夢と現実6
ミライは父親のコネで就職先が決まった。「本当にそれでいいの?」というオレの質問に対して、「後悔するかもしれないけど、これでいい」としっかり答えた。
ミライはよく分かっていた。ほとんど世間知らずに育ってきたから、一度社会に出てみたいと言った。
「ねーちゃんみたいにいじめられるのが怖かったから」
ミライは不登校の原因についても話してくれた。アズミの父親は弱虫だから、いじめられるんだと言っていたそうだ。だから、ミライだけを引き取ったらしいが、こんなになってしまったから、少しでも恩返しをしないといけないと話した。
祖父母はアズミに家庭教師を頼んだそうだが、あの父親のところに行く気がせずにその代わり当時一番信頼のできるユーメを紹介した。後でアズミから聞いた話でミライは知らないはずだ。
オレはアズミが弱虫だと決して思わなかった。本当にアズミのことを知っている人間なら、決してそんなことを言わないだろう。おそらく仕事が忙しくて、アズミと関わる時間が少なかっただけと思う。先輩にもそういう親にはなって欲しくないと思った。
オレはサークルをやめる前に先輩から言われたことをもう一度言っていた。
「なんかその言葉、ユーメ先生も言ってた気が――」
ユーメがミライの家庭教師をしていたのは先輩に出会う前のはずだが、ほぼ同時期に同じようなことを言っていたと考えると、不思議な感じがした。先輩とユーメ、それにオレとミライ、そしてアズミは何か大きな輪のようなもので繋がっている気がした。