事実と空想8
「ノゾミは学校に来てるの?」
アズミの顔が歪んだので、オレは一夏の出来事を話した。
「杉本君には関係ないから、いいって言ったのに」
喜ぶと思って、話したことだが、逆に怒らせてしまったようだ。アズミは事実がどうこうという前にオレの存在すら受け入れてないように感じた。
「これは学校の問題だから」
少し冷静さを取り戻して、話を続けたが、今度はオレの方が打ち切った。
「確かにオレは余計なことでまでしてしまったかもしれないけど、ノゾミは自分で学校に行くと言い出したんだから」
「学校に行けばいいという問題じゃないの。私だって家族には迷惑かけれなくて、ちゃんと行ってたけど、ミライは――」
その姉の気持ちなんか知らずに自分がいじめられることばかり考えて、不登校になったとでも言いたいのか――確かに、ミライもノゾミも自分の殻にとじ込もって、周りが見えてないところがあったが、自分の殻に閉じこもっているのはアズミも同じだった。
「寂しかったなら、連絡くらいくれたらよかったのに」
そんなことじゃないのとアズミは否定した。
「何かあったの?」
アズミのさっきからの様子を見て、オレは聞いた。アズミはこういう質問をしないと、自分の話を切り出せないのだ。
「ミライが倒れたの。働き過ぎで」
アズミもミライも便りがないのは元気な証拠だと思っていた。大学の時はあんなに元気だったので、信じられなかった。
「入院中も杉本君に会いたいってミライは他人にも迷惑かけていくのよ」
「なぜ教えてくれなかったの? 相談してくれてれば、何か力になれたかもしれないのに」
「なぜって杉本君に迷惑かかるからに決まってるでしょ? なら、高野さんのこともなぜ私には相談してくれなかったの?」
「アズミがすぐ関係ないって言うからだよ」
アズミが楽になれない理由は知っている。いつも何かに縛られて、解放感がないのだ。助けて欲しいなら、助けて欲しいと言えばいい。
確かにオレにはノゾミのことは直接関係ないのかもしれないが、ミライは違う。他人なんかではない。例え今、アズミとの関係が途切れても、大学の友人には変わりはないのだから。
オレはアズミからミライのいる病院を聞き出して、お見舞いに行った。ミライは少し痩せたようだが、以前と変わらず、オレの顔を見るなり喜んだ。ノゾミの話をしても、落ち込むことなく、最後まで聞いた。
「気分転換にまた旅行に行かないか?」
オレの提案にミライはいいねと賛成した。アズミが倒れたって言うから、何かの病気だと思ったが、そうではなかった。疲労が溜まっているだけだ。疲れを溜めやすい性格なのだ。
「今度は海外とか」
ミライは話を膨らませて、見る見るうちに元気になった。
空想は空っぽで無意味なものではない。ノゾミのように空想によってつらい現実から解放感されるのも一つの方法だ。しかし、それは現実から逃げているだけで事実を受け入れたことにはならなく、現実に戻ると、急に気力がなくなってしまう。
夢は空っぽの空想とは違い、実が詰まっている。いつかは実現する可能性を持っているということだ。オレ達の空想はやがて夢へと変わっていった。




