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夢と現実12

春が来て、同学年の子達がどんどん就職が決まっていく。ミライも新しい職場に慣れてきた頃だ。


アズミは何も言わず、東京に向かった。見送りくらい行きたかったが、アズミがオレと距離を置いている理由が分かったから、そうしなかった。


一人ぼっちになったキャンパスで一年の出来事を振り返っていると、珍しい着信音が鳴った。

「お久しぶり」

アズミの声だ。オレはあぁ、久しぶりという言葉を返した後、気になったことを聞いた。


「そっちの生活は慣れた?」

「杉本君と会えないのが寂しい」

なら、戻って来いと思ったが、言葉にはならなかった。


「今から会えない?」と言い出したのはアズミの方だった。

「いつものとこで待ってるから」

アズミはオレの返事を聞く前に電話を切った。


アズミの言う「いつもとこ」は決まっていたので、仕方なく向かうことにしたが、来るはずがなかった。オレはしばらくそこにいて、思い出に浸っていた。


夕暮れに一人の人影が現れた。

「遅くなって、ごめんなさい」

いつものように謝るアズミの姿に目を疑った。また夢でも見ているのか。


「部活の練習があったから」

中学生のような言い訳をしたが、疑ったのはそれではない。

「ユーメも言ってたじゃない? 一年でやめるわけにはいかないでしょ? 」


「東京は?」

「行くわけないでしょ? 私がいないと杉本君も困るんじゃない?」

オレはしばらく状況が読み取れずにいた。アズミは最初から東京など行くつもりではなかったようだ。ただ周りの反応を試してみたかったのだと。


「山内先生から聞いたの、杉本君は本当はそんな人ではないってこと。もっと泣いたり、笑ったり、怒ったりする人だって」

確かにアズミに出会ってからオレは感情を外に出さなくなったが、アズミは最初からオレの気持ちに気付いていたのだ。それなのに、オレはアズミの冗談すら気付いてやれなかった。


オレはアズミの目が涙で滲んでいるのにやっと気付いた。アズミはオレの胸の中で怖いものに怯えている子どものように泣いた。すると、アズミの体温が伝わってくるのを感じた。


なぜ今までこうしてあげられなかったのか、冷静に考えてみた。いじめのキズを発見するのが怖かったのだろうか――アズミも誰にも悟られたくなかったから、人前で泣かなかったのだ。


しばらく泣くと、アズミは小学校の時のいじめが原因で中学校で不登校のなった少女の話をした。もちろんアズミのことではない。アズミはいじめられてもが学校から逃げ出したりしなかった。


アズミの現在の生徒の話だ。完璧主義のアズミにとってクラスがまとまっていないと感じるのも、その子のせいだ。学校にも出てこない子に追われている夢を見て、本当に東京でも逃げ出してしまいたいと思ったのだと。


クラス替えがあっても、その子はアズミのクラスのままだった。きっと卒業まで逃げられないだろう――いや、卒業しても付きまとうかもしれない。ミライを四年間見守り続けてきた教授があっさり手放せたのも悔いがない証拠だ。


医者はキズを見ないことには治療できない。心も同じでカウンセラーもそのキズに目を背けてはいけない。そして、教師も生徒と一緒に問題に直接向き合う必要があるが、教師も人間だ。時には泣きたいことも、怒りたいこともあるだろう。その涙や怒りを笑顔に変えられる仕事がしたい。オレは卒業後の進む道が見えてきたようだ。

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