夢と現実7
夏休みにはミライと沖縄に行った。前の大学ではアルバイトで忙しくて、友人と旅行など行ったことなかった。
それ以前にナオキだったら、こんな暑い季節に沖縄なんてバカみたいだと言っただろうが、ミライは大学生活のいい思い出になると喜んだ。ミライも社会に出たら、こんなバカンスなんて無理だろうし、先輩のように子どもができると、それどころじゃないから、今しかないと思った。本当はアズミもと思ったが、夏休みでも部活動の顧問とか仕事があると言うので、誘わなかった。
そんなことをしていると、夏休みもあっという間に終わり、また現実の世界に戻らなくてはいけない日が来た。前の大学生活は寝ても起きても、夢を見ることがなく、その境界を実感することがなかった。
目の前の現実が突きつけられて、一人傷ついていた。アズミの甘酸っぱさに惹かれたのもそのせいだ。アズミに夢中になって、現実を忘れそうになったが、それで傷ついたものが癒されたわけではなかった。アズミの甘さの裏には酸っぱさが隠されていた。その酸味がオレのキズを深くしていったのかもしれないと南国の地で考えていた。
先輩の再就職先が決まったということで簡単なお祝いでもするから、オレにも来て欲しいとユーメが誘った。先輩は落語家の道でも、大学に戻るわけでもなく、普通の会社で新たなスタートをきることになっていた。
「ミライも呼んじゃダメかな」
いいけど――と答えるユーメはアズミのことを心配しているようだ。オレを誘うということは当然アズミを呼ぶことになる。
先輩は初対面で同じく就職先が決まったばかりの後輩を連れてきても歓迎するのは間違いないが、アズミが中学の時に別れたっきり会っていないという弟を連れてきて、どう思うのか想像もつかなかった。沖縄旅行だってアズミが行きたいと言うなら、アズミの仕事の都合でこちらが日程を調整することくらいどうにでもできたが、どんな反応をするか怖かった。
ミライは卒業がほぼ確定してるのにかかわらず、授業には出てきていた。ミライにとって学部の授業はそれほど興味深いものだったのだろうが、進学も考えず、社会に出る選択した。夢を実現させるのにもう少し時間をかけてもいいのではないかとまだオレはそんなことを思っていた。
ミライにお祝いの話をすると、喜んでOKした。この純粋で何も知らないミライがそう言うのは分かっていた。オレとユーメが心配しているのはミライが来るなら、アズミが行かないと言い出すことだった。
アズミがミライに対してコンプレックスを抱いているのはなんとなく感じていた。家庭教師も親友に頼んだくらいだから、そんな弟に対していい印象を持っているとは思えなかった。アズミにはオレから伝えておくとユーメには言っておいた。
「別に構わないけど」
アズミは意外とあっさりと答えた。他に何か用件があるわけではないので、じゃあ日曜日楽しみにしているからと電話を切った。