現在と過去5
ノートを見て、ふと幼なじみの山内紫織のことを思い出した。アズミと同じように教育学部を卒業して、教師になった彼女は大人しい性格だったから、小、中学校の時は彼女を笑わせることで必死だった。
もちろん成績はよい方なので、高校はワンランク上の進学校で離れ離れになって、その後のことは知らなかったが、去年突然相談したいことがあると呼び出された。
何かと思えば、仕事のことで中学生の男子が何を考えているのか、分からないのだと。オレの中学時代とよく似た子がいるらしいが、何の相談にも乗ってやれなかった。その時はアズミのことはユーメに聞いた方が早かったから、こちらの仕事のことは一切話さなかった。
「会えないかな」
シオリはあの頃と変わらず、嫌な顔一つしなかった。
「オレってちっとも変わってないだろ?」
アズミのことを聞くはずだったが、いざ会ってみると、もう聞くようなことは何もなく、こんなことを言い出していた。
「ううん、だいぶ変わったわよ」
予想外の反応でどう答えていいのか、分からなかった。
「中学の時の来翔君、こんなに落ち着きはなく、ただ一生懸命で」
呼び方はあの頃のままだったが、シオリは学校の先生の顔になっていた。
「今でもその情熱は変わらないけど、冷静さがある」
話の流れから「それ、どういうこと?」と聞きたかったが、それはアズミを見ていれば、よく分かる。
さっきから黙っているオレの顔を見て、大人しかったシオリの方がまた話し出した。
「私、中学校の教師になって、よかった」
「でも、大変でしょ? オレみたいなのが一人いたら」
「だから、ライト君みたいな幼なじみがいて、助かったんじゃない? 私、この仕事をして、学生時代のこと振り返ることが増えた」
アズミもシオリみたいに過去を振り返るのが怖かったのだろうか――いや、いじめられても学校に行き続け、過去のいじめっ子を呼び出せるような度胸がある人間がそんな理由で夢を諦めるわけはない。「何か話したいことがあったんじゃないの?」とシオリは確認したが、「また今度――」と言って、別れた。




