現在と過去1
スマホで少しずつ投稿する方が読んでくれる方が多いので、しばらくはそういう形にします
「どぉ!?きょう」
いつものクセで聞いていた。桜井杏子実はいつも通り仕事の報告をした。これは決して義務なんかではない。好きでやっていることだ。アズミの明るく笑う姿を見ると、安心するのだ。
始まりは彼女が入社してきて間もない時に一緒に仕事をするチャンスが巡ってきたことだ。彼女の甘酸っぱい香りに惹かれて、食事でも誘うつもりで聞いてみた。
聞き方が可笑しかったのか、彼女は笑いながら、「今日は杉本君と一緒で楽しかったです」と小学生のような感想を返しただけだった。それが聞きたくて、オレは毎日のように同じ質問を繰り返していた。
一日の出来事を聞きたいなら、「今日はどうだった?」とか聞くのが普通だろうが、オレは敢えて過去形を使わない。アズミに過去のことを振り返って欲しくなかった。今を生きて欲しい。
オレ達は同郷だが、ずっと同じ学校に通っていたわけではない。小、中学校は隣同士の学校で高校はアズミがオレよりワンランク上の進学校で大学になって初めて一緒になった。
アズミは仕事が終わるとすぐに親友の木下優芽と帰っていった。ユーメもオレ達と一緒の大学でアズミとは同じ学部の出身だが、同郷ではない。アズミが大学に入ってからできた友達だった。
オレ達は同い年だから、一緒に仕事をすることも多いが、オレは大学の時からアルバイト入社していて、彼女達よりほんの少しだけキャリアがあり、最初は教える立場だった。それがいつの間にかに逆転していて、そんな立場ではなくなった。
オレはユーメからアズミの過去の情報を聞き出していたが、それらは皆、大学に入ってからのことだった。アズミはユーメにも過去のことを語ろうとしない。それはとてもつらい過去を持っているに違いないと、いろいろ想像しているうちに二年が過ぎた。