夢と現実2
この学部には早川冴もいた。オレと同じ三年生になる彼女はオレの教え子でもあった――というのも、いろいろなアルバイトを掛け持ちでやっていた時の家庭教師の生徒だった。皮肉なことにちょうど大学三年の今頃だった。
五歳下のサエは高校に入ったばかりの女の子だった。中学時代は別の先生がつけられていたらしく、ワンランク上の進学校に合格できるくらい学力だったので、オレは必死になって、高校の勉強をやり直した。
家庭教師をやろうと思ったのは他のアルバイトに比べて、短時間の割に高収入だったからなのだが、それだけではなかった。他人から尊敬されてみたかったのだ。当時のオレの周りと言ったら、バカにされても当然の立場の者ばかりだったので、立場が変われば、バカにされずに済むと思っていた。
「まだ大学生やってるの? バカじゃない?」
サエと再会したばかりからこんな感じだ。外見は以前より少し大人になって、キレイになったようだが、何の魅力も感じない。
ただ人脈を作りたかっただけなのに、恥ずかしいからと彼女の友達の前で家庭教師だったことは一切名乗らせなかった。それでオレはけっこうショックを受けていた。その時に隣にいたのがミライだった。ミライは不器用ながらも、必死にオレを癒した。
サエは高校時代からアズミの嫌うタイプでもあった。普段オレの話なんか聞いてないクセに、テスト前になると、どこが出るのって聞いてきた。それに対して、そんなの分かるわけないだろって怒鳴ってしまったことがあった。
分からないところを教えてあげるのが家庭教師の仕事だから、分からないは禁句だ。そんなことぐらい分かっていたが、高い学力に合わせて、勉強を教えていくのに限界を感じていたのだろう。
会社を通してやっていたので、それをきっかけに教師交代になった。事実上のクビだ。