現在と過去2
この二年間にオレもたくさんの過去の友人と会った。その中に小林直樹がいた。彼はオレの大学時代の友人でアズミとは小、中、高も一緒だったので、何か知っていてもおかしくないと思っていた。大学時代の話が一段落したところでオレはアズミの話を持ち出した。
「ごめん――あの時は本当に悪かった」
突然の謝罪で何が何だか分からなかった。「ノート――」とナオキが説明をし出した。アルバイトが忙しくて、ナオキにもノートだの代返だのお世話になっていて、こちらがお礼を言う立場だった――そう言えば、一度だけ一緒の授業を取っている友人がいなくて、見知らぬ女の子にノートを借りたこともあったっけ――ナオキの話で思い出した。そのノートの持ち主がアズミだと言う。
「オレなんだ、ノートを盗んだ犯人は」
ナオキは言いにくそうに言った。
「盗んだって?」
あのノートはオレが失くしてしまったのだと思い込んでいた。その後、別の子から借りたノートのコピーを持って、その女の子には何度も謝罪した。それで肝心の自分の分のコピーを忘れて、そのまま単位を落とした。それは自業自得だと思って、反省した。
「一度だけ勉強道具をウチに置いて、バイトに行っちゃったことあったじゃん、その時に――もちろんコピー取ったら、すぐ戻そうと思ってたんだけど」
「コピーってあの授業、お前も取ってたんだっけ?」
もしそうだったら、真っ先にナオキに借りていたはずだ。ナオキはしまったという顔をして、白状した。
「好きだったんだ、アズミのことが」
「あいつは小学校の頃、男子からいじめられてたんだ――」
ナオキはオレが知らなかった過去を知っている。オレが興味深そうに聞いていると、ナオキはいろいろ話してくれた。ナオキもいじめていた男子の一人で好きだとは言えず、汚い方法でしか接触できなかったのだと。
オレはナオキの話を聞いても、怒らなかった。ここで怒ったら、オレもアズミのことが好きだと言っているようなものだ。その気持ちをグッと抑えて、ユーメから聞けなかった情報を集めるので精一杯だった。
「返すよ、ノート」
「今頃返したって――」
「分かってるよ。ただ、ずっとあのノート持っていても、オレの気持ちの整理がつかないだよ。アズミ、今、お前の会社にいるんだろ?」
そのことを言われると、断る理由を失い、次の休日に取りに行く約束をした。
それから一週間、複雑な気持ちで出勤することになった。アズミは小学校のいじめが原因で中学では女子からも無視されていたらしいが、アズミは不登校などならずに毎日学校に出てきていた。
その頃だったと言う。ナオキがアズミの魅力に気付きはじめたのも。その学校にオレがいたら、どうなっていたことだろう。近くにいても、何も知らずに人を笑わせることしか考えていなかったオレが。
中学時代のオレも随分バカにされていた。それを冷ややかに笑う女子はいたが、無視はされなかった。だから、バカはバカなりに考えていた。物事を冷静に見る人の気持ちというものを。中学生のアズミは知らないが、今、目の前で仕事をしているアズミはすごく冷静だ。何の過去も感じさせないように。
ナオキの話ではアズミの両親は中学の時に離婚しているそうだ。それで名字が「桜井」に変わったから、同じ中学の人だったら、だいたい知っていることだそうだ。




