夢と現実4
ミライの就職先は相変わらず、決まらないようだった。この純粋さがなぜ大人社会には受け入れられないのか、苛立ちのようなものを感じていた。
ミライのミは「未」でなく、「実」だと自己紹介で聞いていた。「未」だ「来」ない「未来」でなく、確「実」に「来」る「実来」だと。母親がつけてくれた名前で本人も気に入ってるということだった。
「心理学部だし、カウンセラーとか考えてないの?」
オレはミライには最適だと思っていた。
「そういう不安定な仕事、父が許さないから」
ミライの父親は大手の会社で管理職をしていて、頭が固く、それが原因でミライが小学生の頃に母親と離婚をしていて、ミライは祖父母に育てられたそうだ。
「もうじーちゃん、ばーちゃんには迷惑かけられないし」
安定な仕事なら、学校の教師なんかどうかと思ったが、言うのをやめた。ミライは教員免許を持たないどころか、高校にも行ってない。大学生だからと当然のことのように出身高校について聞いていた。その時も落ち込ませてしまったのだ。
ミライは中学時代は不登校で進学できそうな高校は見つからなかった。それにあの父親がいい顔するわけがなく、ミライを甘やかしてきた祖父母の責任にした。それで祖父母は知り合いから家庭教師を紹介してもらい、ミライは高校認定試験を受けて、大学に入っていた。
オレもいつの間にかに学校帰りにユースケのところに行くようになっていた。ミライと一緒にいると、癒されるのは確かだが、逆にオレの方が落ち込ませてばかりで居心地が悪くなった。
今日はアズミが来てないせいか、ユースケの機嫌がよくなかった。先輩もまだだし、オレが帰ると、ユーメは夕飯の支度もできないほどだったので、オレはアズミが来るのを待った。
「ありがとう。よかったら、ご飯食べていって」
支度ができて、ユーメがそう言った時にはユースケの機嫌もすっかりよくなっていた。ユーメと二人っきりで話すのは実に久しぶりだった。オレ達の間にはいつもアズミか先輩がいた。
「加藤実来って知ってる?」
オレの質問にユーメは不思議そうな顔をしたが、もちろんと頷いた。ミライが祖父母の知り合いから紹介を受けた家庭教師はやはりユーメだった。ミライはサエとは違い、家庭教師の話は進んでして、その感じがユーメに似ていた。
「アズミの弟ってことだったから」
アズミに兄弟がいたことなんて聞いたことなかったが、両親の離婚前は分からない。アズミとミライは両親が離婚している点で話が合う。おそらく両親の離婚でアズミは母親のところへ、ミライは父親に引き取られたのだ。
アズミの名前の由来は知らないが、アズミのミもミライと同じ「実」だった。プライベートの話ができるようになっても、アズミが話すのは離婚後の話ばかりだったが、きっとミライと同じく母親がつけてくれた名前だろう。