事実と空想4
数日後、兄が帰ってきて、また暴力を振るわれたという内容のメールが届いた。それに対してオレは「うちに来ていいよ」と自分の住所まで教えたが、ノゾミは来なかった。さすがに顔も知らない男のうちに行くのは抵抗があったのかもしれない。ノゾミは返信すらくれなかった。
こういう時に同世代の女友達でもいれば、そこに避難ができる。そして、両親が帰る頃に戻ればいいわけだ。それが一夏でも続けば、兄は頭を冷やすことだろう。オレもショータを悪者にしたくない。これが最善の方法だと思っていた。
それからまた一週間くらいして、ノゾミは覚悟を決めたらしく、荷物をまとめてやってきたが、そういうつもりで言ったわけではない。
「うちの人には伝えてきたの?」
「手紙置いてきた」
その手紙に兄のことやいじめのことを全て書き残したとい言う。
「それじゃ、うちの人、余計に心配するじゃないの?」
オレは説得したが、ノゾミは手紙を残してきて、今さら戻れないと言った。
しばらく考えた上で先輩に相談することした。
「そんなことなら、任せて」
世話好きの先輩はすぐ受け入れてくれた。未婚の男のうちよりは結婚して、子どもまでいる家庭の方が明らかに安全だ。
同じくいじめの経験を持っている先輩がどうにか説得してくれるだろうし、それを見守るユーメは不登校だったミライの家庭教師をしていたくらいだ。それにアズミが癒されるというユースケまでいるのだから。
「アズミは知ってるの?」
ノゾミを連れてきたオレに、ユーメはそっと聞いた。オレは、いやと首を振った。
最初はアズミのところに連れていくつもりだったが、ノゾミが学校に来ない事実を受け入れようとしていたアズミを思い出して、やめた。それに、何も関係のない母親まで巻き込むのはアズミが許さないだろう。
それで先輩のところというのはどうかと思ったが、他に当てはなかった。先輩はいじめのキズでも見せることだろう。それでノゾミは自分のキズと比較するかもしれない。そして、うちの帰る気になればいいのだろうが、その晩は連絡は何もなかったので、泊まったということになる。
ノゾミもケータイは持っているから、心配した両親はまずそのケータイに連絡するはずだ。それにあの先輩が上手く説明してくれたに違いない。オレは面倒なことを皆、先輩に押し付けたようで気がかりだった。




