊張するやらその歩みを止めてしまった。
「その……け、犬太! い、一回落ち着こう!」
「でも、やばいですって! 誠さん……ゾンビが、ゾンビがいっぱいいるんっすよ!?」
その姿を見たゴリラは隣にいるすももに「ウホ!」と一言告げ、2人の元へと駆けつけようとする。
ゴリラは完全に勘違いしていた。
彼の目には、怯えているように見えたのだ。
それを理解したすももは、制止しようと手を伸ばし声を掛けた。
「あ――っ! ゴリラさん違いますよ!」
しかし、一度バナ友、可愛い部下の為に動き始めたゴリラを止めることは出来ず、その場に倒れそうになる。
「わ――っ!」
いつぞやの公園のように、顔面からスライディングをしたかに思えたが――。
「ウホォ!」
しかし、ゴリラの声響くと同時に、倒れかけたすももの視界がぐらりと揺れた、その瞬間。
視界の中央に、サングラスをかけたバナナ先輩――ゴリラが、すっと滑り込んでいた。
そう、彼が彼女の倒れそうになった一瞬の間に、華麗な体捌きで滑り込み、抱き止めていたのだ。
「ゴ、ゴリラさん……」
「ウホ!」
「あ、ありがとうございます……」
ゴリラのなにも考えていない、無垢な笑顔にすももは頬を赤らめてしまう。
彼女にとってゴリラは、ピンチのたびに駆けつけてくれる“騎士”のような存在に見えていた。
「ウホウホ!」
意図せず、心を撃ち抜いたゴリラは当然と言わんばかりに太い首を横に振り、すももをひょいっと持ち上げて、優しく降ろした。
「ど、どもです……」
先程よりも、赤くなる頬。
「ウホウホ」
対して全く気付かないゴリラ。
そんな絶妙にズレたやり取りが交わされる中。
少し遅れて、ゴリラの、その見事な体捌きに周囲から拍手喝采が起こった。
「ウ、ウホ!」
なぜ称賛されるのかわからず、ゴリラはきょろきょろと慌てふためく。
もはやゾンビどころではなく、皆ゴリラの扮したバナナ先輩に釘付けである。
「ふふ、大丈夫ですよ……いいことしたから皆、褒めてくれてるんです。それに……私も嬉しかったですから……」
ゴリラの袖口をきゅっと握って、あるがままを伝えるすもも。
彼女の言葉によって、ゴリラは落ち着きを取り戻し、その手を握って感謝を伝えた。
「ウホ!」
「こちらこそです」
1頭と1人の中にいいムードが漂ったことで、この騒動を目にしていた観衆からは、再び拍手喝采と「お幸せにー!」などといった、恋人同士に掛けられるような声が飛び交った。
主役がゾンビからゴリラとなってしまったことで、周辺いたゾンビ達は悔しそうな奇声を上げながら別のフロアへと消えていった。
☆☆☆
――30分後。
時刻【19時50分】
目的のレストラン、【ジャングルドンタッタテイク】
樽をモチーフにしたデザートや、バナナを使ったデザートの品揃えが豊富で、店内も樽やバナナをモチーフにした飾り付けとなっている。
ゴリラ達はその店内にいた。
ゴリラの前には、ジャングルバナナデラックスという、バケツサイズの器にバナナ+ホイップクリーム+カスタードクリームの3層の上にバナナチップスとバナナアイスクリームが乗ったパフェが。
3人の前には、マグカップサイズのジャングルバナナミニがあった。
「主任はやっぱり凄いっす! コスプレしているのにあの動き! 痺れました!」
ゴリラの活躍により、ゾンビ達に囲まれ怯えていた犬太はいつも通りになり、活躍したゴリラを褒め称えている。
「ウホウホ!」
それが嬉しいゴリラはパフェを頬張りながら、満足気だ。
「凄くカッコよかったっすよ! なんか騎士みたいでした!」
一方、抱きつかれ幸せを感じていた誠は、少し残念そうな顔をしながらも、転けかけたすももの様子を気遣っていた。
「すももさん……大丈夫ですか?」
「えっ――あ、はい。……大丈夫です」
すももは言葉を返したが、その間も誠の顔を見ていない。
いつもの彼女なら、いい雰囲気を邪魔してすみませんというくらいの気遣いを見せてもいいはずなのに。
その目線の先には、ゴリラがいた。
すももは、このタイミングで完全に落ちてしまったのだ。
恋に。
それでも、まだこれが恋なのかは気付いていない。
今の今まで恋というものをしたことをないのだから。
☆☆☆
この後、テーマパーク内には、「キラキラと輝くジェットコースターで両手を挙げ、バナナパーカーをはためかせてはしゃぐゴリラと、同じようにはしゃぐ男性、それを愛おしくそうに見つめる女性2人の姿がありましたとさ。
ウホウホ




